閑話 メリッサはあの日を忘れない
メリッサ視点の会話です。
これで、一章は終わりです!
やっと、色々なことがひと段落し、ふう、と私・メリッサは息を漏らしました。
ここは、王都にある一軒家。エイリーお抱えの情報屋になった私たちの新しい家です。2人で住むのにも広すぎるのに、今はひとりなので余計に広く感じます。チェルノはまだ治療を受けていて、家に帰ってきていないのです。
私たちは一応、罪人であるのに、エイリーの待遇が良すぎて、かなり戸惑っています。住む場所も用意してくれたし、必要なものもエイリーがお金を出して買ってくれました。
エイリーは、『前払いだから』とか『お金が有り余っているから』とか、言ってくれたけど、色々貰いすぎていて申し訳ないです。
それに一番驚いたのは、私たちを拘束しなかったことです。普通、罪人には行動を制限できたり、生活を監視できたりする契約魔法がかけられます。私たちの罪の重さからすると、ほとんど自由がない生活を強いられてるのが当たり前なのです。
エイリーは笑いながら、
『本当は契約魔法なんてかけたくないんだけど、かけないと国王様とかお偉いさんに睨まれちゃうから、一応かけるね。私の命令に背けないようにするのと、生活を監視できるやつ』
と言いました。理由がしょうもないですが、それでもやっぱりかけるんだなと思いました。
けれど、次に飛び出した言葉に、私は驚くことになります。
『まあ、私命令なんかしないから。するのは“お願い”。だから、嫌な時は断れるよ。あと、監視できるのは四六時中見てるわけじゃないから安心して。メリッサたちになんかあったときにすぐにわかると便利だから、かけとくだけだから』
私たちを疑うなんて微塵も考えていない笑顔を、エイリーは見せました。こっちが拍子抜けしてしまいます。
『私たちが裏切るって考えないんですか?』
なんだか怖くなってしまって、私は聞きました。
『なんで?』
エイリーはきょとんとした顔をするのです。
『だって、メリッサたちは生きるために仕方なくやってたんでしょ? それに、厳しい制約はムーシュの方にかけたから大丈夫だよ』
裏切るとしたらムーシュだと、エイリーは考えているんだろうなと思いました。それもまあ、馬鹿な考えだと言わんばかりに笑っていましたけど。
『でも万が一、万が一のためにかけさせて。私、これまで結構、悪魔にしてやられてるから……! お願い!』
なんて苦い思い出が、ムーシュに制約をかける理由だそうです。
本当、エイリーらしいなと思ってつい私は笑ってしまいました。そして、何があってもエイリーを裏切らないと、ひっそりと心に誓ったのです。
(確かに、エイリーらしかったよね)
くすくすと、ムーシュが笑う声が聞こえました。
「ムーシュ、私の思い出した記憶、見てたんですか?!」
(見てたんじゃなくて、流れ込んできたの)
ムーシュが反論をするけど、大差はないと思います。
(とにかく、やっと安心して生きていけるね、メリッサ)
「はい。こんなことになるとは思ってませんでした」
生きるために仕方なく、上級悪魔・アエーシュマの言う通り行動していた私たち。悪魔の気まぐれで殺されるか、私たちの悪事がばれ罪人として一生を終えるか、そのどちらかだと思っていました。
でも、まさか踊る戦乙女のエイリーと知り合い、こうして助けてもらえるなんて思ってもいなかったです。人攫いにさらわれた時も思いましたが、人生何が起こるかわかりません。良い意味でも悪い意味でも。
(出会いに感謝、ね)
「はい、そうですね。ムーシュに出会えなかったら、こうして私は生きていません」
(思わぬ流れ弾?!)
「なんでそんなに驚くんですか」
(エイリーとの出会いに感謝って意味じゃないの?!)
「勿論それもありますよ。でも、ムーシュに出会えたことも感謝したいんです」
人攫いにさらわれ、過酷な生活を強いられていた私の前に、突如現れた救世主。悪魔だったけど、私に生きる術を教えてくれ、優しくしてくれました。今の私があるのはムーシュのおかげです。
(改めて言われると照れるなぁ。あたしだって、あたしの目的のためにメリッサを助けたんだし)
「でも、私は今も生きています。他の悪魔は依り代を殺すって聞きます」
(わざわざすぐに殺す必要もないじゃん。あたしたち悪魔の寿命は長いし。それに体をもらうんだもん、対価だって必要でしょ)
「そういう所が優しいんです、ムーシュは」
(今日のメリッサは直球だなぁ)
「いつも直球のつもりです」
(いつもに増してってこと)
ムーシュは照れくさそうに言いました。照れてるムーシュってなんか新鮮です。
「感謝の言葉って、心機一転する時とかくらいしか、改めて言えないじゃないですか」
(それはそうだけど。まあ、受け取っておくね。普通に嬉しいし)
「そうしてください」
窓から夕日が差しこんでくる。穏やかな時間が流れていきます。
(メリッサ、あたしからもありがとうって言っておくね)
「わかりました」
ムーシュが感謝の言葉を何故述べたのかはわかりません。
でも、きっと。
出会いにありがとう、と言ったんだと、私はそう思いました。
メリッサ×ムーシュで二次創作書きたい方がいたらどうぞ……(笑)




