誘惑
眩しい朝日が僕のまぶたを刺激して目を開ける。目の前には時計。
時刻、8時過ぎ、、、。
体を支配していた気だるさは一瞬のうちに消え去り、脳は急速に活動を始める。
やばい!遅刻する!!
光の速さで準備を終えた僕は最寄り駅まで全力で駆け抜ける。
滴る汗。寝起きだからか疲れはさほど感じない。
成績は悪いが、時間はきっちり守ることだけが取り柄の僕。今、そんな僕の唯一の取り柄がなくなろうとしている!!
駅前につく。電車が今、ホームに入っている。急げ!!
改札をくぐりぬけ、階段を駆け下りる。
ホームは?
右か?
左か?
左!!
電車のドアが閉まり始める!僕のカバンよ!どうかドアをこじ開けてくれ!!
スカッ
虚しくもカバンは空を切る。ドアが完全にしまり、電車が出発する。
「……。」
何故だろう、遅刻が確定したのに心は穏やかだ。これが、悟りの境地なのだろうか。
はぁ…と、ため息をつく。ふと、周りを見ると同じように電車を乗り過ごしたであろう影かひとつ。
同じ学校の制服、見覚えのある風貌。
「成美ちゃん?」
「あれ?翔太くん?」
疲れ果てた様子のふたりはきょとんとして、目を見開いている。
どうやら、今日の補習は2人で説教を受ける事になりそうだ。
「…。ははっ。遅刻だね。」
何だか2人揃って遅刻なんてと、笑ってしまう。
「何だか、2人揃って遅刻なんておかしいね。」
同じ事を考えていたようだ。
彼女はふと、空を見上げる。やがて、いたずらっぽい笑みを浮かべながら僕を見る。
「このまま、サボっちゃおうか…」
その言葉に僕の心は揺らぐ。
どうせ遅刻するなら。と、心の中の悪魔が囁く。
、、、。
「そうだね。2人で明日叱られようか。」
きっと僕も悪い顔してるんだろうな。
2人の心の中の悪魔が固く手を結んだ。