135 ファースのターンです
静寂。
恐ろしいくらいに、静かなんですけどおおお?!
グリーとレノがデートに旅立ってから、この場は静まり返った。
謎にファースにエールを送って、グリーたちが帰ったから、余計に気まずい。
なんなの、なんなの、なんなの。
早く要件を言ってください。
無駄に緊張しちゃうでしょ。今も心臓ばっくんばっくんいってるんだからね?
手も湿ってきたし。
ああ、私緊張しすぎでしょ。なんでこんなに緊張してんの。あははは。
「…………」
「…………」
まだ静か。
嘘おお。まだ話し始めないの? え? 嘘でしょ?
私もう、心臓の音しか聞こえないんだけど?
「…………」
「…………」
ああもう、焦れったいなぁ!
「ねえ!」
「あのな!」
ハモった。
嘘おお。ここでハモる? マジで! ないない!
「エイリーから、どうぞ」
「ファースに話すことあるなら早くしてって、言いたかっただけだから」
私がそう言うと、ファースがうっと少し顔を赤くする。
その顔にどきりとする私。
すう、はあ。すう、はあ。
ファースは深呼吸を何回か繰り返すと、まっすぐ私を見つめてくる。
その真剣な眼差しにどきりとする私。
「あのさ、エイリー」
「な、なんでしょう?!」
真剣な顔で私を見ないでくれる?
真剣な声音で私のこと呼ばないでくれる?
緊張しちゃうでしょーが! もうしてるけど!
「ありがとな」
「は?」
「ちゃんとお礼を言いたくて」
「なるほど?」
よくわからん。ちゃんとお礼を言われるほど、私は何かをした覚えはない。
「始めて会った時は、助けてくれてありがとう」
「そんなこともあったね」
「一緒に秘宝を集めてくれてありがとう」
「まあ、成り行きだよね」
そのあとも、ファースのお礼祭りは続いた。
『王位継承権問題を解決してくれてありがとう』という大きいことから、『一緒に出かけてくれてありがとう』という小さいことまで。今までの思い出をひとつひとつ振り返るように、ファースは感謝の言葉を述べていった。
……いやあ、かなり恥ずかしいな。
最初のうちはさら〜と流せたんだけど、段々と“ありがとう”ばっかり言われてると照れ臭くなってきた。
私そんなに大層な人間じゃないよっ、と叫びたくなる。そんなに“ありがとう”言わないで?!
そして。そんな恥ずかしさにも慣れてきて。またさら〜と流せるようになって来た時。
「俺に恋を教えてくれてありがとう」
と、ファースが問題発言をぶっ放した。
「……は」
はああああああああああああ?!
え、この流れで言っちゃう?! 言っちゃいます?!
この間、ぽろり告白事件は有耶無耶になったけどさ、このタイミングで言う?!
お礼祭りをしていた中で言ってしまいます?! またもや不意打ち! 不意打ち良くない!
「……俺はエイリーのことが好きだ」
「は……」
耳まで真っ赤に染めて、でもしっかりと私を見つめてくる。
「俺は、普通じゃなくて、めんどくさがりだけど優しくて、強くてでも抜けてるところのある、そんな可愛いエイリーが好きだ」
「……私が言うのも何だけど、こんな奴のことどうして好きなの?」
ファースの告白を聞いてたら、なんか妙に冷静になって来たぞ。
ファースが私のこと好きっていうのは、もう理解してるけど、どうして好きになったんだこいつと思わずにはいられない。
こんな変人どうして好きになったんだ?
「……好きになったんだから、しょうがないだろ」
照れ臭そうに、ファースは呟く。
その理由に思わず、はひっ?!と声を出してしまう。
「だから、俺の恋人になってくれないか」
「はい」
「本当か?!」
「え、あの、ええええええ?! ちょっと待って!?」
え、私、今返事しちゃった?! 条件反射ってやつ?!
まだ、ファースのこと好きかどうかわからないのに、返事しちゃった……。
好きとか良くわかんないし!
「返事をしておいて、それはないんじゃないか」
「だって、だって! あんなの頷いちゃうでしょ!」
ナチュラルに告白して来たそっちが悪い!
「俺のこと好きじゃないのか?」
「好きか嫌いかって言ったら、す、好きだけど! こ、これが恋なんてまだわかんないし!」
「じゃあ、いいじゃないか」
「え?」
「俺のこと、す、好きなんだろ」
「き、嫌いじゃないけど!」
ああもう、心臓がうるさいな!
「わかったよ! 恋人になればいいんでしょ、なれば!」
「いいのか?」
「なりたくないの?!」
「な、なりたいです」
「じゃあ、決まり。私とファースは今日からこ、恋人!」
「あ、ああ」
やけになって、ここまで進めてしまう。
だってだって! 心臓うるさいし!
断ろうとしたら、ファースなんか悲しそうな顔するし!
どうすることもできないでしょ、これ!!
「よ、よろしくな、エイリー」
「こちらこそ、よろしく、ファース」
恋愛の意味で好きかどうかはわかんないけど、そのうちわかるだろうし。
ファースのこと、嫌いじゃないし。
身体中、燃えているように熱いし、心臓だってうるさいし。
ま、まあ兎にも角にも、私たちは恋人となった。
ファースさああ!!!
お前さああああ!!!
最高だよう!!!!!




