表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第2章 魔王討伐をするようです。/第1節 踊る戦乙女の里帰り
160/232

12 ファース(ツッコミ役)が恋しくなる回

 えーと、状況がよくわからないので、一度整理してみようと思う。


 私はブライアンたちに、無理矢理王城に連行され、お偉いさんたちに囲まれながら、尋問みたいなものをされた。

 現実を見たくないあまり逃避して、話を聞いてなかった。そのことを正直に言うと、宰相さんが切れ、いちゃもんをつけられた。

 そのことに腹が立ったので、力を外に出し威圧すると、王様が爆笑した。今ここ。


「……つまり、王様は狂ってるってこと?」

「お前、死にたいのか?」

「あ、口に出てた?」


 ぎろりと恐ろしい顔で宰相さんが睨んでくるので、慌てて口を押さえる。今更すぎるけど。意味ないけど。


「ルシール・ネルソンは少なくとも、礼儀はわきまえていたのだがな」


 はあ、とやれやれと宰相さんはため息を吐いた。

 なんだそれ。むかつくなぁ。


「ルシール・ネルソンと比べられるのは心外です。私、あんなのよりよっぽどマシですよ」

「当たり前のように無礼を働くお前に言われても、説得力はない」

「私はあんなのより性格はよっぽどいいです!!」


 私と宰相さんが睨み合いを続けていると、私の服の裾をブライアンが引っ張ってくる。


「お願いだから黙っていてくれ。本当に頼む」


 そして耳元でこう言った。彼の顔は真っ青だ。

 やっぱり具合が悪いのかな?


 大丈夫、とブライアンに声をかけようとすると、王様の声がそれを遮った。


「そこまでにしろ。話が進まない」

「申し訳ありません」


 王様の一声に、宰相さんは慌てて頭を下げる。

 こんな感情的な人が宰相でいのかなぁ。少し不安になるよね。


 こほん、と王様が咳払いをし、仕切り直す。


「しつこいようだが、お主は踊る戦乙女(ヴァルキリー)のエイリーで間違いないな」

「はい」

「お主については、ブライアンから説明を受けているが、それに嘘偽りはないんだな」

「ブライアンが、私の説明通りに報告していれば」


 ブライアンがどう報告しているかなんて、私にはわからないもんね。さっきは話聞いてなかったし。


「……お主、違った言い方はなかったのか?」

「どういうことですか……?」

「もう少し、場にふさわしい話し方をしてくれ」

「すみません。そういうの苦手です」


 これでも頑張ってる方なんだよ!

 貴族の知識はあるとは言え、基本は日本の庶民が人格のベースだし、アイオーンでの冒険者暮らしに慣れちゃったんだからしかたないんだよ!

 こういう雰囲気自体苦手なんだから、勘弁して欲しい。


 ぎろりと宰相さんにまともや睨まれたが、王様に注意されたので、口出しはしてこない。

 王様は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに仕切り直す。


「まあ良い。ここに半ば無理矢理連れてきたのは、私たちの方だ」


 この王様、話がわかるじゃん。


「とにかく今は、話を進めよう。

 エイリー、お主の体は“ルシール・ネルソン”なのだな?」


 私が頷くのをみて、王様は言葉を続ける。


「ルシール・ネルソンの犯した罪は知っているな?」

「はい」


 別人ですけど、記憶はあるので。

 というか、この流れ怪しいことになってきたぞ。


「ということはだ、エイリー。お主がルシール・ネルソンの与えられるはずだった罰を受けなければならない」


 知ってた。そういう流れ来るの、私知ってた。

 絶対そんなようなこと言われるだろうとは思ってた。


「記憶はあるとは言え、ルシール・ネルソンとエイリーは全く別人だ。だが、お主に罰を与えないまま、有耶無耶にすることはできない」


 中身はともかく、見た目は完全にルシール・ネルソンなので、罰さないと示しがつかないのか。まあ、わかるけど納得はできないよね。


「本来なら死刑だが、魔王が復活した今、お主を処刑することはできない。そんなことをしたら、マカリオスは世界の敵になってしまう」


 大げさな。私ひとりいなくたって、魔王は討伐できるだろ。


「それにお主は、ルシール・ネルソンではない。よって、罰は特殊なものとする」


 それに死刑にしたら、ネルソン公爵家が暴動とかストライキとか起こしそうだもんね。親バカであったことがこんなに嬉しかったことはないよ……。


 てか、この王様、話長いなぁ。

 流石に遠慮してツッコミを入れるのは、心の中だけにしてあげたけど、罰を言い渡すまでが長すぎ。

 結論を最初に言おうよ。疲れるよ。だから私、話聞いてなかったんだよ。


「エイリー。お主の償いは、魔王討伐を持って完了したこととする」

「……はあ?」


 どういうことだ?

 罰が魔王討伐??

 元々する予定だった、魔王討伐???


 罰でも何でもなくない?

 この王様、やっぱり狂ってるんじゃない?


「そんなに驚くことか」

「はあ、まあ……。だってこっちは、魔王討伐する気満々だったんですよ? それを急に罰にするとか言われても」


 なんか周りは皆納得しているようで、余計に頭に「?」が浮かぶ。

 そんな私を見て、隣にいたブライアンが解説をするべく、声を発した。


「魔王は今まで、討伐されることなく、封印されていただろ? つまりそういうことだ」

「は?」

「父上は、魔王を()()しないと許しはしない、と言っているんだ」

「それが?」

「これまで通り、封印じゃ駄目だといっているんだ」

「ふ~ん。それが?」


 封印なんて、するつもりなかったし。

 あのむかつく魔王を倒さなきゃ、気がすまないんだよ。


「それがって……。命と引き換えにしても魔王を倒せってことだぞ?」

「あはは、何言っちゃってるの。あんな魔王に負けるわけないじゃん」


 ははは、面白い冗談言うね~。

 なんて、私が笑ってるが、周りは皆ぽか~んとしていた。


 こいつ何言ってるんだ? 大丈夫か? みたいな感じで哀れみの目を向けてくる。


「……あの、どうかしました?」

「いや、その、それでいいのか?」

「私に聞くことですか?」

「それもそうだな」


 こうして、無理矢理始まった私に対する尋問は、あやふやな歯切れの悪い感じで終わったのだった。


 あ、ルシール・ネルソンのことについて、謝るの忘れてた。

 まあいっか。


 やっぱり、ファースがいないと締まらないなぁ……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