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逃亡した悪役令嬢は隣国で踊る戦乙女と呼ばれています。  作者: 聖願心理
第1章 アイオーンの跡継ぎ問題とその他諸々/第3節 ゼーレ族の問題(シェミー編とも言う)
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98 そして前へ進もう

本日5話目の投稿です。

 それにしても疲れたなぁ。

 何だかんだ、上級悪魔と戦うのは初めてだったんだよなぁ、私。よく頑張ったじゃん。偉い偉い。


 この部屋には、アニスの亡骸と眠ったままのシェミーしかいない。だから、とても静かだ。


 退屈だなぁ、と思っていると、シェミーの目がゆっくりと開いた。


「シェミー、気がついた?」

「あ。エ、エイリー?」


 シェミーは寝起きで、というかこの状況の一部始終をよく理解していないんだろう、かなり混乱していた。


「私、は……っ!」


 シェミーは、目から涙を一滴、また一滴と落し、すぐに溢れ出した。


「今は、泣いていいよ」

「エ、エイリー。ありがとう……。うううううっ、うわああああああっ」


 シェミーは今まで我慢していたものを全部吐き出すかのように、永遠と感じられるような時間を泣き叫んでいた。



 * * *



「あ、ありがとう。エイリー」


 少し頰を赤らめながら、涙声でシェミーはお礼を言った。散々泣いて、涙は枯れたようだ。


「別に、気にしないで。それなりのもの、背負ってたんだし」

「そう言ってもらえると助かる」

「……急かすようで悪いんだけどさ、これからどうする?」

「何を?」

「色々と」


 シェミーが抱えてる問題もそうだし、この状況もだ。本当、ややこしくしてくれたよな、サルワ。殺してやりたいけど、すでに死んでいる悪魔(ひと)だ。


「まず、私いまいちこの状況理解できてないんだよね」

「私もだよ」

「え?」

「え?」


 そんなまじありえない、みたいな顔されても、困るよ。私だってよくわかってないこと多いんだし。


「えっと、じゃあ、エイリーが今わかってること教えて」

「うーんと、簡単に言うと、サルワがシェミーの体が欲しくて、シェミーをさらったんだよ」

「それは私でもわかるよ」

「ゼーレ族復活派とディカイオシュネーが手を組んでて」

「え、どうして?」

「知らない」

「え?」

「え?」


 だから、『知らないの? まじありえない』、みたいな顔向けられても。私だって知りません。どうしても聞きたいなら、本人達に聞いてよね。


「あとは?」

「そんだけ」

「え?」

「え?」


 私とシェミーは目をぱちぱちさせながら、見つめ合う。


「……そっか、エイリーもよくわかってないのね」

「そうそう。わからないこと多かったけど、シェミーがさらわれたから、助けに来た」

「そうなんだ」


 すう、とシェミーは息を吸って、


「ありがとう、エイリー」


 最高の笑顔でシェミーはそう言った。

 不覚にも私は泣きそうになる。


「……あとで、外にいる皆にも言ってよね」

「皆……?」

「そうそう。色々な人に助けられて、ここまできたんだ」

「エイリーが?」

「うん」


 驚いた顔をしたシェミーだけど、すぐに優しい笑顔を浮かべて、


「そっか、エイリーも変わったんだね」


 とお母さんみたいに言う。おかしいなぁ、年齢的にはお姉さんなんだけどなぁ? しかも大して歳の離れてない。


「え、そうかな?」

「そうだよ。ちょっと前のエイリーだっから、誰にも頼らないでここまで来るもん」


 ……確かに。私はひとりで突っ走ってしまう癖がある。周りがかなり邪魔だから。私が強すぎるのだ。


 それが裏目に出て、サルワにしてやられたなだけど。


「エイリーを変えたのは誰なのかなぁ?」


 くすくす、と笑うシェミーを見ながら、私はある人たちの顔を思い浮かべていた。


 ――――ファース、グリー、レノ。


 彼らは私より弱いのに、どうしてか頼りたくなる。一緒にいたいと感じる。


「……ねえ、シェミー。記憶はどうする? 思い出してるんでしょ?」

「あ、バレてた?」

「当然。私の魔法が消えてるし、シェミーから感じる力も強くなってる」


 これは私の施した“手術”が解かれた、と考えるしかない。


「このままで、大丈夫。私、もう逃げない」


 シェミーはそう言って、倒れているアニスの手をとる。


「お母さんが何を背負っていたのかはわからないけど、私を愛してくれていたことは変わらないから。お別れの仕方が、残酷だったとしても、その事実は変わらないから。私は、ちゃんと向き合う」

「シェミー」


 シェミーはアニスの冷たい手を、自分の頰にあてた。


「ありがとう、お母さん。私、前を向いて生きるね。……だから、見守ってて」


 強く強く、そう決意した。ぎゅ、と手を握りしめて、一筋の涙をこぼした。


「じゃあ、今日からシェミーは、“アネリ・ゼーレ”に戻るの?」

「ううん。私は“シェミー”だよ。ウェルズリの義娘(むすめ)で、アデルフェーの看板娘。それは、変わらないよ」

「そっか、そうだよね」


 変わらない笑顔を浮かべるシェミーを見て、私はもう大丈夫だなと一安心した。


 まだ気がかりなことは色々あるけど、これにて、一件落着、ということにしておこう。



シェミーちゃん可愛いです。

カクヨムの読者様に、(主人公を差し置いての)ヒロインって言われただけのことはある。


次回は閑話です。二話続きます。

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