第一話 ー 「名前」
十五話前後で終わりますm(_ _)m
「……ボク、やっぱり異端なんだな」
降り止まぬ雨。
ボクは傘一つ持たず一人ごちた。
そんな事とうにわかっていた。
今更嘆く事もない。また独り言。
口癖のようになっている。
異端者扱いされ、友達さえできず、毎日続く孤独。
寂しくないなんて言ったら嘘になる。
ボクには帰りを迎えてくれる人もいないのだ。
相変わらず雨が弱まったりする様子もない。
ボクも相変わらず傘を持たずーー
……いや、持つ必要がないのだ。
何故ならーー
ボクは、異端だから。
ーー雨が、ボクに降りかかる瞬間、カーブするように奇怪な動きを取り、ボクに降りかかっていなかった。
そう、これが“異端“たる理由ーー。
ボクには両親はいない。
気が付いたら、とある寂れた一軒家にいた。
記憶喪失だろうか、それまでの記憶もない。
だけど、まだ知らない為普通に接してくれたあちらこちらの人に聞いてみたら、不思議な事にこの街で以前のボクを知っている人が全くいないのだ。
陰で話を聞いてしまったのだけど、ボクはある日「急に現れた」らしい。
その時点で疑問だらけだった訳だけど、唯一、ふと“知っている“事があった。
何となく近くの池に立ち寄る。
ボクは軽く右手を上げる。
するとーー
池の水が、渦を巻き縦に流れた。
まるで螺旋階段のように、立ち昇っている池の水。
そう、ボクが異端である理由の一つは、
「あらゆる“水“を操る事が出来る」から。
ボクはこの力を、ありがちだけど“水操“と呼んでいる。
先程述べたように、気が付いたらボクはこの力の使い方を知っていた。
誰に習った訳でもない。
何故だかわからないけど、頭のどこかで「知っていた」のだ。
詳しい事はわからない。
「出生不明」で、「操る事ができる」事以外。
だけど、この操っている様子を街の人に見られていた。
やがてボクが恐ろしい力がある異端児だと街中で噂になるまで、さほど時間は掛からなかった。
……友達も失い。
家族すらいない。
つい最近、いきなり「誕生」したボクは、15歳位の頭と体、多少のお金、そして水を操る事が出来るという力以外、何も無かった。
年齢に関しては、外見で15歳位と通す事にしていた。
ふと我に返ると、
「っ、いけない、こんな所また誰かに見られたらーー」
慌てて水の操作を中断させる。
自分を孤独にしたこの力は、流石に好きにはなれない。
でも、ふと力を使いたくなる瞬間もある。
そして毎日のように考える。
ーーボクは一体、何者なのだろう?
「うわっ!」
ボシャアン!
考えを巡らしていたらーーいつも巡らしているけどーーものの見事に池へ転落してしまった。
この池はそこそこ深いけど、別に大袈裟に取り乱すような事でもない。
ボクは水を操る事が出来るのだから。
軽く精神統一してーー
「……え?」
池の水が可笑しい。
自分から水を遠ざけるように操ろうとしたけど、どんどん水が溢れて来る。
力の使い方を間違えたのか?
「っ……げほっ!」
大量の水を飲み込んしまった。
このままじゃーー
ボクは最悪の展開を想定した。
水を操れるボクなら、こんな事には!
可笑しい、力が失くなったのか!?
だとしたらボクはーー
その時だった。
「!」
体が光りだした。
「まぶっ……うっ、ゲホっ!」
光が何だろうと考える暇もなく、ボクは体が光ったまま沈んでいき、意識を失った。
*
ボクが意識を取り戻したのは、池の中だった。
「(……へ!? まだ水の中!? ボクは死んだんじゃ、いや)」
本能的に生きている事を察し、ボクは咄嗟に“水操“で水から脱出を試みる。
すると水で溺れる前同様、今度は螺旋階段のように縦に水を操る事に成功した。
「よかった、今度は溺れなくて……」
池から上がり、水の流れを元に戻す。
濡れた服を軽く絞り、
「……へ?」
驚愕した。
……人だらけ。
ある者は剣を持ち、ある者は槍を持ち。
またある者は角のようなものを生やした兜を被り、重そうな鎧を着ていたりしていた。
更に、彼らの服装や持ち物等もそうだけど、見た事もない「ギルド」等と書かれてある建物が立ち並び、ボクの頭の中はひたすら混乱するばかりだった。
池で溺死しそうになっていただけなのに、何だこの景色は。
ボクが知っている限り、こんなRPGのような土地は存在しない。
コスプレかな?
