第二話 ー 仲間との出会い
自己紹介です。
「ご、ごめんなさい。 何か悪い事でも言っちゃったかしら……?」
フィサと名乗った女性は、慌ててボクにハンカチを差し出した。
「……すみません。 ボク、ずっとひとりぼっちで、名前なんて呼ばれたの久しぶりで……。 ありがとうございます」
彼女は一瞬だけ驚いた表情を見せると、
「そうだったの……」
そう言って、その表情はすぐに笑顔へと変わった。
「お礼を言われるような事は何もしてないわ。私はあなたの味方よ。気にしないで」
「……ありがとうございます」
警戒していない訳ではないが、この女性は悪い人ではない。涙を拭う。
「……幾つか聞きたいのだけど、あなた、さっきこの世界の人間じゃないって言おうとしてたわよね?」
再びありがとうございます。 聞いてくれていたんですね。
ボクはまた涙しそうになった。
「いく宛、ある?」
そう問われ、
「ないです」
思わず即答。
「いく宛がないなら、私達の所へ来ない? こう言ったら難だけど、あなたの力も借りたいの」
「え、いいんですか!? それに力って…?」
どんどん頭に舞い込んでくる先程の男性達の変わった姿や、“チーム“やら“スクシスタンツ“やら“力“等の言葉に、ボクの頭は混乱するばかりだった。
だけど助けてもらった上、親切にしてくれるのは有難い。
「悪いけど、詳しくは後で話すわ。 ここでは長話は出来なくて」
そう言われ、宛てもないボクは彼女の後を付いていく事にした。
あんなに警戒していたこの世界だけど、今は平気だ。この人は信頼できる。
そんな不思議な確信が、ボクの足取りを少し軽くしていったのだった。
*
ついていった通りには、ギルド、雑貨屋、武器屋、防具屋、宿と、見た事もない様々なお店が立ち並んでいた。
「凄い……」
ボクは素直に言葉を発した。
「珍しい?」
フィサさんが笑みを浮かべながら話し掛けてくる。
「はい。 新鮮です」
「ふふ、丁寧語もいらないし、呼び捨てでもいいわよ」
「じ、じゃあ……フィサで。 ボクも呼び捨てにして構いません」
「わかったわ」
言い慣れないというか、信頼できると感じてはいたけど、出会ったばかりの人に変わりはない。
それにどう見たって歳上だ。
でも、仲良くなれるといいな。
淡い期待を抱いていると、巨大な光の玉が目に映る。
「あれは……?」
「転移装置よ。 この世界限定だけど、別の地域にワープ出来るの。 好きな転移装置にワープ可能よ」
「え、そんな凄い発明品が!?」
「この世界では当たり前よ」
凄まじすぎる技術。
異端なボクだけど、この世界にも異端が溢れているような気がする。
……この世界、ボクに合うかな。
「移動するわね」
「え、入るの!?」
「そう。 初めてだろうけど安心して。 少し眩しい位だから」
その時だった。
「オイ、あいつさっきの池の奴!」
「いや待て、一緒にいるのは“リンク・ウィング“の奴だぞ!?」
「こんな堂々とあのガキを手に入れて連れ回して……ふざけんじゃねー!」
「……フィサ……さん」
「無視して」
呼び慣れない。
それにしても、フィサさんのその言い方が、ボクには少し寂しそうに聞こえたんだけどーー
そうして、ボクらは眩い光を放つ球体の中へと入って行くのだった。
*
「着いたわ」
転移装置から出て、歩く事二分。
案内されたのは、人気の無い閑散とした場所だった。
砂漠のような色の大地。近くには転移装置が一つ。
フィサさんが転移装置の近くで空中に円を描くと、円の中央に掌のマークが現れる。
彼女が右手の掌をマークに合わせると、空間に縦にヒビが入り、やがてヒビは扉を形作った。
「入って。 自動ドアよ」
ビックリする程の技術に、ボクは入る前に腰が抜けそうになる。
中に入ると、まずは大声が飛んできた。
「おかえり………っておお! 君は噂のウォーターボーイ!」
……ウォーターボーイ?
