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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第1節 踊る戦乙女の里帰り
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32 挑発してる方がムカついてる

長々と更新しないですみませんでした。

色々と忙しくて……。

今は落ち着きました。

「……あー、笑った笑った」


 涙が出るほど笑った私は、ふう、と息を吐く。

 ここまでツボにはまるとは思わなかった。引っ込み事案なリュリュの姿で、あんな男口調になられちゃあねぇ。


「で、なんだっけ?」


 目の涙を拭いながら聞くが、何の言葉も返ってこない。


「ねえ、タローマティ。何の話してたんだっけ、って聞いてるんだけど」

「…………お前、変ってよく言われないか?」

「言われるけど……。急に何?!」


 それ、一番に聞くことなのかなぁ?!

 確かに、いきなり笑い出したのは変だったかもしれない。でも、いきなりそんな質問投げかけてくる人いる?! 話に関係ないよね?!


「流石、踊る戦乙女(ヴァルキリー)だなぁと。おかしいくらいに強い奴は、やっぱり性格もおかしいんだな」


 ははっ、と乾いた笑いをするタローマティ。その笑い、ムカつくなぁ。


「で? そろそろ本題に戻らない? あんた、なんか聞いてきたよね?」


 笑ってたから、何を聞かれたか、良く覚えてないのだ。

 お前が話を逸らしたのによく言うよ、とタローマティは呟くと、すっと威圧感のある顔つきに変わる。


 ――――流石、上級悪魔。中々強そうじゃない。


「お前はいつ、どうして、僕が上級悪魔だと、リュリュ・ゼビネじゃないと気がついたんだ?」

「最初見たときからだよ。何故かって決まってるじゃん。()()()()()()()()()。あんた、リュリュを殺したわけじゃないんでしょ?」

「僕、結構誤魔化すの上手いって思ってたんだけど、一目でばれちゃってたのか」

「……あんたは殺さないんだね」


 生きている人間を乗っ取る時、少なからず魂に濁りが生じて、違和感がある。それを感じ取れる人間も少数だけどいるので、こんなことを言うのもあれだが、殺してしまった方が手っ取り早い。

 サルワは必ず殺すって言ってたし。


「殺したらつまらないだろ」

「は?」


 タローマティの口から出たのは、なんとも悪魔らしい言葉だった。


「僕はね、持ち主の精神力を弱らせて、身体の主導権を握る瞬間がたまらなく好きなんだよ。まあ、リュリュ(この子)は簡単すぎてつまらなかったけどね」


 リュリュなら、あっさり悪魔に屈しちゃうだろうなぁと納得してしまう。『ここはなんてこと言うの』って怒るところ何だろうけど。

 そういうのは、ヒロインとかヒーローの役目で、案の定、ミリッツェアもブライアンも、タローマティを睨んで、そういうことを口々に言った。悪役令嬢の出番なんて元々なかった。


「じゃあ、私からも質問いい? どうして、ミリッツェアの魔法を封じたの?」

「そんなの決まってるだろ? 聖魔法は僕らの天敵だからさ」

「そうだろうね。でも、私が聞きたいのはそういうことじゃない」


 真面目な顔をして、私はタローマティを見つめる。


「どうして、ミリッツェアだけを狙ったの? 狙うなら、私を狙えば良かったのに」


 そして、挑発するように言ってやる。

 だって絶対、ミリッツェアより私の魔法を封じた方が、良いと思わない? 自慢じゃないけど、私結構強いんだけど?


 すると、タローマティは嘲笑を浮べた。


「馬鹿なの? できたならとっくにやってるよ」

「はあ?」

「僕の得意な魔法は、魔法封じの魔法だけど、この魔法、聖魔法と相性が悪い。だから、ミリッツェアの魔法を封じるのにも3ヶ月以上の時間を費やした。その上、踊る戦乙女(ヴァルキリー)の魔法を封じろだって? 無理な話だ」


 そんなこともわからないのか、と呆れるようにため息を吐くけど、ちょっと待ってほしい。

 内容は自分の力不足を嘆いてるように聞こえるんだけどさ、どうして私が馬鹿にされてる感じがするの? 喋り方の問題?

 とにかく、タローマティ、すっごくムカつく。


「つまり、あんたが弱いってこと?」

「ま、そういうことだね」


 ぐぬぬ、なんだこいつの余裕はっ!

 あっさりと認めやがって、少しは挑発に乗れよ、くそ野郎っ!!


「……あんたを倒せば全部解決できる?」

「それはどうだろうね?」


 だからなんでこいつこんなに余裕なのさ?!

 私が本気を出したら、あんたなんて一瞬で消えちゃうのに!!

 ムカつくっ!


 …………て、思考が何だか、雑魚キャラが強い相手を前に見せるあれに似てるな。


 あれ? これ私がやられちゃうパターン? 

 いやいや、まさかね!!!


「まあ、どっちでもいいや。あんたは倒す。これは確定事項なんで」

「あ、一応言っておくけど、僕が消えても、ミリッツェアにかけた魔法は消えないからね。解除方法はただひとつ。僕自身が魔法を解くことだけ」


 私の殺気を感じたのか、命乞いにも聞こえる言葉をタローマティは発する。

 ふ~ん、なるほどね。こうやって、私に躊躇させようというわけか。


「そうか。

 …………そんなのも関係ないけどねっ!」


 そう言うのと同士に、私は頭の中で構築していた魔法を発動するため、クラウソラスを抜いて、歌って踊る。


「正義の力を宿した光の鎖。聖なる加護を受けし光の鎖。正義を持って、悪を捕らえよ。光を持って、闇を消し去れ!」


 クラウソラスから伸びた4本の光の鎖が、タローマティの手足を捕らえ、動きを封じた。

 拘束したのは、逃げられないようにするため。前にサルワに逃げられた時、悔しかったので、こういう魔法を創っておいたのだ。

 私は、学習する女なのだ。


「要するに、あんたがミリッツェアの魔法を維持するのに使っている魔力を、私との戦闘に持ち込まないといけないくらい、追い詰めれば良いんでしょ?」

「……っ!」

「私、これでも()()()()()()上手だから、安心してね?」


 初めて焦りを表情に出したタローマティに向かって、私はにっこりと微笑んだ。


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