109 説明を求む!!
グリーの頑張りもあり、片付けは昼過ぎには終わった。
あんな足の踏み場もない部屋を、1日どころか半日もかけないで片付けてしまうのは、すごい。本当にすごい。
魔法万歳、グリー万歳ってところだ。
そういうわけで、私たちは綺麗になった部屋で、グリーの持ってきてくれた紅茶とお菓子をつまみながら(この気遣いも流石である)、本題に入るのだった。
「それでエイリー、どういうことか説明を求めていいかしら?」
「話が見えないんだけど」
「わかってるくせに! クレトお兄様と婚約したってどういうこと?」
「どういうことって言われても……。流れで? というか、はめられて?」
「はあ?」
グリーが何言ってるのこいつ、と言う視線を向けてくるが、私だって知らない。あの腹黒国王が全部勝手に決めたんだよっ! あんたのお父さんが勝手に決めたんですぅ。
「強いて言うなら、政略結婚ってやつ?」
「はあ?」
「ほら私、国家機密いっぱい知ってるじゃん、ただの庶民なのに」
「まあ、不可抗力な部分が強いと思うけど」
「だよね!? グリーもそう思うよね!?」
「う、うん」
私の勢いに押されてなのか、グリーはひき気味に頷く。でも私は気にせずに、勢いに乗って突っ走る。勢いって大事だと思う、うん。
「やっぱり、国王様が間違ってるんだよね。そりゃ、私は国家機密を知ってる。でもそれは半分以上、国王様が教えてきたもんなんだよ。それを理由に、婚約とか意味がわからないよね。王族になんてなりたくないし、そもそも私にだって、選ぶ権利はあるんだよっ!!」
「選ぶ権利……?」
私が愚痴を聞き流していたグリーが、ある言葉に反応した。
そして、段々とグリーはあからさまに嬉しそうな表情を浮かべた。にこにこを通り越している笑顔が逆に怖い……。
「選ぶ権利って言ったかしら?!」
「え、言ったけど。……それがどうかした?」
「エイリー、これは真剣な質問をするので、真剣に答えて頂戴。仮にマズグレイブ兄弟と結婚するなら、誰としたいかしら?」
「は?」
「真面目に考えてね?」
「え、いきなりどうしたの?」
「いいから答えて頂戴っ!」
口は笑っているものの、目が笑ってないよ、グリー……。
どうしてそこまで真剣なんだ、と聞くこともできないくらいのオーラが、グリーから漂っている。
真面目に答えるとしても、そもそも王家に嫁ぎたくない私は皆、嫌だ。結婚したくない。
でもそんなこと言ったら、グリーに怒られるだろう。今のグリー怖いもん。
こういう時は、グリーの求めてる答えを言ってあげるのがベストなんだよね。できる子・エイリーちゃんは違うのだ☆
と、冗談はさて置き。
私はグリーの求めているだろう答えを言う。
「うーん、グリーかな」
「あら、嬉しい。でも、わたくしには愛する婚約者がいるのよ。だから……ごめんなさいっ!!
……なーんて、なるとでも思ったかしら?」
「うん」
華麗なノリツッコミを披露してくれたグリーさんの質問に、私は素直に元気良く頷いた。
真剣に聞いてきた割には、ふざけているので、やっぱりこの質問は冗談の類だったのでは?!
「真剣に答えてって言ったわよね? ふざけてるの?」
「うん」
「だと思ったわ。わたくしは真面目に答えてって言ったわよね?」
「うん」
私が頷くことしかしなかったので、グリーは呆れてため息を吐いた。
だって本当に、ふざけてるとしか思えないんだもん。
「遠回しに聞いたわたくしも悪かったわ」
「え?」
「単刀直入に聞くわ。婚約するなら、クレトお兄様とファースお兄様どちらかしら?」
「は?」
「選ばないってのは無しよ」
どういうことだ? どうしてそこでファースの名前が出てくる?
「そりゃ、どっちかと言われたら、ファースだけど」
「本当に?!」
「う、うん」
目をキラキラさせて、グリーは私に詰め寄ってくる。
え、今の答えそんなに良かった……?
「お兄様にもまだまだチャンスはあるってことね!」
「は?」
「ファースお兄様、エイリーがクレトお兄様と婚約したことに、かなりショックを受けていたのよ」
「へー」
そうかー、ショックを受けてたのかー、へー、ふーん。
「…………え? 今なんて言った?! は?! 嘘?! あ、わかった冗談だ。冗談なんでしょ。あはは、グリーってば、そんなにマジな口調で、冗談言わないでよ~。え? 冗談、だよね??」
「……そんなに驚くこと?」
「は、いや、だって、え?」
「ファースお兄様がエイリーに気があるのは、一目瞭然じゃない」
「いや、それはなんとなくわかってたけど、そんなに? そんなに明確にわかるものなの? 嘘だぁ」
「これだから鈍感ちゃんは」
「だって、私だよ?! 自分で言うのもなんだけど、こんな私だよ?! 女子力皆無だよ?! 部屋が汚い女だよ?!」
「それは思うわ。お兄様、女の趣味悪すぎよねぇ」
「おい」
その通りなんだけどさ?! 本人目の前にして言わないでよ。否定してよ。
というか、ファースに失礼だろそれ。
「お兄様、あからさまに沈んでてめんどくさいのよ。だから、エイリーっ!」
「はいっ!」
グリーに勢いよく名前を呼ばれたので、私は思わず良い返事をしてしまう。。
「5日後の休日、丁度お兄様は空いているわ。その日、ふたりでマスグレイブの秘宝を探しに行きなさい」
「は?」
「いい、ふたりでよ。ふたりきりでよ」
「…………わかった。わかりましたよっ!」
「よろしい」
満足気に頷くグリー。よくもまあ、お兄ちゃんのためにここまでできるもんだ。いい妹だな。お節介な妹かもしれないけど。
そのあと軽く雑談をして、グリーは帰って行った。
――――というか、あれ? ファースってまじで私のこと好きなの? 確定条件……?
そう思うと、少しだけ顔が熱くなった、気がする。
グリーはできる人です。
どこかのポンコツ主人公とは違います。
……てか、本当に、ファース、女の趣味悪いなぁ(笑)




