5 魔法を使う
「おぉ………!」
ミサーナの触れた水晶が七色に光り始めた。視界の端でアイリが驚いているのを感じるが、それを無視して水晶から手を離し、本の続きを読む。
「もう、水晶が光ったら色を確認しましょう。その色が貴方が使える魔法の適性です。火なら赤、水なら青、風なら緑です。適性は全部で七個あるので、細かくは下の図をよく確認して下さい」
早速確認してみると、適性の種類がなかなか分かりやすく書いてあった。前述の通り、火が赤、水が青、風が緑、土が茶、光が黄、錬金術が橙、そして瞬間移動などの特殊なものが、白。ミサーナは七色に光ったので全部使えるらしい。
それから、光の強さも関係があるらしく、強ければ強いほどその色の適性が高いようだ。ちなみにミサーナは全部均等に光っていたので、偏りは無い。
「とりあえず、全部使えるのかな?じゃあ次は初級魔法の練習をしよう」
初級は名前の通り基礎的なもので、指の先にマッチ程の火を灯したり、手のひらに小さい水球を生み出すような地味なものだ。
この世界の魔法には詠唱が必要らしく、それを覚えて唱えなければならない。
「えーと、火の魔法は…『火よ、我が手に光を灯せ、火種』」
試しに唱えてみると、指先を引っ張られるような感覚があり、そしてそこに小さな火が着いた。
「うわぁ!?ちょっと待って!?熱い熱…くない!?」
「ミ、ミサーナ様!?大丈夫ですか!?」
アイリが慌てて聞いてくるが、ミサーナはそれどころではない。まだ引っ張られている感覚は続いているし、指先に火が着いているのに全く熱くないしで、パニックになっている。
その後、しばらく騒いでようやく落ち着いた。火はすぐに消えたものの、パニック状態はなかなか治らなかった。アイリに多大な迷惑をかけた、とだけ言っておこう。
そしてミサーナは、椅子に座って先程の魔法について考えていた。
(ビックリした…なんとなく唱えただけだったのに………特に何も考えず声に出したのに、使えた…詠唱に意味があるだけ?まぁ、どうでもいいか。それより指を引っ張られる感覚は、多分魔力が動く感覚だと思う。その感覚を覚えて、無詠唱で使えるようになるっていうのはよく聞くやつだな。わざわざ覚えるのは大変だし、試してみようか)
前世から行動力のあったミサーナは、早速試し始めた。イメージだけで引っ張るのは無理だったので、手を振り回してみたり、片手で引っ張ってみたり、口で吸ってみたりしたが、どれも感覚としては違った。
(あとは…傷をつけて血を流す……のは痛そうなので却下。もう思いつかないなぁ)
それに、さっきからずっとアイリに変な目で見られている。ここら辺が潮時だろう。
その後、他の初級魔法を試しても引っ張られる感覚はあったが、自力でその感覚を掴むことは出来なかった。
初めて魔法を使った日から、一週間程経った。ミサーナの周りには特に変化はなく、あっても、アイリが報告したであろう王様の笑顔が前より増えていることぐらいだ。
(気持ち悪い笑顔だった。確か、宝くじを見つめる親戚のおじさんがああいう顔をしてた気がする)
おそらくは、そういうことだろう。とても珍しく才能のありそうな魔法使い見習いが、自分の娘として生まれたのだ。しかもそれが王女となれば、使い方はいくらでもある筈である。土地の開拓に使うのは外聞が悪いとしても、政略結婚に使うには何の問題もない。
(まぁ、そんな事になったら全力で逃げ出すけどね。いや、成人したらどちらにせよ逃げるから関係ないか)
そして、あれから毎日練習を続けていたミサーナだったが、少しだけ感覚を掴むことができた。今なら最後まで詠唱しなくても、魔法を使うことができるだろう。
練習は、そろそろ中級魔法も使えそうなのだが、流石に室内で火の矢や、水の槍を撃つわけにもいかないので、大人しく初級で練習をしている。一度外で練習出来るようにアイリに頼んだのだが、お許しがでなかった。
さらに一週間程経ったある日、無詠唱ができなさそうなことにミサーナは気づいてしまった。正確には、詠唱の短縮は可能だが、口を開かずに使うことができない。もっと言えば、ただ口を開けていれば良い訳ではなく、何かしらのキーワードになる言葉が必要だ。
(詠唱で少しでも魔力が動けば、後は自力で動かせる。でも、最初の動き無しで魔力を動かすことは出来なかった。いや、ただ単に不器用なだけという可能性もあるか?)
色々と考えていたが、結局答えは出せなかった。