閑話 おかしな王女様
他の人の視点で書くのは難しいですね……
私はアイリ。ザンツェルト王国の王宮で、メイドをしています。
突然ですが、最近王妃様が四度目の出産をなされました。名前はミサーナと言い、とても可愛らしい女の子です。
そしてこの度、私はミサーナ様の乳母に任命されました!これはとても名誉なことです。王族に信用されているという、これ以上ない証拠なのですから。
そして、一昨日から早速ミサーナ様のお世話をさせて頂いているのですが、少々おかしい気がします。
まず、ミサーナ様は泣きません。産まれた直後はちゃんと泣いたらしいのですが、その後は全く泣くところを見ていません。手がかからないのは楽ですが、少し心配になってきます。
それから、言葉を理解している気がします。これは流石に私の思い込みだと思いますが、名前を呼ぶとしっかりこちらを見ますし、いい天気ですね、というと窓の方を確認しています。……思い込みですよね?
三ヶ月程経ちました。
最近はミサーナ様と散歩に行くようになりました。どうも部屋よりも外の方が好きなようです。部屋だとボーっとしていることが多いのですが、外に出ると目をキラキラさせて色々な場所を見ています。
それと、お姉さんも気になるようですね。時々様子を見に来る、ジーニー様とフリーダ様をずっと見ていますから。
それから更に半年程経ちまして、ミサーナ様がハイハイ出来るようになりました。
最近の散歩は範囲を広げまして、庭園へ行くようになりました。王宮の中をウロウロするよりも、こちらの方が好きみたいです。お花や草木が特に好きなようで、よく手を伸ばしています。やっぱり女の子ですね。
そして、前々から可愛らしいと思っていましたが、最近になって更に可愛くなっています。空よりも蒼く透き通った瞳に、雪よりも白い純白の髪。まだ生後九ヶ月ですが、将来は絶対に美人になります。間違いありません。
今日はミサーナ様のお誕生日です。今日でめでたく一歳になりました。そして、つい先程お祝いをしたところです。
そんなことよりですね、ミサーナ様は今日歩けるようになったんですよ!まだフラフラしてはいますが、しっかり歩いています。目を離すと何処かへ行ってしまいそうになるので、油断ができません。
誕生日から二ヶ月経ちました。
最近、ミサーナ様が話すようになりました。これもおめでたい事なのですが、やっぱり少しおかしい気がします。お腹が空いたなどの言葉を話すのは全く問題無いのですが、今、お礼を言われました。しっかりと私の名前を呼んでありがとう、とですよ。驚く前に怖くなります。
そして、この後お礼なんてどうでもよくなる発言をミサーナ様がされました。
「本、欲しい」
本が欲しい。これは流石に一歳二ヶ月の子供が言うことではないでしょう。今、私は間違いなく誰が見ても驚いた顔を晒している筈です。頭の中では、どうしてミサーナ様が本を知っているのか、だとか、色々な疑問が渦巻いています。
ですが、そんな事は関係ありません。何故なら私は本が大好きだから!将来ミサーナ様が本好きに育ってくれれば、それだけでも嬉しいです。なので早速図書室に駆け込んで、童話を借り、ミサーナ様の待つ部屋へ戻りました。
部屋に戻り、まずは読み聞かせを行います。内容を考えると、ミサーナ様にはまだ早い気がしましたが、私が好きなお話ですし、本人も普通に聞いているので問題無いでしょう。
最後まで読み終えましたが、ミサーナ様は最後まで真剣に聞いていました。わざわざ読んだ甲斐があります。でも、お話よりも本の方に興味があるみたいですね。
文字を覚える時にも役に立つだろうと思い渡してみると、とても喜んでくれました。
すぐに開きましたが、読めなかったようで固まってしまいました。ミサーナ様には悪いですが、読めなくて良かったです。これで読めていたら、おかしいを通り越して不気味ですからね。
まぁ、軽く教えるとすぐに読めるようになったようなので、あまり変わらないかもしれませんが……。
ミサーナ様が二歳になりました。以前から図書室に行きたいと強請られていたので、許可することにします。
お散歩がてら早速向かいます。足取りが軽く、いつもよりニコニコしていますから、とても喜んでいますね。本当に可愛らしいです。
図書室に着きました。扉を開けると、ミサーナ様が中に入り、足を止めました。ずらりと並んだ本を見て驚いています。
ミサーナ様がポカンと口を開けて、凄いと呟きました。それに思わず食い気味で返事をしてしまいます。
少し引かれてしまったかもしれません。
その後もミサーナ様は、しばらくぼんやりとしていたので、とりあえず声をかけます。するとハッとしたようになり、今度はオロオロし始めました。
今度は何事かと思っていると、ミサーナ様の方から質問が来ました。
どうやって目当ての本を見つけるのか?とのことで、よくよく考えるとそう思うのは当然でしたね。ミサーナ様は魔法の事も何も知らないのですから。
まずは読みたい本を聞きました。すると返事は……歴史書。何を考えて歴史書なのでしょう。本当にミサーナ様二歳なのですか?