それとも知らない人に水操を見られた?
違う、ボクはいつも通る道にある池で溺れただけだ。
池の近くには、殆んど人はいないはず。
ーーまさか、異世界?
彼らも皆非常に驚いているのか、目を大きく見開いている人間ばかり。
何より恐ろしいのは、不思議な服を着ていて刃物まで常備している人物ばかりな事。
さっきからボクを凝視している。
…………何だ。ボク、殺されるのか!?
次の瞬間。
「うおおおおお!」
多くの人間が叫びながらボクの方に突進してきた。
やっぱり、殺す気だ!
せっかく一命をとりとめたのに、殺される訳にはいかない。
それに幾ら能力を嫌っているといっても、今はどうこうと言っている場合ではない。
ボクは自分でも驚く程の速さで、池の水を操り、彼らに向かって水流を放つ。
「それだよ!」
は?
「それだよ、坊や!」
「その力を是非我がチームに!」
「待て! 最初に目を付けたのは俺だ!」
「何を言っている! 俺達のものだ!」
はい?
水流なんて無かった事のように謎の雄叫びを上げながら突進してくる人間達。
「な、何の事だかわかりません! ボクだって死ぬわけにはいかないんです! それにボクはおそらくこの世界の人間ではーー」
………聞いてもらえそうにない。
ボクは恰幅のいい男性や、細身だが力のある男性等、とにかくいろいろな人々に揉みくちゃにされた。
今度は窒息死しそうだ。
「待って!」
腕や足を引っ張られ、窒息気味な混乱状態に陥っている僕にでも、凛としたその声は響き渡った。
「気持ちはわからないでもない。 でも、彼は困っているでしょう? まずは話を聞いてあげて」
女性の声だった。
ボクには姿は見えなかったけれど。
そして女性の声に反応し、周囲はザワザワとし始める。
「あの女、まさか……!?」
気を取られた人達からの拘束(ボク的に敢えてこの言葉で)が多少緩んだ隙を見て、素早く少しでも人の少ない方へと移動する。
「あっ、こら!」
揉みくちゃな中、それでもどんどん人が手を伸ばしたりしてきた。
ボクも流石に悲鳴をあげる。
「た、助けーー」
カキィン!
……鋭い音がし、直後に周囲の異変に気付く。
なんと追ってきた一人の人間の剣が折られていた。
「貴様! 今何しやがー」
「待て! あいつはーー」
男性達が目を見開き、周囲から散り始める。
そうして見えてきたのが、黄緑の髪でロングヘアの、綺麗な女性だった。
「あの女、“スクシスタンツ“だ!」
「逃げろ! 殺されるぞ!」
「くっ、悔しいが今は撤退だ!」
人々がぞろぞろとボクから離れていく。
やがて女性以外誰もいなくなると、
「怖がらせてごめんね。 平気?」
女性の方から声を掛けてきた。
ボクはきょとん、と目を丸くする事しかできなかった。
率直に言って、さっぱり訳がわからない。
でも、助けてくれたんだ。お礼は言わないと。
「いえ、平気です。 助けて下さってありがとうございます」
「そんなに畏まらなくていいわ。 私はフィサ・ルーティス。 一応、“チーム“のリーダーよ。 ……まずは名前を聞いていいかしら?」
この女性は…?
助けてくれたし、悪い人ではないと思うんだけど、ちょっと怪しい。 名前を伝えるのも…
………名前?
そうだ、名前なんてもう誰にも呼ばれないから、ある事自体すっかり忘れそうになっていた。
ボクには願いがあった。
それを、この女性は叶えてくれるのか。
そんな事を考えていると、つい初対面の人に名前を名乗ってしまった。
でも、この選択はボクにとっては間違いじゃなかったのだ。
「…………イギ。イギ・レイシヴです」
「いい名前ね。
“イギ“君。」
もう誰にも呼ばれる事はないだろうと確信していた“それ“。
“名前“。
……嬉しかった。
ボクは初対面の人の前で、涙を溢していた。
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