12 ファース(ツッコミ役)が恋しくなる回
えーと、状況がよくわからないので、一度整理してみようと思う。
私はブライアンたちに、無理矢理王城に連行され、お偉いさんたちに囲まれながら、尋問みたいなものをされた。
現実を見たくないあまり逃避して、話を聞いてなかった。そのことを正直に言うと、宰相さんが切れ、いちゃもんをつけられた。
そのことに腹が立ったので、力を外に出し威圧すると、王様が爆笑した。今ここ。
「……つまり、王様は狂ってるってこと?」
「お前、死にたいのか?」
「あ、口に出てた?」
ぎろりと恐ろしい顔で宰相さんが睨んでくるので、慌てて口を押さえる。今更すぎるけど。意味ないけど。
「ルシール・ネルソンは少なくとも、礼儀はわきまえていたのだがな」
はあ、とやれやれと宰相さんはため息を吐いた。
なんだそれ。むかつくなぁ。
「ルシール・ネルソンと比べられるのは心外です。私、あんなのよりよっぽどマシですよ」
「当たり前のように無礼を働くお前に言われても、説得力はない」
「私はあんなのより性格はよっぽどいいです!!」
私と宰相さんが睨み合いを続けていると、私の服の裾をブライアンが引っ張ってくる。
「お願いだから黙っていてくれ。本当に頼む」
そして耳元でこう言った。彼の顔は真っ青だ。
やっぱり具合が悪いのかな?
大丈夫、とブライアンに声をかけようとすると、王様の声がそれを遮った。
「そこまでにしろ。話が進まない」
「申し訳ありません」
王様の一声に、宰相さんは慌てて頭を下げる。
こんな感情的な人が宰相でいのかなぁ。少し不安になるよね。
こほん、と王様が咳払いをし、仕切り直す。
「しつこいようだが、お主は踊る戦乙女のエイリーで間違いないな」
「はい」
「お主については、ブライアンから説明を受けているが、それに嘘偽りはないんだな」
「ブライアンが、私の説明通りに報告していれば」
ブライアンがどう報告しているかなんて、私にはわからないもんね。さっきは話聞いてなかったし。
「……お主、違った言い方はなかったのか?」
「どういうことですか……?」
「もう少し、場にふさわしい話し方をしてくれ」
「すみません。そういうの苦手です」
これでも頑張ってる方なんだよ!
貴族の知識はあるとは言え、基本は日本の庶民が人格のベースだし、アイオーンでの冒険者暮らしに慣れちゃったんだからしかたないんだよ!
こういう雰囲気自体苦手なんだから、勘弁して欲しい。
ぎろりと宰相さんにまともや睨まれたが、王様に注意されたので、口出しはしてこない。
王様は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに仕切り直す。
「まあ良い。ここに半ば無理矢理連れてきたのは、私たちの方だ」
この王様、話がわかるじゃん。
「とにかく今は、話を進めよう。
エイリー、お主の体は“ルシール・ネルソン”なのだな?」
私が頷くのをみて、王様は言葉を続ける。
「ルシール・ネルソンの犯した罪は知っているな?」
「はい」
別人ですけど、記憶はあるので。
というか、この流れ怪しいことになってきたぞ。
「ということはだ、エイリー。お主がルシール・ネルソンの与えられるはずだった罰を受けなければならない」
知ってた。そういう流れ来るの、私知ってた。
絶対そんなようなこと言われるだろうとは思ってた。
「記憶はあるとは言え、ルシール・ネルソンとエイリーは全く別人だ。だが、お主に罰を与えないまま、有耶無耶にすることはできない」
中身はともかく、見た目は完全にルシール・ネルソンなので、罰さないと示しがつかないのか。まあ、わかるけど納得はできないよね。
「本来なら死刑だが、魔王が復活した今、お主を処刑することはできない。そんなことをしたら、マカリオスは世界の敵になってしまう」
大げさな。私ひとりいなくたって、魔王は討伐できるだろ。
「それにお主は、ルシール・ネルソンではない。よって、罰は特殊なものとする」
それに死刑にしたら、ネルソン公爵家が暴動とかストライキとか起こしそうだもんね。親バカであったことがこんなに嬉しかったことはないよ……。
てか、この王様、話長いなぁ。
流石に遠慮してツッコミを入れるのは、心の中だけにしてあげたけど、罰を言い渡すまでが長すぎ。
結論を最初に言おうよ。疲れるよ。だから私、話聞いてなかったんだよ。
「エイリー。お主の償いは、魔王討伐を持って完了したこととする」
「……はあ?」
どういうことだ?
罰が魔王討伐??
元々する予定だった、魔王討伐???
罰でも何でもなくない?
この王様、やっぱり狂ってるんじゃない?
「そんなに驚くことか」
「はあ、まあ……。だってこっちは、魔王討伐する気満々だったんですよ? それを急に罰にするとか言われても」
なんか周りは皆納得しているようで、余計に頭に「?」が浮かぶ。
そんな私を見て、隣にいたブライアンが解説をするべく、声を発した。
「魔王は今まで、討伐されることなく、封印されていただろ? つまりそういうことだ」
「は?」
「父上は、魔王を討伐しないと許しはしない、と言っているんだ」
「それが?」
「これまで通り、封印じゃ駄目だといっているんだ」
「ふ~ん。それが?」
封印なんて、するつもりなかったし。
あのむかつく魔王を倒さなきゃ、気がすまないんだよ。
「それがって……。命と引き換えにしても魔王を倒せってことだぞ?」
「あはは、何言っちゃってるの。あんな魔王に負けるわけないじゃん」
ははは、面白い冗談言うね~。
なんて、私が笑ってるが、周りは皆ぽか~んとしていた。
こいつ何言ってるんだ? 大丈夫か? みたいな感じで哀れみの目を向けてくる。
「……あの、どうかしました?」
「いや、その、それでいいのか?」
「私に聞くことですか?」
「それもそうだな」
こうして、無理矢理始まった私に対する尋問は、あやふやな歯切れの悪い感じで終わったのだった。
あ、ルシール・ネルソンのことについて、謝るの忘れてた。
まあいっか。
やっぱり、ファースがいないと締まらないなぁ……。




