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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第1章 アイオーンの跡継ぎ問題とその他諸々/第3節 ゼーレ族の問題(シェミー編とも言う)
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107 よりにもよってこの人ですか

 こんこん、部屋をノックする音と、


「父上、クレトです」


 という声が聞こえた。

 国王様が入室の許可を出すと、クレトが不満げな表情を浮かべながら、つかつかと入ってきた。


 やっぱり、クレトも不満だよね。国王様に一言いってやれ!


「父上、お尋ねしたいことがございます」

「なんだ?」

「どうして、エイリーと僕が婚約するのですか?」

「不満か?」

「はい、不満です」


 うわ、はっきり言いやがった。ここまでくるとすがすがしいな。


「だが、決定事項だ。明日、大々的に発表する」

「どうしてそこまで、こだわるのですか?」

「エイリーを味方につける。これがどれほどの利益か考えよ。王家としても、お前としても」

「……っ!」


 国王様の言葉に、クレトは黙り込んでしまった。

 おい、もっと頑張れよ。ここからだよ!!


「では、我は失礼する。ふたりで今後のことをよく話すといい」


 そう言って、国王様はさっさと姿を消してしまった。



 * * *



「おい」


 国王様が扉を閉めた瞬間、クレトが鋭い声を出した。


「何?」


 私も負けじと応戦する。

 私もクレトも、イライラしているのだ。


「どうしてこうなった?」

「私に聞かれても知らないよ」

「お前が言い出したんじゃないよな?」

「そんなわけないでしょ。私だって嫌だよ」


 かなり険悪なムードになる私たち。これから、上手くやって行けるのだろうか?

 ……まあ、必要以上に上手くやってかなくてもいいのか。


 はあ、と大きなため息をクレトは吐くと、私の方をまじまじと見つめてきた。

 こう見ると、クレトもかなりイケメンなんだよなぁ。マスグレイブ兄弟恐るべし。


「で? これからどうするんだ?」

「どうするって?」

「僕たちはどう付き合っていくかだ」

「はあ……」

「君、少しは真剣になれよ」

「はあ……」


 いやいや、実感がわかないんだもの。真剣もくそもないだろう。


「形だけの婚約者、でいいよな?」

「それ以外にないでしょ。それとも何? 実は私の事、好きとか?」

「断じて違う」

「だよねぇ。クレトが好きなのは、兄弟だもんねぇ」

「そうだ」


 即答かよ。ここまでくると、潔いな。


「それに、僕より君を好きな奴いるしな」

「え?」

「気づいてないのか?」


 クレトの海色の瞳が、私の瞳を覗き込む。

 それがきっかけで、私は思い出してしまう。

 ファースが私のこと、恋愛対象として見ている疑惑を。


「……はい」

「なんだその間」

「あははは、何でもないよぉ~」

「明らかに今、ドキッとしただろ」

「何のことかなぁ~」


 いけない、いけない。ファースの顔が鮮明に思い出されて、鼓動が一瞬高鳴ってしまった。

 まったく、クレトはいらないことするんだから。


「兎にも角にも、タイミングを見て婚約は解消するから、それまではへまをするなよ。一応、アイオーンは自由恋愛を推奨してるんだから」

「はぁ……」

「だからと言って、進んで仲良くする気もないがな」

「はぁ?」


 めんどくさいな、こいつ。

 程よい距離を保って、ってことなんだろうけど、いちいち言い方が腹立つなぁ。最初からそう言えばいいじゃないか。私も馬鹿じゃないんだし。


「いいか。ファースに心労をかけるんじゃないぞ」

「そんなのわかってますけど」

「いいや、わかってない。君はもっと自覚しろ」

「そんな念を押さなくても」

「君は鈍感すぎるからな。これでもまだ足りないくらいだ」

「冗談がきついよ」

「冗談ではない。本気だ」

「ええ」


 この人、ほんと兄弟が絡むとめんどくささが増すよな。


 万が一にも、ファースが私のことを好きだとして(ないとは思うけど)、クレトと婚約をしただけで、そんなに不安になるものなのか? いや、明らかに仕組まれたものとわかるんだから、不安も何もないだろうに。


「まあ、鈍い君でも直に分かるだろう」

「はあ……」

「他に話はあるか?」

「いえ、全く」

「じゃあ、最後に僕から確認が一つ。跡継ぎ争いには、これまで通り、参戦しないんだよな?」

「うん」


 まあ、実際は関わってるんだけどね。クレト陣営としては、関わる気はさらさらない。


「わかった。では、帰っていいぞ。……いや」

「どうかした?」

「仮にも婚約者なんだ、送るべきだよな?」

「私に聞かれても」

「仕方ない。出口までは送ってやろう」

「嫌々なら、別にいいい」

「それは僕の格好が付かないだろ」

「はあ……」


 こいつ、とことん面倒くさいな。


「いくぞ」


 なんやかんやあって、私はクレトと歩き出したのだった。




間違っても、このふたりの間に何かが起ることはありません。

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