119 乙女の嗜み
「では、エイリーどうぞ」
グリーが持って来た高級な紅茶とシェミーが作った美味しいお菓子の匂いが香る。私の家じゃないみたいだなぁ。幸せだなぁ。
シェミーの手作りクッキー美味しい。また腕を上げたな?
……と、そうじゃなくて。
現実逃避をしてても仕方がない。
そう思いながら、高級な紅茶をすする。いかにも高級な味がする。
「エイリー、話を聞かせて頂戴」
グリーが呑気にお茶をすすってないで早く話をしろ、と急かしてくる。
シェミーもゼノビィアも期待の視線を向けて来る。
「……何を話せばいいの?」
「それを本気で言ってる?」
「うん」
呆れた目でゼノビィアが言うが、本当に何を話せばいいのかわからないんだから、仕方がないだろう。
彼女たちの期待に添えるような話はできなそうだし。というか、する気ないし。
「この間の二人だけの冒険の話を、詳しく話してくれればいいのよ」
にやにやと笑いながら、グリーがこちらを見てくる。
「いや、特に何もなかったよ?」
「嘘ね」
「どうして嘘だってわかるのさ?」
「お兄様の様子、行く前と帰ってきた後とでは違ったもの。あれは何かあった証拠ね」
ファースがわかりやすいのか、グリーの観察眼が優れているのか。どっちが正しいのかわからないが(どちらも正解だと思う)、グリーは思っている以上にブラコンだということがわかる。ただ彼女の場合、クレトのように兄弟全員というよりはファース限定って感じがする。
年が近いし、意味がわからないまま跡継ぎ争いの片鱗に巻き込まれたからだろうなぁ。
「……だったら、ファースに聞けばいいじゃん」
そんなに仲がいいんだったら、ファースに聞けばいいじゃん。まあ、ファース教えないような気がするけど。私にも頑なに教えてくれないことあったし。
「エイリーはお兄様が正直に言うと思うの?」
「思わない」
「そういうことよ」
だから話しなさい、と言わんばかりにグリーは微笑みを浮かべる。
あ、これは逃げられないやつだ。この子、地獄の果てまで追いかけてきそう。
根競べは私の負けだ。
この敗北は仕方ない。そもそも1対3という時点で負けている。しかも皆さん、ひとりひとりが強敵だ。
* * *
グリーたちが何が何でもひかないことを悟った私は、大体のことは伝えた。私にとって都合の悪いところ(赤面したりてんぱったりした話)はカットしたが、嘘は言ってない。嘘を言うと、すぐシェミーにばれてしまう。
「ふーん」
話を聞き終えたグリーは今まで見たことのないにやにや顔を見せた。可愛い顔でやるので、全く気持ち悪くないのが憎らしい。
「へえー」
「そうなんだー」
それと違って、ゼノビィアとシェミーは何やら微妙な反応をする。
「なんですか、お二人さん。言いたいことがあるなら言ってよ」
「いや、本当にエイリーのこと好きになる人いるんだなぁって」
「ごめんね、ちょっと嘘かと思ってた」
――――酷すぎない?
いや、私自身もこんな性格の私を好きになってくれるなんて、信じられないけどさ、私に話せ話せってせがんでおきながら、それはなくない? 本人の前ではっきり言うことじゃないよね?
「確かにお兄様の趣味は疑うわ」
その考えをあっさり肯定してしまうグリーさん。
おい、お前ら。何がしたいんだよっ!
「だよね。エイリー友達として、適度に付き合うのはいいんだけどさ、恋愛対象としては、見れない」
「なっても友達までって感じはするよね」
うんうん、と頷き、盛り上がる3人。私は完全に蚊帳の外(私の話をしてるんだけど、嬉しくないからスルー)
「君たちは本当に何しに来たの!!!」
「「「女子会だけど?」」」
「ハモらんでよろしい!」
私が盛大にため息を吐いて、一旦話がリセットする。
本筋に戻したいわけでもないが、今の話よりは何倍もマシだ。
「ま、そう言うわけだからエイリー、大事にするんだよ。もうエイリーを恋愛的に好きになってくれる人、現れないかもしれないんだから」
「は……? どういうこと?」
てか、ゼノビィアお前、結構酷いこと言うな。
そろそろ私も悲しくなってきたよ……?
「どういうことって?」
「大事にするとかなんとか」
「え? 君たち、付き合ってるんじゃないの?」
「え? 全然?」
「え?」
「え?」
何言ってるんだこいつ。
付き合ってる? そんな話、した覚えないけど?
「ええ、嘘でしょ? え、でもエイリー、ファースのこと好きなんでしょ? 恋愛的な意味で! ラーブなんでしょ?」
「……うーん?」
「何その微妙な反応!」
「恋なのかなぁって」
「恋でしょ! 恋じゃなかったらなんなの!」
「何なんだろうね……?」
私自身、ファースに抱く少し特別な感情の正体がなんなのか、いまいちよくわかっていない。
私の知っている恋は、ルシールがブライアンに抱いていた、どろどろして誰にも渡したくなくて見てるだけで幸せになる、ぶっちゃけかなり重症なものだ。これを基準にしてはいけないのはわかってるんだけども、これしか知らないので他に判断材料がない。
「重症ね」
と、言ってる割には楽しそうに告げるグリー。
「重症だよ、何か悪い?」
「悪くないわよ。これから知っていけばいいのよ」
「はあ……」
「エイリーが恋を自覚して、恋に振り回されて、恋が実る時が楽しみだわ!」
「はあ……?」
おーい、グリーさん?
「確かに、エイリーが一喜一憂するところは見てみたい! 流石、経験者って感じだね、グリー」
「ありがとう」
シェミーがグリーの言葉に感動し、グリーも良いこと言った、みたいな顔をしている。
本当になんなんだ、こいつら。
「じゃあ、次の話に行こう。楽しくなりそうだね」
「……まだ続くの?」
「「「当たり前でしょ!」」」
こうして、女子会は続き、私が解放されたのは次の日の朝になってからのことだった。
女子って怖い。
私は、このヒロインズが好きです。




