29 任務
はい!!!!!!!
試験も終わり長期の休みになった。
結果は分からない。態々貼り出されたりしないからだ。
だが、そんな事はミサーナにはどうでもいい。
大事なのは長期の休み……所謂夏休みだ。
学生のイベントといえば、これに優るものは無いだろう。
折角友達と言えそうな人もできたのだ。休みを利用して親交を深める以外にする事など無い。
そう思いながらミサーナが家……というか、城っぽい建物に帰ると、何時ものようにメイドのハンナが待っていたのだが……。
「お帰りなさいませ、ミサーナ様」
「うん、ただいま……で、何で私の手を掴んでるの?」
しかも、割としっかりがっちりと掴まれていて、振り解けない。
「アルフェル様に呼び出されていますので、着いてきて下さい」
「やです」
『身体強化』も使い、無理やり全力で逃げようとするミサーナ。
だが、それをハンナが許さない。何故かミサーナよりも強い力で止められる。
「ちょっと待って?力強過ぎない?」
「逃げようとすると思っていましたからね。分かっていれば対策くらい出来ますよ」
どうやら最初から戦略で負けていたらしい。
話している間にも逃げようと踏ん張っているが、ハンナの手も足腰も動かせない。
ハンナの本気度にミサーナの頬が引き攣る。
「では、行きましょうか、ミサーナ様?」
「……はぃ」
そして、必死の抵抗虚しくミサーナは連行された。
「任務、ですか?」
「あぁ、任務、というか仕事だ」
例の玉座の間に連行されたミサーナは、アルフェルに謁見していた。
相変わらずプレッシャーが凄まじいが、あの幹部っぽい連中が居ないので、これでもかなりマシなのだ。
さて、この謁見を簡単にまとめよう。
「お前も知っているだろうが、魔人族は今人材が少ない」
「はぁ……」
「そして、中でも戦闘をこなせる者となると、更に少なくなる」
「はぁ……」
「だが、その戦闘をこなせる者には仕事を任せている事が多い。今もそうだ」
「はぁ……」
「そこで、お前だ」
「え?」
「それなりに実力があり、今手が空いている者。学校は今日から休みだろう?」
「えーと、そうですね」
「では時間があるな、任務を命じる」
「いや、でも」
「任務を命じる」
「はぃ……」
以上。
細かい事はハンナに伝えているから、そちらに訊け、だそうだ。
「で、任務って何するの?」
「はい、ご説明しますが……機嫌悪くないですか?」
「別に」
どう見ても悪いのだが、その理由が友達と遊ぼうと思っていた予定が崩れたから、とは、想像もしていないだろう。元々遊ぶ約束もしていないのだが。
「ミサーナ様がそう言うなら構いませんが……まぁ、任務の内容は魔物の討伐です」
「魔物?モンスターじゃなくて?」
「はい、そこから説明しますね。モンスターは所謂凶暴な動物ですが、魔物は簡単に言うと、魔法を使うモンスターです」
「もう嫌になってきたんだけど帰っていい?」
「ダメです。今回の任務では魔物の魔石を採集しに行ってもらいます。魔石は魔物などの魔法を使う生物の心臓に発生する石で、色々と使い道がある素敵な石ですね」
初めて聞いた情報だった。
魔物とやらは初耳だし、魔石についてはあるのは知っていたが、魔法を使える生物からしか採れないのは知らなかった。
「……魔石って魔人族からも採れるの?」
「…………えぇ」
「そう……」
何となく、魔人族が少ない理由が分かった気がした。
「まぁ、いいや、何を狩るの?」
「えぇと、最初は――」
「ねぇ、あれは人一人に倒せるものじゃないと思うんだけど」
「貴女は人ではなく吸血鬼でしょう?」
ミサーナの怖気付いた言葉に、割と辛辣な言葉が帰ってきた。
「もう帰りたいよぉ……」
「まだ挑んですらいないのに何言ってるんですか」
「あれに挑むのは自殺行為だから」
ミサーナがそこまでビビる相手とは一体何なのか。
「ただのドラゴンじゃないですか、あんなの大きなトカゲと変わりませんよ」
そう、ドラゴンであった。
体長は凡そ20mほど。
長く靱やかな尻尾を揺らし、一対の蝙蝠のような巨大な翼を羽ばたかせ、四本の太い脚を持ち、その全身を紅い鱗で彩った、俗に言う西洋竜がそこに居た。
「ただのトカゲはあんなにデカくないし、翼も付けてないから。そう思うならハンナが行ってきてよ」
「わたしは『転移』以外は並以下だと来る前に言ったじゃないですか。あんなのの前に出たら一瞬で消し炭です」
「よくそれで私に行けとか言ったな」
ミサーナが半眼になってハンナを睨むが、堪えた様子は全く無い。
「ミサーナ様こそ、態々剣を所望したのに何を遊んでいるのですか?敵はあちらですよ」
「ぐぅ……」
ハンナの言う通り、ミサーナは新しい剣を手に入れていた。
普通のロングソードの先端を折り、無理やり曲げたような形をしていて、色は漆黒で所々錆びているという、禍々しさを感じる中二病ソードである。ちなみに斬れ味は普通だ。
どうしてもこれが良かったとかではなく、宝物庫に入っていた中で、最も丈夫な物がこれだったのだ。丈夫でないと魔法剣を遠慮なく使えないので、仕方がない。
「あーもう……死んだら怨むから……」
「では、怨まれないよう、応援しておきますね」
「囮にしてやろうか」
「別に良いですけど、わたしが死んだらミサーナ様は帰れませんよ?」
「くそぉ……」
「言葉遣いがなってませんねぇ」
確かに此処にはハンナの『瞬間転移』でやって来たので、ミサーナ一人では帰れない。
逃げ出して人間の街に行くのも、現実的とは言い難い。折角友達も出来たし。
最後まで調子の良いハンナを後目に、ミサーナがドラゴンに『飛行』で近づいて行く。
正々堂々なんて馬鹿なことは考えない。気付かれない内に、後ろから全力で奇襲する。
使うのは魔法剣。纏わせるのは『風刃』だ。
更に、いつもより多く魔力を使い、『風刃』を強化していく。
これも丈夫な剣あってのものなので、中二ソード様様だ。
限界まで魔力を注いだ剣を構え、ドラゴンの頸に狙いを定める。
「――――」
そして、全力でその頸に剣を叩きつけた。
ガギィン!
だが、その一撃はあっさりと鱗に弾かれた。
幸い剣が折れるようなことは無かったが、頸は斬れるどころか軽く傷がついた程度。
その上、当然ながらドラゴンに気付かれた為、奇襲アドバンテージも失った。
この状況を一言で表すなら――
「最悪だな」
「グォォオオオオオゥ!!」
戦いが始まった。
中二ソードの形はこんなの
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大体こんなのです
『・』は無いものとして考えてくれ。AA(かどうかは微妙)作るの難しすぎる。