早くもボクは“水“の影響で有名人になってしまったようだった。 いつの間に容姿まで。
でも、何故だろう。さっきからこの力、ひたすら歓迎されているような気がする。
「ただいま。 逆ナンしてきちゃった」
「何だそりゃ!」
がっはっは、と笑っているのは斧を構えた恰幅がよく鍛え抜かれた筋肉を持つ、巨体な男性だった。
30歳過ぎだろうか。
「逆ナンって何ですか?」
ボクが何気なく質問をしたら、ズデンッと転びそうになった音二つ。
「冗談は置いておいて……。 皆、ただいま。イギ、奥へ入って」
案内されたその場所は、まるで「家」のようだった。
沢山の本、タンス、テーブルに椅子。
二階まである。
「“リンク・ウィング“へようこそ、イギ。 ここは私達の拠点よ。 後でまた案内するわ。 皆、集まって。」
「は、はい」
「少年よ、そんなに緊張しなくていいぞ。 呼び捨てにしていいし、丁寧語もいらん! オレたちゃみんな心が広いからな! がっはっは!」
「う、うん……」
すると今度は、小さな女の娘の声がした。
「ちょっとゴゼ、ウォーター君困ってるじゃない!」
少女は不思議な模様が描かれた服を着ており、髪は金髪のツインテールだった。10歳位だろうか。胸元の赤い宝石が目にとまる。
でも、ウォーター君も出来れば避けてほしかった……
「いや~、つい興奮しちまってな! まさかオレ達があのウォーターボーイを迎えられるとは!」
ゴゼと呼ばれた大男は、
「お前もビックリしただろ? レミー」
「あたし、あなたみたいな騒がしい人好きじゃない」
「ぐっはぁ!」
………レミーという少女と、温度差のある掛け合いをしていた。
その光景を眺めていると、すっ、とボクの元へ近づいてくる少年の姿があった。
「………クロフトと申します。 以後お見知り置きを」
クロフトと名乗った少年は、少し長い濃い紫の髪を首の半ば辺りで一つに纏めており、スラっとした体格だった。
年齢はボクより2~3歳上位に見える。
「み、皆様いいんですか? ボク、突然来たのに」
するとゴゼさ…ゴゼがポンッとボクの頭を叩く。
「気にすんな! フィサが連れてきたんだ、いい奴に決まってる!」
……ふと、また泣きそうになる。
ボクみたいな異端児、本当にこんないい人達の輪に入っていいのだろうか?
ゴゼさんは大声で笑いながらテーブルに向かう。
そうだ、集まってって言われてたんだ。
ーー話の内容は、会議のようなものだった。
まずはボクの名前も含めた皆の自己紹介。
「初めまして、イギ・レイシヴです! 水操れます!」
それだけしか言えない自分を悔いた。
「名前は一応名乗ってるけど、とりあえず私から。 フィサ・ルーティス。 職業……、戦闘に置いての立ち位置は、魔法戦士よ。 よろしく」
「オレゃゴゼ・ハイン。 斧戦士だ! ま、よろしくな!」
「レミー・フィートよ。 職業は回復魔導士。 よろしくね!」
「……………改めまして、攻撃魔導士のクロフト・フォーレンです。 よろしくお願い致します」
「………クロフトさんは丁寧語でもいいんですか?」
隣の席のフィサさんに小声で話し掛ける。
「彼、頑固なのよ」と返された。
次はこのチームに入った経緯。
ボクは生い立ちやこれまでの経緯を、全て正直に話した。
何故だろう。何度も思うけど、最初はあんなに初対面だからと警戒していたのに。
でも、この“チーム“には不思議な安心感があった。
皆は、どこの馬の骨かもわからないボクを、何一つ責める事無く受け入れてくれた。
思わず涙が出そうになり、それにも「平気だから」と等と言われ、ますます涙が出そうになる。
そしてボクについて、親身になって考えてくれた。
「異世界転移か……。 そりゃ水を操るなんて力、もう持ってる奴いねえもんな、こっちには」
「ええ、記憶喪失というのも気になるけれど」
「突然の“誕生“に“水操“、元からこっちの世界にいてほしかったな」
ボクはボロボロと涙を流した。
「すみません…こんなまともな会話、久しぶり過ぎて……、否定され続けてたのに、こんなに歓迎されて」
「おぅおぅ、これからはオレらがいるぜ! 転移してよかったな!」
頷くボク。
「ボク……許されるならずっとこっちの世界にいたいです」
「転移前は話せる人もいなかったのよね。 気持ち、わかるわ。 ……そうね……。まずはあなた自身の謎をゆっくり解明してみましょう。 お礼っていう訳じゃないけど、私達も手伝うわ。」
「い、いいんですか!?」
「もちろん! ただ、力を貸して!」
レミーちゃんが元気な声で述べる。
「ありがとうございます。もちろんです! ……ただ、」
ボクは一つ区切って切り出した。
「……あの、そろそろボクもいろいろ聞いていいですか?」
すると、
「そう来るのは当然よ。 ごめんなさい、あなたの疑問をここまで蔑ろにして。 答えられるものならい幾つでも答えるわ」
「ありがとうございます」
フィサさんが頷く。
「……教えて下さい、この世界は一体どうなっているのか、“チーム“や“スクシスタンツ“とは何なのか、“リンク・ウィング“は何を意味するのか、そしてどうしてボクの“ウォーター“はこんなに求められているのか」
疑問多すぎですね。
暫く説明会に入りますm(_ _)m