8 王子との勝負
レオン・フォン・トライオットは、トライオット王国の第二王子で、年齢は八歳。趣味は剣術と、フォウルというチェスに似たボードゲーム。勉強は少し苦手。
以上が、この顔合わせでミサーナが知ったレオンの情報である。
そして現在、ミサーナはレオンと戦っている。もちろん物理的にではなく、レオンの趣味だと言う、フォウルというゲームでだ。
チェスと似ているのだが、違うところも多く、普通のチェスならそこそこ強かったミサーナも、少し苦戦していた。
違う点としては、駒が増えている。これはこの世界独特のもので、魔術師や竜騎士というものがあった。
それから、待ったが合法になっており、合計三回までなら許されるらしい。
そして………
「待った!待っただ、ミサーナ!今のは無しだぞ!」
「えー?またですか?レオン様の待ったは、これでもう三回目ですけど、本当に使いますか?」
「え!?えーと、じ、じゃあ使わない…」
「それならこれで、チェックメイトです。私の勝ちですね」
「あっ!!ずるいぞ!さっき待ったを使っていた方が良かったじゃないか!今のは無しだ!無し!」
「えー……まぁ、いいですけど……」
割と楽しく遊んでいた。ちなみにこれは五戦目で、三回目までは接戦だったが、その後は慣れてきたミサーナが圧勝している。戦績はミサーナの三勝一敗。そろそろ四勝になりそうである。
そして、今度もミサーナの勝ちとなった。
「ぐぬぅ………また負けてしまった……いや、もう一回!もう一回だ!勝つまでやるからな!」
「いいですよ、次も私が勝ちますけどね」
「何だと!?」
そう言って、駒を並べ始めていると、レオンの付き人が声を掛けてきた。
「あの……レオン様、ミサーナ様、そろそろお時間なのですが………」
「何?もうそんな時間か、後一回だけでも出来ないか?」
「いえ、もう本当に限界なので……」
「そうか………それなら仕方ないか。悪いな、ミサーナ。勝負は無しになってしまった」
本当に申し訳なさそうなレオンが、ミサーナに謝罪する。
「いえいえ、気にしないで下さい。レオン様が謝る事では無いですし、それにどちらにせよ、私の勝ちですからね」
笑顔のミサーナがそう言うと、レオンの動きが止まる。
「だって、今のところは四勝一敗で私の勝ちじゃないですか。後一回勝負してレオン様が勝っても、四勝二敗で私の勝ちですよ?」
それがトドメになったようで、レオンが床に崩れ落ちた。しかしすぐに起き上がって、ミサーナを睨みつける。
「お、覚えておけよ!次にやる時は絶対に私が勝つ!それを忘れるなよ!」
レオンは捨て台詞を吐いて、部屋から出て行こうとする。
「あ、レオン様、フォウル盤と駒を忘れてますよ」
ミサーナがそう言うと、レオンは再び動きを止めて、ゆっくりとこちらに振り返る。
「それは、私が勝ったら返してもらう。だから、それまで預かっておけ」
そう言って、レオンは今度こそ部屋から出て行ってしまった。
「…………『少年漫画』かよ……」
「何ですか?ミサーナ様」
ミサーナが小さく呟いたのが聞こえていたようで、アイリに訊かれた。つい日本語が出てしまったようだ。
「いや、何でもないよ」
「そうですか?」
微妙に腑に落ちない様子のアイリだったが、なんとか納得してくれたようだ。小声で、「まぁ、ミサーナ様ですしね」と呟いていたのだが、もちろんミサーナには聴こえていなかった。