31 罅割れ
短いです
夏休みが終わった。
終わって、しまった。
ドラゴンを狩り終え、数日の休暇を楽しんだミサーナだったが、その後すぐに次の任務が発生。そしてまた数日の休暇。
幸いドラゴンほどの強敵はいなかったものの、苦戦を強いられた敵は多く、数日の休暇の間に遊んだりすることは出来なかった。
そして、そんなこと繰り返している内に、気付けば夏休みが終わっていた。
「くっそぅ……」
物凄く納得がいかない。
友達と遊ぶ計画(立案しただけ)が水の泡になってしまった。
戦闘力は上がった気がするが、それは別に求めていない。いや、必要ではあるが、今でなくとも良かったのだ。
とはいえ、ミサーナに時間を戻す術は無い。
どれだけ後悔したところで、もう夏休みは終わってしまったのだ。そう受け入れようではないか。
「やっぱ無理だわ」
夏休み明け一日目の学校で、クラスメイト達が夏休みに遊んだ話をしているのを聞き、そう確信した。とてもモヤモヤする。
みんなで集まって遊んだりしたらしいですよ。ミサーナは危険と血に塗れていたというのに。
子供っぽい言い分であると理解はしているが、ズルいと思ってしまう。
そんな感じで軽く病みかけていたミサーナに、アリアが声を掛けてきた。
「おはよう!久しぶりね!」
「……おはよう」
普通に返事をしたが、ミサーナはとても驚いていた。
ミサーナと違って他にも友達がいるアリアが、態々ミサーナの所に来るとは思わなかったのだ。
正直めちゃくちゃ嬉しかった。顔がニヤけそうになるのを堪えている。
「夏休みの間なにしてたの?何回か遊びに行ったけど留守って言われたのよね」
「あー……ちょっと任務というか仕事してたんだよね、ごめん」
「へぇ!任務ってどんなの?モンスター狩りとか?」
「大体そんな感じかな、魔物狩りだったよ」
ミサーナがそう言うと、アリアが驚く。
「すごいわね、ミサーナはもう魔物を狩れるの」
そう言われると、ミサーナとしては嬉しい。
灰色、というか血煙色の夏休みが報われたような気がしてくる。
「どんな魔物を狩ったの?」
「うーん、えっとねぇ……」
これは慎重に答えないとマズい気がする。
迂闊にドラゴンとか言ったら、嘘吐き呼ばわりされたりしないだろうか。
とりあえず、一番弱かった魔物を言おう。
「ヴァナラ、とかかな」
「ヴァナラって、猿の?」
「そうそう」
猿の魔物だ。文句無しに最弱だった。
ちょっと動きが速くて土魔法を使うだけの猿だったし。
どれだけ速くても、『ファイアバレット』より遅く、柔い時点でイチコロである。
……まぁ、その時点で大概の生物がイチコロになる点に触れてはいけない。相手が悪すぎる。
「そうなの!やっぱりすごいわ!」
やさしい。いやし。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「何故ですか!」
アルフェルと呼ばれる男に、執事風の格好をした男が叫ぶ。
「前に言った通りだ」
だが、アルフェルには少しの動揺もなく、淡々とそう答えた。
「私はそれに納得出来ていない!」
「お前の納得は必要ない」
続く執事風の男――イーガスがそう言うも、辛辣な言葉が返された。
「今はまだ、機が整っていない」
アルフェルの言葉に、イーガスが歯噛みする。
「分かり、ました……」
しかし、その激情を堪え、それを表に出す事なく部屋から退出した。
元々プライドが高く、激情家である彼としては、よく耐えた方であろう。
「何故……何故分かって下さらないのだ……」
その言葉は、いやに響いて聞こえた。




