130 メリッサの秘密
そろそろ一章の終わりが見えてきました。
国王様に報酬をもらった、翌日。
私はさっそく、メリッサとチェルノが囚われている、牢獄に向かった。
メリッサたちは、秘宝を盗んだ。それは変わりようのない事実だ。
でも、彼女たちがそんなことを望んでやるはずがないと信じたい。まだ出会ってから間もないし、そんなに仲良くもない。信じられる根拠もない。
だけど、私に向けてくれるあの笑顔を嘘だと思いたくない。
あの時のメリッサの悲痛な叫びを嘘だと思いたくない。
そう考えると、いてもたってもいられなくなり、珍しく早起きをして午前中のうちにメリッサたちのいる牢獄に着いた。
チェルノはまだ目を覚まさないらしく、隔離されたところで治療を受けているようだ。当然だ。魔法を使えない体のくせに、あれだけの魔力を行使したんだから。
慣れない力を使った疲労で眠ってるだけなので死に至らないとは思うが、心配だ。
そんなことを考えながら、薄暗い牢獄を歩いていると、ようやくメリッサのいる所についた。
当たり前なんだろうけど、結構奥の方に閉じ込められてるなぁ……。
柵越しにメリッサの死んだような姿が目に入る。
「……こんにちは、メリッサ」
「……っ!」
突然現れた私を見て、メリッサは死んでいた目を大きく見開いた。
「色々話したいことがあるから、中に入りたいんだけどいいかな?」
「……私を信用できるなら入ってくれて構いません」
思いのほかあっさり中に入っていい許可をくれた。なんだ、もっと露骨に拒否られるかと思ってたよ。
私は迷わず鍵を開け、メリッサに歩み寄る。
檻の中は生活に最低限必要な物しか置いていなくて、かなり質素だ。私もこのくらいの物の量なら散らかすことはないのかなぁ?
…………うん、悲しくなることを考えるのはやめよう。
私はアイテムボックスから、椅子を取り出して座る。
メリッサもひとつしかない椅子に腰をかけ、私と向きあった。
「まだ、私のこと信用してくれるんですね」
ぽつりとメリッサは呟く。
「当たり前でしょ。私が信じたいんだから」
「……理由になってませんよ」
「なってるんだなぁ、これが。私が信じてるからね」
「……本当、おかしな人です」
「よく言われるから」
おかしいとか変わってるとか、聞き慣れた言葉だ。私は私の生きたいように生きてるだけだから、おかしいも何もないんだけど。
でもその言葉を聞いて、メリッサの緊張が解けたようで、笑みを見せてくれたんだから、結果オーライかな。
「だからこそ、聞きたいの。メリッサとチェルノが王家の秘宝を盗み、そして至る所に捨てたわけを」
「…………」
メリッサは口をつぐむ。そして、気を失った。
「メリッサ?!」
え、どういうこと?!
話しづらいんだろうなとは思ってたけど、どうして気を失うの?! 具合でも悪かったの? いやでも顔色は悪くなかったし、普通に元気だった……よね?
突然の出来事に思考が散らかる。
「……心配しなくていいよ」
私がパニックになっていると、メリッサが言葉を発した。
どうやら意識を取り戻したようだ。
でも、何かがおかしかった。この気を失っている間に、明らかにメリッサに何かが起きた。
声音が違う、表情が違う、雰囲気が違う、魂が違う。
私の知ってるメリッサじゃない。
「……あんた、誰?」
「知ってるんでしょ、踊る戦乙女さん?」
「どうして、メリッサの中に上級悪魔がいるの?!」
この、魂が濁っている感覚。気持ち悪い、この感覚。
サルワが、ジャヒーが、人間に憑いていた時に味わった、この感覚。
――――上級悪魔が人間の体を使っている時に感じる感覚だ。
「正解。あたしは上級悪魔のムーシュ」
口角をわずかにあげ、怪しい雰囲気を持つ目で私を見ながら、自己紹介をした。
メリッサとは全く違う性格だ。
「上級悪魔? 五悪魔衆のひとりってこと?」
「違う違う。あたしはただの上級悪魔。五悪魔衆は上級悪魔の中でも強い5人のことを言うの」
「へー、つまりサルワより強くない、と」
「そう言うこと」
つまり、倒そうと思えばあっさりと倒せるわけだ。
「……何か悪いこと企んでるでしょ」
「いやいや、ただの人助け」
そう言って、私はクラウソラスに手をかけ、にっこりと微笑んだ。
こういうのは早めに倒しておかないとね。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
「何が?」
「落ちついて、落ちついて! まずはゆっくり話し合おうっ! ねっ?!」
「はあ?」
慌てふためく上級悪魔・ムーシュ。なんでそんなに慌ててんの? 逆に怪しい。
「あたしは、あんたと敵対するつもりはない!」
「嘘だ!」
「本当ですぅ」
「敵対しない理由がわからないっ!」
「理由はある」
ふざけた声ではなく、急に真剣な声になって、ムーシュは私の方を見てきた。その真剣さに思わずどきりとしてしまう。
「どんな理由?」
「簡単に言うと、あたしとメリッサは契約してんの」
「は?」
乗っ取りじゃなくて、契約?
契約は自分の意思で悪魔に体を貸すこと。悪魔と協力すること。
メリッサが、契約……? どうして……?
私の思考は止まるけど、ムーシュの話は止まらない。
「で、エイリーに全部話してくれってメリッサに言われたから、あたしはこうして出てきてんの」
「全部……?」
「そう、メリッサたちの不憫な過去も、あたしと契約した過程も、秘宝を盗んだ理由も全部」
「じゃあさっさと聞かせて」
「そう急かすなって」
そうして、ムーシュはメリッサたちの話を始めた。




