第18話 ~木々に囲まれた林の奥で~
皆さまは火の玉という存在をご存じだろうか?
それはよくお化け話や幽霊が出てくる話なんかと一緒に出てくるアレ・・・である
『アレって何だ?』という人はお考え下さい
一般には人魂だとか霊魂だとか言われているアレだが、オイラに言わせればそれは只の自然現象
物語的に言えば魂を目に見える形で表現した空に浮く火の塊といった処であろうか
火の玉とは諸説あるが――
それは昔、遺体を埋めるときに土葬だった為か『埋められた遺体よりガスが生じ、そこに何らかの原因で火が付き人魂にみえた。』とか
さらにはとある大学の教授が証明した、プラズマ現象による自然現象の一端だとか
いろいろと言われていたような気がする
さて、なぜこのような話をしたかというと実はこれには重大な訳がある
話の水増しの為である
よって・・・
こんなどうでもいい話はあっちに置いといて次にオイラが実際遭遇した話を始めよう
この日、オイラは家から一番近くにある雑木林の周りをテクテクと歩いていた
特にこれと言って理由はない――
俗にいう散歩というやつである
暇なのである
これと言ってする事もなかったオイラは辺りを適当に歩く事にした
本当にただの気の向くまま、足の向くままに歩みを進める
すると家の近くにある雑木林の脇を踏み入った時、ふと思い出した事がある
(そう言えば昔、ここでよくクワガタやカブトムシなんかを捕りに来たなぁ~。)
気づけばオイラの足は自然と雑木林の方へと向いていた
「入ろうかな!!」
オイラはちょっぴりと嘗ての懐かしさを覚えながら雑木林の中へと入っていく
今は夏――
木々は数多くの葉をつけ、昔あった数多な記憶を思い出していく
そして雑木林の中には多くの獣道もあった
何故そんなにも多くの獣道があったのかというと・・・
それは、この雑木林は昔から数多くの子供達の遊び場になっているからだ
それゆえに踏みしめられた場所にはこのような道が多く出来あがっている
更に言わせてもらえば犬を散歩している人も結構多い
だからこそ、嘗てのオイラは獣道に落とし穴を作ったりと色々と当時を楽しんだものだ
歩きながらオイラは、『そういえば落とし穴には次の日、バッチリと誰かが嵌ったと思われる穴が開いていたんだよなぁ~。』なんて事を思い出しながら歩く
因みにだが、今なら通る人に申し訳ないと思う所だがこの時の私はまだ小学生。
ご容赦願いたい
オイラは辺りに視線を走らせながら、昔あった当時の様子を思い浮かべて散策する
小さな丘があったり雑草が生い茂っていたりで、これで昔は様々な遊びをしたものだった
(そういえば蟲も結構いたんだよなぁ~)
オイラは昔、数多くの蜘蛛の巣なんかに引っ掛かってえらい目にあった事を思い出した
想像してもらえるだろうか
蟲の多くいる雑木林
その中にある蜘蛛の巣
もちろん蜘蛛の巣には当然のごとく多くの獲物が掛かっており・・・
その蜘蛛の巣に引っかかるという事は――
蜘蛛の巣には死骸が沢山!!
(いかん!!。気色悪いことを思い出してしまった。別の事を考えよう。)
吹き抜ける風が心地いい
そもそもの話、この雑木林は木々もそれほど密集していない
故に昼間にこの場所を訪れればわかると思うが結構明るい
家から離れた他の場所にも木々の密集した雑木林があるがこことは訳が違う
他の場所は結構薄暗いのだ
昼間はこんな明るい雑木林だが、これが夜になれば景色は一変
不気味な雰囲気に変貌するだから不思議なものである
夜になれば街灯も近くにはなく、真っ暗だし暗闇の中では何がいるか分からない
雑木林は蛇も出るし小さな動物だっている
何より暗闇の中というのは全てが不気味に映って見えた
よって小学生の時は親と一緒に朝方、クワガタはカブトムシなんかを捕まえに来たものだ
早朝の明るい時に親がクヌギの木なんかを思いっきり蹴飛ばすとよく上から落ちてくる
そこを急いでオイラが捕まえるのだ
もちろん蹴飛ばしていたのは父親なのだが・・・
また、結構樹液の出ている場所では昼に多くの虫がいたりする
もちろん、その中にクワガタやカブトムシなんかも混じっていた
時にはスズメバチなんかが居る事も多くあった
クワガタやカブトムシは夜行性だからと言う訳か夜にしか捕まえられないわけじゃない
実際の所は、早朝であれば結構いるものである
そんな事を思い出しながら、オイラは雑木林の中を散策する
すると――
「アレ…?」
オイラは首を傾げる
視界の隅に何かを捉えた気がしたからだ
それは極めて赤く、チロチロと揺らめいていた
「何だろう?」
オイラは確認する為にも足を進める
すると今度は何か小さな物音が聞こえた
耳を澄ます
人の囁く声
何の音だろうと思いながらも近づいていく
そこに火が見えた
気がした――
その炎は、まるで意思でもあるかのように木々の隙間を幽鬼のごとく飛行する
炎は揺らめきながらやがては消え、またほどなくして再び燃え盛る
消えては付いての繰り返し
更に何故かそこから小さな男の子の声がする・・・
静まり返った森の中で、その場所からは声だけがやけにはっきりと聞こえ始めた
『死ね・・・死ね・・・』
何かぞっとするかのような嫌な物が胸の中を駆け巡る
もちろん、こんな場所で焚き木をしている者は居ない
気のせいかとも思ったのだがどうにも好奇心というものは抑えられなかった
(近づいて見に行くか?)
