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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第1節 踊る戦乙女の里帰り
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25 急降下からの~!

 そうして、私たちは空を飛び、下の様子を見下ろした。


「う~ん、街の方が結構やばそうだねぇ」


 王城にはまだ魔物たちの被害は出てないものの、街ではかなりの騒ぎになっているようだ。冒険者とか魔法や剣の嗜みがある人たちが応戦しているようだけど、押されてる。圧倒的に数が足りない。


 まあ、アイオーンに比べて、マカリオスは比較的平和だもんねぇ。

 というか、アイオーンの魔物が多すぎるのだ。だからこそ、冒険者がたくさんいるんだけど。


「これは一回、聖魔法かけちゃった方が早いなぁ」

「……驚くほど、落ち着いてるな」


 私が呑気に呟くと、ファースが震える声で言う。


「もしかして、怖いの?」

「それもあるけど、そうじゃない。この速さで飛ばれると、話すのもまともにできないんだよ」


 あー、確かに。結構な速さで飛んでるもんねぇ。

 だからさっきから、皆静かだったのか。なるほどなるほど。


「でもまあ、そろそろ街に下りるから」

「……もう着いたのか」

「ぶっ飛ばしてるんだから、当たり前でしょ。じゃあ、下りるよ~!」


 そう言って、私は一気に下降する。

 声にはなってないし、顔もよく見えないんだけど、ファースたちがこの急降下に驚いているのがひしひしと伝わってきた。


 そうしているうちに地面が近づく。

 最後は勢いを緩めて、すとんと綺麗に着地できるようにした。だから、転ぶ人なんていなかった。


「はい、到着~!」


 そう言ってファースたちの方を振り返ると、皆ぐったりした顔をしていた。

 これからが本番だって言うのに、大丈夫なの?


「……エイリー、あれはない」

「はい?」


 グリーの非難と疲れが混じった声で、そんなことを言った。ファースもレノもそうだそうだと言いたげな顔をした。

 あれ、私なにかしたっけ? 責められる理由がわからない。


「爆速でまだ空を飛んだのは許せるが、なんだったんだ、あの急降下?! 心臓に悪いって話じゃないぞ?!」

「え? 楽しくない?」

「楽しくないっ! 万が一でもあったらどうしてたんだっ!」

「万が一なんてあるわけないし、あったとしてもなるようになってたよ」

「…………」

「その、信じられないって顔、やめてもらえる?」


 そう言っても、グリーはやめない。というか、もっと信じられないって顔になった。

 ファースたちも呆れた顔をしている。解せぬ。


 こういうの、ジェットコースターみたいで、楽しくない?!

 スリルがあってよくない?!


 なんでそんなに、“マジありえない”みたいな顔されないといけないの?!

 無事に着地できたんだから、よくない?!


 ――――反論したところで、言い返され、挙げ句の果てには丸め込まれそうな未来しか見えないから、ここは大人しく話題を変えよう。そうしよう。


「……ぼちぼち始めて行こうか」


 そう言う魂胆で、無理矢理話題を変えた。

 私は魔法を使うために、クラウソラスを抜く。


「聖なる光が煌めいた。全ては等しく浄化され、この他は再び平和を取り戻す。穢れたものは灰になり、聖なるものは輝きを増す!」


 そして、呪文を歌いながら、踊る。

 クラウソラスに魔力を宿し魔物を集めることをしなかったから、どれだけ浄化できるかわからない。けれど、この辺にいる魔物は全て倒せたはずだ。


「これでファースたちもやりやすいでしょ」

「ああ、凄くやりやすくなった」

「やり過ぎだけどな」


 にかりと笑った私を見て、若干ファースたちは苦笑いになった。


「やりすぎ?」

「魔物、今ので半分くらいは消えたんじゃないのか?」

「半分? そんなに?」

「かなり先まで、魔法の光が見えたぞ」


 レノは目がいいのか、結構遠くまで見えるようだ。


「そうなんだ。倒す数が減ってラッキーだね」

「…………エイリーの規格外にはもう驚かないからな」

「え? ごめん、ファース。なんか言った?」

「別に何にも」

「そっか。じゃあ、私は行くから」

「了解。こっちは任せろ」


 頼もしい仲間たちだ。

 だから、私は不安になることもなく、心して大物に取りかかれる。


 こんな仲間ができるなんて、少し前までは思ってもなかったなぁ。

 人生、何があるかわからないね。


「さぁて、ちゃっちゃと終わらせて、美味しいものを食べるんだ!」


 ぱし、と気合いを入れるため、私は頬を叩く。


 邪竜に、下級悪魔。

 美味しいもののためなら、お前らなんて、秒で倒してやるんだから!


 残りの魔物を倒すため、街の中心部へと向かったファースたちの背中を一度見てから、私は邪竜たちのいる方向へ飛んで行く。



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