……それはともかく、欲しい本は分かったので魔道具に『歴史書』と書きます。
書き終えると、いつものように本棚から本が飛んできました。ミサーナ様に渡そうとすると、口を開けて驚いています。……私も驚いている時はこのような顔なのでしょうか。
驚きつつも本を受け取ったミサーナ様はじっくりと読書を始めました。
あれから三日経ちました。ミサーナ様は既に歴史書を読み終えています。……読む速度が私と同じくらいなのは、もう気にしない方が良いのでしょうね……。
本を読み終えたミサーナ様が魔法を使いたいと言い出しました。
……魔法、ですか。
そういえば、あの歴史書には勇者の話が載っていましたね。おそらくは、それに憧れているのでしょう。
ですが、ミサーナ様が魔法を使える確率は低いです。ミサーナ様が悪い訳ではありませんが、こればかりは運ですから。どうしようもありません。
ここは心を鬼にして現実を教えます。態々負ける確率の高い賭けをして、傷ついて欲しくないのです。
覚悟を決めて伝えると、ミサーナ様は多少は驚いていたようですが、特に気にした様子がありません。
………覚悟を決めた私が馬鹿みたいですね……
意思は固いようですから、いくら言っても無駄でしょう。それに、ミサーナ様は賢いですから駄目ならすぐに諦めそうです。
いつもより少し楽しそうなミサーナ様を連れて、国王様の書斎へと向かいます。読んだ事はありませんが、魔導書があると聞いた覚えがあります。
書斎に到着しましたが、気分が乗りません。そんな私の気も知らず、ミサーナ様は本当に楽しそうです。
溜め息を漏らしながら、扉を開くと部屋に国王様が居ました。まぁ、当然なのですがとても面倒です。私が説明しようとすると、代わりにミサーナ様が説明してくれました。
成長を噛み締めている間に、ミサーナ様の説明が終わったようです。国王様は納得したようで、仕事に戻って行きました。
そして、早速ミサーナ様は魔導書を読んで水晶に触れました。確か、光ると魔法が使えた筈です。
のんびり五分程待っていると、水晶が光りました。しかも七色に光っています。光った所も初めて見ましたが、七色に光らせたのなんて勇者ぐらいしか聞いたことがありません。
私が驚いている間にも、ミサーナ様はどんどん先に進みます。
今度は初級魔法を練習なしでいきなり使いました!
……と、思ったら急に叫んで、火のついた指を腕ごと振り回します!周りには本もあるので、慌てて止めますが中々落ち着いてくれません。結局、二十分程かけてようやく落ち着いてくれました。
ミサーナ様が落ち着いたので、私も少し休んでいると、またミサーナ様がおかしなことを始めました。腕を振り回したり、もう片方の手で引っ張ったり、指をしゃぶったりと、文字通り奇行に走っています。魔法を使っておかしくなってしまったのでしょうか。
そう思ってミサーナ様を見ていると、その奇行をアッサリとやめて普通の魔法を使い始めました。先程のは何だったのでしょう。
それはともかく、これから国王様に報告に行かなければなりません。憂鬱です。
自分を叱責しながら国王様に今日の出来事を報告しました。魔法の事を聞いた国王様の笑顔が、とても怖いと感じました。
ミサーナ様が魔法を使ってから一年程経ちました。ミサーナ様はあれから毎日練習をしています。以外と努力家で好感が持てますね。
それから、途中で外で練習させて欲しいと頼まれました。
碌な事にならない気がしたので許可しませんでしたが、良かったのでしょうか?
どちらにせよ、なんとなく罪悪感があったので、今日からは訓練場の使用を許可しました。それと同時にお勉強も始めたので、あまり魔法の時間は取れない筈です。完璧な作戦ですね!
はい、大誤算です。ミサーナ様、勉強は完璧でした。文字を書くのに少し苦戦した程度で、それ以外は本当に完璧です。文句の付け所がありません。
仕方がないので、訓練場に連れて行きます。すると、早速魔法を使い始めました。初級魔法を使っていますが、最近詠唱を短縮しています。私には魔法が使えないので難しさが分かりませんが、間違いなく凄いというのは分かります。
一頻り初級魔法で肩慣らしをしたミサーナ様は、今度は中級魔法を使い始めました。これも、初めての筈なのに普通に使えています。
ミサーナ様の事なら、今更何があっても驚かない自信がついてきましたね……
そんな、為にならない事を考えていると、ミサーナ様が炎の竜巻を起こしました。立て続けに今度は雷を落とし、訓練場を荒らしています。もう地面がぐちゃぐちゃになっています。
……ミサーナ様の事なら驚かない自信なんて、一瞬で砕けましたね。
とりあえず今後の為にしっかり叱って、上級魔法の使用を禁止しましょう。
これから先、一体ミサーナはどれだけのことをやらかすのか、少し考えて頭痛がしたので、アイリは考えるのをやめた。