オイラは確認の為にと、そっとその火のあった場所へと近づてみてみる
すると、その間にも赤い炎がチラリホラリとまた・・・昼間の木々の間を行ったり来たり
オイラは一歩、また一歩と歩みを進めた
だがその足は極めて遅い
何故か・・・
その時だった!!
蜘蛛がいた
どうでもいいが目の前にでかい蜘蛛がいた
ヤバイ!!
ジョロウグモか?
だがこれは・・・どうでいい
オイラは木の枝で蜘蛛の巣を絡み取りながら慎重に進む
もう一度言うが、蜘蛛の巣には掛かりたくない
特に獲物が沢山付いた蜘蛛の巣には!!
オイラは慎重に歩みを進める
もちろんここは雑木林、蛇にも気を付ける
昔にデカい蛇を見た
更に足元には悪ガキどもが作った落とし穴があるような気がする
かつてのオイラがそうだった
故に一歩一歩を慎重に・・・
最悪、中に小便を入れているかもしれないからな!!
そしたらホント、最悪だ!!
オイラがそうだったしな!!
そんな時でも――
過去を振り返ってみる
(昔はよく遊んだんだよなぁ~)
そんなどうでもいい事を思い出しながら、オイラは歩みを進めた
現地へと到着
だが、炎は見当たらない
(なぜに・・・?)
オイラは慎重にその場所から辺りを覗き見る
確かこのあたりだった筈なのだ
すると今度は声が二つした
どちらも幼さの残る男の子の声
(何を言っているんだろう?)
オイラは聞き耳を立てた
すると今度ははっきりとした声が聞こえた
『死ね、死ね・・・』
『俺だ・・・次は俺だ・・・。俺に殺せろ~!!』
物騒な言葉が飛び交う
すると、次の瞬間!!
――ボッ!!
何もない中空に炎が爆ぜた
炎が生まれた瞬間
オイラの目が見開いた!!
(ヤバイ!)
何か本当にヤバイ物を見てしまった
その瞬間、オイラの中で一気に不安の種が膨れ上がった
(やべぇ!!。ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ・・・)
オイラはその場を後ずさる
この緊急事態に気持ちだけが焦りだす
なぜならば・・・
なぜならば・・・
言うべきか・・・
いや、言わざるべきか・・・
オイラは覚悟を決める
逃げよう!!
そこで見たもの
それは――
小学上級生位の子供がスプレー缶片手に持ってライターでファイヤー
森の中でのファイヤー
そしてその御相手と言うのは奴だった
お尻はデカくて安産型。奴は興奮するとその先端からまるで早漏のように怪しい液体を〝ドピュ、ドピュ!!″と飛ばす
危険な奴だ
奴って誰だって?
自分で考えてくれ
黒と黄色のゼブラ模様のアイツである
それにしても大きなスズメ蜂に向かって火炎放射なんて馬鹿かと思った
そう、そうなのだ
小学生位の男の子がスプレー缶片手に、樹液に集ったスズメバチ目掛けてファイヤーしていたのだ
そしてもう片方の男の子も神経を疑われる
何せこいつが持っていたのはなんと驚きの空気銃
そんな物でで蜂を狙えるわけねぇ~だろ
オイラはその場をクバワ、バクワバラと唱えながら立ち去った
危ねぇ遊びをするガキも居たもんだ
その後、あの少年達はどうなったのかと言えば・・・
それを知る者はいない
もし知っている者がいるとすれば、それは本人達だけだろう
お分かりいただけただろうか
あの時、どれほどの危険が差し迫っていたかという事に
林が火事になったら大変だ
今でも思い出せば子供の頃って無謀だよなぁ~なんてかつての思いが駆け巡る
よって――
皆も火遊びには気をつけよう!!
えっ?
スズメバチ?
そんなのはどうでもいい




