近づく距離
1日目の補習が終わった。長かった、本当に長かった。
もうそろそろ太陽が、ギラギラと輝き出す午後12時過ぎ。僕は光の速さで片付けを終え、帰宅の準備を整える。せめて、午後だけは楽しみたいものだ。
僕の心は、朝とは比べ物にならないほど軽かった。軽やかに立ち上がり、彼女に笑顔を向ける。
「お疲れ様!成美ちゃん!」
すると彼女も、すっと立ち上がる。
「お疲れ様。」
そう言って、彼女は僕に笑いかけた。その声はやはり朝よりも明るい。どうやら互いに、学校終わりの午後に気分が高揚しているようだ。
しかし、男、長谷川 翔太。このまま帰るわけにはいかない。少しでも彼女と一緒にいたいんだ。
煙たがられるかもしれないという、不安をかき消すように、勇気を振り絞る。
「成美ちゃん。途中まで一緒に帰ってもいい?」
彼女はキョトンとした顔をしたかと思うと、すぐにまた笑った。
「いいよ。一緒に帰ろう!」
彼女は元気よく応と拳を上げた。
やったぜ!勇気を出して一歩、踏み出してみるものだ。
一緒に帰れるのは校門までかな?とも思っていた。しかしどんな偶然か、彼女と僕の帰り道は同じ方向だった。
肌を焦がすような視線が太陽から向けられる中。僕達は歩き続ける。
今日補習について、好きな音楽について、共通の話題を探るように話をした。若干の沈黙を挟みながら。
会話を続けるうちに、彼女が別世界の住人から次第に、身近な存在へと変化していく。
あっという間に僕達の帰り道は終わってしまった。
「じゃあね。また明日。」
僕は寂しさからか、少し小さな声で言った。
「また明日!一緒に補習を乗り切ろうね。」
彼女は笑顔のまま、手を大きく振って別れを告げる。
寂しい気もするが、明日からも会えるんだ。そう思うと何だか嬉しくなる。ミンミンとうるさい蝉の声でさえも、心地よい。
僕とは違う道へと歩き出す彼女の背中を眺め、ふと我に返り僕も歩き出す。
いつも通りの帰り道。