133 悲しみのない明日へ
「まあ、あたしから話すことはこんくらいかな」
「色々ありがとう、ムーシュ」
「こちらこそ」
やっとひと段落ついた、とムーシュはふう、と息を漏らした。
「でもどうして、メリッサはムーシュにあれこれ話してもらったの?」
「うまく説明できないからって言ってたけど」
「それだけ?」
「あたしもそれしか聞いてない」
「そっか」
理由がそれだけのはず、ないと思うんだけどなぁ。
「ま、本人に直接聞いてみるのが一番手っ取り早いよ」
「え?」
「今、変わるからちょっと待ってて」
「へ?!」
私があれこれ言う前に、ムーシュは奥に引っ込んでしまい、メリッサの首がかくりとなる。
すぐに意識は戻るよねー、なんて呑気に思っていたけど、しばらくしても意識が浮上してくる気配がない。
「え、ちょっと、どう言うこと?!」
まさかの放置プレイ?!
ふたりで仲良く、健気に待っている私を見守ってるわけ?!
どうにかして、引きづり出したいけど、そんな方法知らない。
そもそも他人の意識を引きづり出すこと自体、普通に生きてたらしないと思う。
どうしたものか、と考えているとメリッサの体に意識が戻る。
結局、どっちが出てきたんだ?
「メリッサ……?」
「だと良かったんだけどね〜」
「なんだ、ムーシュかよ」
「あからさまにがっかりしないでくれる? あたし悲しいよ?」
結構待たされたのに、出てきたのはムーシュだったんだよ。このがっかりする気持ち、あんたにわかってたまるかっ!
「……なんでメリッサじゃないの?」
「だってよ、メリッサ?」
私の質問には答えずに、内側にいるメリッサに話しかけるムーシュ。
「メリッサは頑固だからさー。『出ません』ってしか言わなくて」
「どうして。私はメリッサと話がしたいのに」
「気まずいんだってさ」
「気まずい……?」
「エイリーには縁のなさそうな言葉だね〜」
あはは~と、ムーシュが馬鹿にしたように笑う。
ムカつくんですけど?!
「私だって、気まずくなる時くらいあるけど?!」
「でも軽そう」
「軽そうって何?! とにかく、早くメリッサを連れてきてよ」
「はいはい」
そう言って、またメリッサの体は意識を飛ばした。
そして、今度はそんなに時間をかけずに、意識が浮上してきた。
今度こそ、メリッサでありますようにっ!
「メリッサ……?」
「……エイリー」
今度こそ、出てきたのはメリッサだった。居心地が悪そうに、きょろきょろと視線を動かし、やがて俯いた。
「メリッサ、どうして私と会いたくなかったの?」
「だって今更……、今更、どんな顔して“助けてください”なんて言えばいいんですか……」
ぎゅっとスカートを握りしめるメリッサ。目からは今にも涙が溢れでてきそうだ。
……そんな重く考える必要はないのに。
「え、普通に言えばいいんじゃないの? え、ダメなの? ええ、それは困るなぁ。私、助ける気満々なんだけど?」
「え」
「あんな事情を聞かされて、助けないなんて選択肢なくない?」
私、そこまで薄情者に見えるの? 見えないよね? 優しさ溢れ出てるよね??
「あ、それとも助けて欲しくない? 上級悪魔に従ってたい?」
「そんなことないですっ!」
「だよねー。頷かれたら困るわー。
だったらいいじゃん。普通に言えばいいんだよ。自慢じゃないけど、お金は有り余ってるからね、私」
メリッサとチェルノ、ふたりくらい余裕で養える。
この世界は娯楽が少ないから、使いようがないんだよねぇ。困った悩みだ。
「でも、私……」
ここまで言っても、メリッサは引っかかるものがあるらしい。
むむむ、仕方ない。違う手段に出てみるか。
「ねえ、メリッサ。私専用の情報屋にならない? 勿論、チェルノも一緒に」
「え」
「私のために情報収集とかしてほしいんだよね〜。給料もちゃんと払うからさ〜?」
「……私なんかでいいんですか」
「いいに決まってるじゃん。上級悪魔がついてるし、魔法使えるし、魔法効かないし。最強じゃん」
こう考えると、メリッサってかなりチートだよね。普通に冒険者やってたら、有名人だよ。
「いいんですか、本当に?」
「いいに決まってるでしょ。私はメリッサとチェルノを助けるって決めたんだから」
ここまでくると、しつこいよ。そんなに自分の罪を重く捉えないでよ。
「……ありがとう、ございます」
やっとのことで、その言葉を声にするメリッサ。目からはぽろぽろと涙が溢れていた。
「お言葉に、甘えさせて、ください」
「かしこまりすぎだよ」
もう、しんみりした空気、苦手なんだよ。
私まで泣きたくなちゃうじゃん。
「これから、よろしくね。メリッサ」
「……お願いします」
こうして、私とメリッサの契約は成立したのだった。
めでたしめでたし。
* * *
水晶玉から、その様子を覗き込む影。メリッサとチェルノを駒として使っていた悪魔・アエーシュマである。
「遂に捕まっちゃたか〜。ムーシュは何でもかんでも喋るし」
と、くすくすと楽しそうに笑っている。
「ま、いっか。魔王様の復活は時間の問題だし。お陰で楽しくなりそうだなぁ」
くすくすくすくすくす。怪しい笑い声が響く。
魔王復活で、もう少し。
良い感じの雰囲気だったのに、最後に不穏な空気出してごめんなさい。




