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転生王女は元男の子  作者: いでりん
35/36

31 罅割れ

短いです

 夏休みが終わった。


 終わって、しまった。


 ドラゴンを狩り終え、数日の休暇を楽しんだミサーナだったが、その後すぐに次の任務が発生。そしてまた数日の休暇。

 幸いドラゴンほどの強敵はいなかったものの、苦戦を強いられた敵は多く、数日の休暇の間に遊んだりすることは出来なかった。


 そして、そんなこと繰り返している内に、気付けば夏休みが終わっていた。


「くっそぅ……」


 物凄く納得がいかない。

 友達と遊ぶ計画(立案しただけ)が水の泡になってしまった。

 戦闘力は上がった気がするが、それは別に求めていない。いや、必要ではあるが、今でなくとも良かったのだ。


 とはいえ、ミサーナに時間を戻す術は無い。

 どれだけ後悔したところで、もう夏休みは終わってしまったのだ。そう受け入れようではないか。




「やっぱ無理だわ」


 夏休み明け一日目の学校で、クラスメイト達が夏休みに遊んだ話をしているのを聞き、そう確信した。とてもモヤモヤする。

 みんなで集まって遊んだりしたらしいですよ。ミサーナは危険と血に塗れていたというのに。

 子供っぽい言い分であると理解はしているが、ズルいと思ってしまう。


 そんな感じで軽く病みかけていたミサーナに、アリアが声を掛けてきた。


「おはよう!久しぶりね!」


「……おはよう」


 普通に返事をしたが、ミサーナはとても驚いていた。

 ミサーナと違って他にも友達がいるアリアが、態々ミサーナの所に来るとは思わなかったのだ。

 正直めちゃくちゃ嬉しかった。顔がニヤけそうになるのを堪えている。


「夏休みの間なにしてたの?何回か遊びに行ったけど留守って言われたのよね」


「あー……ちょっと任務というか仕事してたんだよね、ごめん」


「へぇ!任務ってどんなの?モンスター狩りとか?」


「大体そんな感じかな、魔物狩りだったよ」


 ミサーナがそう言うと、アリアが驚く。


「すごいわね、ミサーナはもう魔物を狩れるの」


 そう言われると、ミサーナとしては嬉しい。

 灰色、というか血煙色の夏休みが報われたような気がしてくる。


「どんな魔物を狩ったの?」


「うーん、えっとねぇ……」


 これは慎重に答えないとマズい気がする。

 迂闊にドラゴンとか言ったら、嘘吐き呼ばわりされたりしないだろうか。

 とりあえず、一番弱かった魔物を言おう。


「ヴァナラ、とかかな」


「ヴァナラって、猿の?」


「そうそう」


 猿の魔物だ。文句無しに最弱だった。

 ちょっと動きが速くて土魔法を使うだけの猿だったし。

 どれだけ速くても、『ファイアバレット』より遅く、柔い時点でイチコロである。


 ……まぁ、その時点で大概の生物がイチコロになる点に触れてはいけない。相手が悪すぎる。


「そうなの!やっぱりすごいわ!」


 やさしい。いやし。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「何故ですか!」


 アルフェルと呼ばれる男に、執事風の格好をした男が叫ぶ。


「前に言った通りだ」


 だが、アルフェルには少しの動揺もなく、淡々とそう答えた。


「私はそれに納得出来ていない!」


「お前の納得は必要ない」


 続く執事風の男――イーガスがそう言うも、辛辣な言葉が返された。


「今はまだ、機が整っていない」


 アルフェルの言葉に、イーガスが歯噛みする。


「分かり、ました……」


 しかし、その激情を堪え、それを表に出す事なく部屋から退出した。

 元々プライドが高く、激情家である彼としては、よく耐えた方であろう。


「何故……何故分かって下さらないのだ……」


 その言葉は、いやに響いて聞こえた。

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