6 元婚約者ブライアンと元宿敵ミリッツェア
ごくり、と音を立てて唾を飲む。
このドアの先に、ブライアンとミリッツェアがいるのか……。
私の記憶の中に、色濃く残るふたり。
私が、勝手に憎んだふたり。
私は恨みもないし、怖くもないふたりだが、勝手に体が震える。体が覚えてるってやつなんだなぁ……。
――――なーんて、今から気負っていても仕方がないので、私は躊躇いなくドアを開ける。
一応言っておこう。
――――やらかした。
ノックをすることもなく、いきなりそして、勢いよくドアを開けてしまった。
それは、まあ大した問題じゃない。
そこにいた、ブライアンとミリッツェアが仲睦まじそうに、いちゃついていた。
特別なことはしていない。ただ、用意されたお茶を飲んで、楽しそうに話しているだけだ。
本当にそれだけだ。強いて言うなら、並んで座っているふたりは、少々距離が近い。手と手が簡単に触れ合ってしまいそうだ。
本当にそれだけなのだ。これ見よがしに、触れ合ったり会話をして、イチャイチャしているわけではない。
でも。どうしてだろう。とっても、眩しい。なんか見てはいけないものを見てしまった気分だ……。
互いに心底愛し合っているのが、醸し出す雰囲気で感じられた。
「……なんかごめんなさい。どうぞお幸せに」
理由はわからないが、とても申し訳なくなったので、私は静かにドアを閉めた。
「……入らないのか?」
「なんか、うん。入っちゃダメな雰囲気でしょ、あれ」
気まずそうに私が言うと、ファースは複雑な表情をした。
「まだ、気まずいのか?」
「え?」
「ほら、ミリッツェア嬢たちにしたことが申し訳なくて顔を合わせられないとか。実はまだ、ブライアンが好きとか」
「……は?」
何言ってるの、ファース。
そんな感情、抱いたことないですけど? 特にブライアンを好きとか言うの。
「違うのか?」
「ないない。と言うか、そんなこと考えたこともなかった」
「そっか。それなら良かった」
「良かった?」
「……わざわざ聞かないでくれるか」
私がなんとなく聞き返した言葉に、ファースはトマトのように真っ赤に染まって顔を隠すように、手で覆った。
――――え、何、照れてるの? なんで、なんで?
猛烈に理由を尋ねたかったが、聞くなと言われてしまったので、何回聞いても教えてくれないだろう。
「どうして? どうして照れてるの?」
それでも聞く。それが私だ。
「……絶対に教えない」
「ええ、教えてくれてもいいじゃん」
私はファースの照れてる顔を覗き込むようにして聞く。ファースは必死に隠す。
そんなこんなで、私たちは仁義なき戦いを繰り広げていた。
そして、戦いはある声で終わった。
「……なあ、そろそろいいか?」
部屋のドアの隙間から、ブライアンとミリッツェアがこちらを覗き込んでいた。
ふぁ?! 見られてたの?!
「もう、水を差したらダメじゃないですか。おふたりとも、とても楽しそうです」
「でもあいつら、俺らを見てドアを閉めたじゃないか。あいつらの方がよっぽどイチャイチャしてるぞ?」
ブライアンがそんなことを言うので、私は思わず叫んでしまう。
「イチャイチャなんかしてないし!」
「はあ? どう見たって、イチャイチャしてただろう」
「してない! あんたたちの方がよっぽどイチャイチャしてた!」
「俺らはただ、話してただけだぞ?」
「何もしてないけど、雰囲気が! 雰囲気がいやらしかった!」
「はあ?!」
私の言葉に、ブライアンは顔を赤く染めた。それが怒りから来ているのか、恥ずかしさから来ているのかは私にはわからなかったけど、なんか勝った気分だ。
「お、お前らは、にやけながら楽しそうに、じゃれあっていたじゃないか!」
「にやけてない」
「にやけてたね!」
「にやけてないです〜! というか、そんな私たちの様子をふたりで仲良く見てたわけ? わー、悪趣味」
「それはお前が、見ちゃいけないものを見た、と言わんばかりにドアを閉めるからだろう! そんなことはないと伝えるために、ドアを開けたらあの有様だ!」
「最初の方から見てたの?! 声かけてくれればいいじゃん!」
「かけられる雰囲気じゃなかったんだよ!」
そんな私とブライアンの戦いは、あーだこーだとしているうちに激しくなり、脱線していった。どうでもいいことをふたりで言い合っていた。
そんな私たちを見ていたファースとミリッツェアは、呆れたような表情を浮かべ、私たちを止めてきた。
「エイリー、そろそろいいんじゃないか」
「ブライアン様、落ち着いてください」
そんな彼らに私たちは言う。
「負けられない戦いなの、止めないで」
「負けられない戦いなんだ、止めるな」
何故だかそこだけは息がぴったりだった。
「真似するな!」
「そっちこそ!」
そのことに腹が立った私たちは、また口論を始める。
ファースとミリッツェアが、はあ、と盛大なため息をついたような気がした。でも、きっと気のせいだろう。
「いい加減にしてくださいませ! 己の責務をお忘れですか!」
そして、ミリッツェアの叱責が放たれる。穏やかな顔つきから、無表情へと変わり果てたミリッツェアは、ブライアンのことをじっと見ていた。
その恐ろしさに、私もブライアンも思わず口を閉じる。
「ブライアン様?」
「すみませんでした」
ミリッツェアの殺気に耐えられず、ブライアンは即座に謝った。
うわあ、ミリッツェア怖い。ええ、こんな子だった?
「エイリー」
「何?」
そんなミリッツェアとは違って、ファースは本当に心底呆れた顔をしていた。
「どこまでも平常運転だな」
「でしょ」
「褒めてないんだなぁ……」
ニカッと笑った私を見て、またファースはため息を吐く。
何?! 何それ?!
「ミリッツェア嬢。こんな所で立ち話もなんですし、部屋の中で話しましょう」
「それもそうですね」
そんな感じで、私はブライアンとミリッツェアとの再会を果たしたのだった。
遂に出てきました!ヒロインと、ヒーロー!!
出てくるの遅い(笑)
しかも、対面の仕方がこれじゃあね。しまらないね。




