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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第1節 踊る戦乙女の里帰り
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14 溺愛もほどほどにしてください(小声)

 私が抱き枕のように抱きしめられ、そしてコンスタントさんの次は、マーシーさん、その次にルークさん、と回されて、1時間が経過した。

 未だに終わる気配はない。


「あの……」

「どうかしたか?」

「もう良くないですかね?」

「まだ足りないわっ! 旦那様、そろそろ交代の時間です」


 コンスタントさんに抱きしめられていた私は、今度はマーシーさんの腕の中に収まる。

 ここまでされたら、もう良い匂いだなぁとか感じないよ! もう飽きたよ!


 使用人たちは、諦めているらしく、さっさと自分の仕事に戻っていった。

 ねえ、止めてよ?! 止めようよ?!

 いや、止めても止まらないこと、分かってるんだろうけどさ。でもさ、私が可哀想だと思わないわけ?!



 そして、さらに2時間が経過。

 ここまで来ると、「私はどうして抱きしめられてるんだ?」「そもそも抱擁を交わすわけとは?」と、意味のない質問の答えを探し始める。


「皆様、夕食の時間です。いかがされますか?」


 そんなことをしていると、執事がやってきて、そんなことを言った。

 救いの手だ!! これでようやく解放される!


「もう少し後にしてくれ」


 そんな執事の言葉をコンスタントさんがばさりと切り落とす。うんうん、とマーシーさんとルークさんも頷く。

 嘘?! まだ足りないの?! こんなに抱きしめたのに?!


「承知しました。ではいつにいたしましょう?」

「そうだな……」


 夕食なんていらない、ずっと抱きしめていたい、という本音が、コンスタントさんの顔に浮かんでいた。

 表情でバレるのもどうかと思うけどさ、……マジで? マジで言ってます?


 執事もそれを察したようで、一言付け加えた。


()()()()()()()()()()()()()()ですので、料理人が張り切っていましたが」

「それもそうだな。では、今すぐ準備してくれ」


 執事の“久しぶりの家族そろっての夕食”という言葉に反応して、コンスタントさんは即座に手のひらを返した。

 清々しいなぁ……。


 というか、執事すげえ。主人の扱い方、よくわかっていらっしゃる。

 この人たち、扱いやすいといえば、扱いやすいんだけど。


 そうして私は、ぎゅう地獄から脱出することが出来たのだった。

 この先にまた別の地獄があることは、知ってますよ、ええ。



 * * *



 夕食は、ルシールの好きなもの三昧だった。

 高そうな肉、高そうな魚、高そうな野菜……。


 庶民派の私としては、もっと家庭的な料理の方が良かった。

 けれど、流石公爵家の料理人。とっても、美味しかった。庶民派の私も美味しくいただけた。

 くそ、これだから金持ちは!


 ただ量が多すぎて胃もたれ寸前だった。

 脂っこいもの多過ぎ……。


 うろ覚えのテーブルマナーで、次々に料理を平らげていくが、どんどん料理が出てくるわ、コンスタントさんたちが「これもいる?」「これも好きだったよな」と分けてくるわ、で減らない。

 私そんなに食べられない……。というか、人の食べる量じゃない……。


 私が食べるのに一生懸命で、会話をする余裕はなかった。

 でも、皆は幸せそうに私の食べる姿を見ていたから、満足だったんだと思う。



 * * *



 夕食が終わって、食後のティータイム。

 お腹いっぱいすぎて、お茶どころじゃないんだけど。と思いながら、クッキーを口に運ぶ。美味しい。もう一つ口に運ぶ。美味しい。

 甘いものは別腹って言うけど、本当だったんだな!


 皆がゆったりと落ち着きを取り戻すと、コンスタントさんの顔つきが変わった。

 それを受けて、マーシーさんやルークさんの表情も真剣なものになる。

 妙な緊張感がその場を支配し、私もカップを置いた。


 ……何が始まるんだ?


()()()()だったかな」

「……はい」


 コンスタントさんが、私の名前を呼んだ。

 さらに緊張感が高まる。本当何が始まるの?!


「話を始める前に、一つだけ質問だ。

 ……君は、ルシールの姿をし、ルシールの記憶を持った、別人、ということで間違いないんだな?」

「……そうです。私は、ルシールなどの記憶が融合してできた、別人です」


 ごくり、とつばを飲む音が聞こえた。つばを飲む音が聞こえるほど、場は静かだった。


「そうか……」


 コンスタントさんは深刻そうな顔をして……、


「まあ、何の問題もないな!」


 と笑った。


「はい?」


 流れがよくわかりませんが??

 今の流れだと、「君はうちの娘ではなーい」「娘の体を返せー」みたいな言葉が続く流れじゃなかった?

 え、違うの?! 私が間違ってるの?! そう思い、マーシーさんとルークさんを見るが、二人ともうんうんと頷いていた。


 ……私が間違っているみたいだ。断じて認めないけど!!


「ルシールたんの姿で、ルシールたんの記憶を持ってるんだろう? じゃあそれは、ルシールたんじゃないか!」

「いやいやいやいや」

「ええ、旦那様の言う通りですわ! 私たちの愛すべきルシールはここにいるのだから、問題なんてこれっぽちもないですわ」

「いやいやいや」

「だから、エイリーも遠慮せず、俺たちを家族だと思ってくれてかまわない! むしろそう思ってくれ!」

「いやいや……」


 こいつら、頭大丈夫か?!

 お前たちの愛するルシールは、そんなものだったのか?!


「……それでいいんですか。こんなに性格違いますけど」

「「「それもそれで可愛いから大丈夫」」」

「…………」


 いや、もうここまで来たら、凄いとしか言いようがないよね。

 昔から手遅れなんだから、もうどうすることもできないよね。


 なんでこいつら、ルシールに対してだけはこんなに馬鹿なんだ?!


「それに、よく見たらルシールちゃんに似ているところあるわ」

「母様もそう思いました?」

「お前らも気づいていたか」

「あらあら、私のルシールちゃんに対する愛を舐めないでください」

「そのお言葉、お返しします」

「ほう……。では、どこが似ていると思った?」


 そして、何故か『エイリーとルシールが似ている所』語りが始まってしまった。

 皆さん、熱中して議論を交わしている。



 あの、すごく恥ずかしいんで、やめてもらえません?

 なんて言えるはずもなく、言ってもやめてもらえるはずないだろう。


 私はあきらめて紅茶を飲んだ。


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