98 そして前へ進もう
本日5話目の投稿です。
それにしても疲れたなぁ。
何だかんだ、上級悪魔と戦うのは初めてだったんだよなぁ、私。よく頑張ったじゃん。偉い偉い。
この部屋には、アニスの亡骸と眠ったままのシェミーしかいない。だから、とても静かだ。
退屈だなぁ、と思っていると、シェミーの目がゆっくりと開いた。
「シェミー、気がついた?」
「あ。エ、エイリー?」
シェミーは寝起きで、というかこの状況の一部始終をよく理解していないんだろう、かなり混乱していた。
「私、は……っ!」
シェミーは、目から涙を一滴、また一滴と落し、すぐに溢れ出した。
「今は、泣いていいよ」
「エ、エイリー。ありがとう……。うううううっ、うわああああああっ」
シェミーは今まで我慢していたものを全部吐き出すかのように、永遠と感じられるような時間を泣き叫んでいた。
* * *
「あ、ありがとう。エイリー」
少し頰を赤らめながら、涙声でシェミーはお礼を言った。散々泣いて、涙は枯れたようだ。
「別に、気にしないで。それなりのもの、背負ってたんだし」
「そう言ってもらえると助かる」
「……急かすようで悪いんだけどさ、これからどうする?」
「何を?」
「色々と」
シェミーが抱えてる問題もそうだし、この状況もだ。本当、ややこしくしてくれたよな、サルワ。殺してやりたいけど、すでに死んでいる悪魔だ。
「まず、私いまいちこの状況理解できてないんだよね」
「私もだよ」
「え?」
「え?」
そんなまじありえない、みたいな顔されても、困るよ。私だってよくわかってないこと多いんだし。
「えっと、じゃあ、エイリーが今わかってること教えて」
「うーんと、簡単に言うと、サルワがシェミーの体が欲しくて、シェミーをさらったんだよ」
「それは私でもわかるよ」
「ゼーレ族復活派とディカイオシュネーが手を組んでて」
「え、どうして?」
「知らない」
「え?」
「え?」
だから、『知らないの? まじありえない』、みたいな顔向けられても。私だって知りません。どうしても聞きたいなら、本人達に聞いてよね。
「あとは?」
「そんだけ」
「え?」
「え?」
私とシェミーは目をぱちぱちさせながら、見つめ合う。
「……そっか、エイリーもよくわかってないのね」
「そうそう。わからないこと多かったけど、シェミーがさらわれたから、助けに来た」
「そうなんだ」
すう、とシェミーは息を吸って、
「ありがとう、エイリー」
最高の笑顔でシェミーはそう言った。
不覚にも私は泣きそうになる。
「……あとで、外にいる皆にも言ってよね」
「皆……?」
「そうそう。色々な人に助けられて、ここまできたんだ」
「エイリーが?」
「うん」
驚いた顔をしたシェミーだけど、すぐに優しい笑顔を浮かべて、
「そっか、エイリーも変わったんだね」
とお母さんみたいに言う。おかしいなぁ、年齢的にはお姉さんなんだけどなぁ? しかも大して歳の離れてない。
「え、そうかな?」
「そうだよ。ちょっと前のエイリーだっから、誰にも頼らないでここまで来るもん」
……確かに。私はひとりで突っ走ってしまう癖がある。周りがかなり邪魔だから。私が強すぎるのだ。
それが裏目に出て、サルワにしてやられたなだけど。
「エイリーを変えたのは誰なのかなぁ?」
くすくす、と笑うシェミーを見ながら、私はある人たちの顔を思い浮かべていた。
――――ファース、グリー、レノ。
彼らは私より弱いのに、どうしてか頼りたくなる。一緒にいたいと感じる。
「……ねえ、シェミー。記憶はどうする? 思い出してるんでしょ?」
「あ、バレてた?」
「当然。私の魔法が消えてるし、シェミーから感じる力も強くなってる」
これは私の施した“手術”が解かれた、と考えるしかない。
「このままで、大丈夫。私、もう逃げない」
シェミーはそう言って、倒れているアニスの手をとる。
「お母さんが何を背負っていたのかはわからないけど、私を愛してくれていたことは変わらないから。お別れの仕方が、残酷だったとしても、その事実は変わらないから。私は、ちゃんと向き合う」
「シェミー」
シェミーはアニスの冷たい手を、自分の頰にあてた。
「ありがとう、お母さん。私、前を向いて生きるね。……だから、見守ってて」
強く強く、そう決意した。ぎゅ、と手を握りしめて、一筋の涙をこぼした。
「じゃあ、今日からシェミーは、“アネリ・ゼーレ”に戻るの?」
「ううん。私は“シェミー”だよ。ウェルズリの義娘で、アデルフェーの看板娘。それは、変わらないよ」
「そっか、そうだよね」
変わらない笑顔を浮かべるシェミーを見て、私はもう大丈夫だなと一安心した。
まだ気がかりなことは色々あるけど、これにて、一件落着、ということにしておこう。
シェミーちゃん可愛いです。
カクヨムの読者様に、(主人公を差し置いての)ヒロインって言われただけのことはある。
次回は閑話です。二話続きます。




