28 決闘
誰か褒めてくれ
初撃はミサーナの『火球』だった。
『風刃』や『ファイアバレット』など、殺傷力の高い魔法を使わなかったのは、ミサーナが冷静だった証拠だろう。
「舐めるな!」
が、あっさりと『水球』で相殺される。
続けてルガスが四発の『火球』を放った。
ミサーナもルガスと同じ様に『水球』を放ち、相殺する。
この時点で、ミサーナは自分の勝ちを確信した。
ルガスがどれほどの力を込めて『火球』を放ったかは不明だが、ミサーナの『水球』はかなり力を抜いて放った。ルガスが手を抜いているとは思えないし、全力とまでは行かなくとも、それに近い力で放っている筈だ。にも関わらず、結果は相殺。
つまり、ミサーナが本気で魔法を使えばルガスはそれを相殺出来ないだろう。
であれば、ミサーナはそれなりに本気で『火球』なり何なりを連打しているだけで勝てる筈だ。
だが、ミサーナはその手段を選ばない。
確かにこれは負けられない闘いだが、ただ勝つだけでは意味が無い。その勝ち方をしても、ミサーナが自分を認められないのだ。
故に、ルガスにとっては業腹だろうが、ミサーナは手を抜く。いや、ルガスと同じ土俵に立った上で勝利する。
「食らえ!」
次にルガスが放ったのは『風刃』。
ミサーナは『障壁』で対応。
それにより生まれた隙に単発の『火球』を撃ち込む。
「またそれか……!」
ルガスはそれを回避しようとし……。
「なっ!?」
『火球』が爆発し、軽く吹き飛ばされた。少し火傷も負っているだろう。
ミサーナが今使ったのは、アリアに教える為に考えた『爆裂弾』の応用魔法だ。
『爆裂弾』との違いは色々あれど、一番の違いは威力だろうか。『爆裂弾』が貫通した後、対象の内部で爆発するのと違い、この『火球』は当たった瞬間爆発する。
分かりやすく言うと、かなり弱い。
爆発しても、殆どが空中に逃げて対象に当たらないのだ。丸太に当てた時の威力も、多少『火球』より強い程度でしかない。
ただ、その代わりに使用難易度は『火球』と同程度で、とても簡単だ。
アリアに教えると、十分程で使えるようになった。
なので、これくらいならルガスと同じ土俵と言っても良い……と思う。
アリアに使えたなら彼にも使えるだろうし、これくらいの改良なら創意工夫の範囲だ。
「『火球』『岩弾』『風刃』『火矢』」
「ッ!?」
ミサーナから四種の魔法が放たれる。
どうやら、魔法名を唱えた方が使い易いらしく、態々口に出して使用している。
ルガスは四つまで魔法を同時に使用出来るようなので、ミサーナが同時に使用するのも四つまでだ。
そして対する彼、ルガスが取った行動は――
「『火球連弾』発動!」
空中に、五十近い数の『火球』を生み出した。
なんと言うか、見覚えしかない光景だ。
「行け!!」
『火球』の群れはミサーナの魔法を容易く食い尽くし、そのまま術者であるミサーナに向かってきた。
「うっそでしょ……!」
咄嗟に『障壁』を張り防ぐが、その威力は先程までとは比べ物にならない。
少しでも手を抜けば、簡単に貫かれそうだ。
「チッ」
「危なぁ……」
「だったら、もう一回だ!」
その言葉と共に、再びルガスの周りに『火球』が展開される。
「今度こそ食らえ!」
そしてまた、それらがミサーナに放たれた。
「いや、無理だよ」
だが、それがミサーナに届くことはない。
「ハァ!?」
『火球』の着弾場所に立っていたミサーナは、両手に『水刃』を纏わせ、飛んで来た『火球』を全て叩き落とした。
「うん、悪くない」
「なっ、何だそれは!」
「ただの『水刃』だけど?まぁ多少痛くて熱いけど、充分許容範囲かな」
あと、ちょっと血も出ている。
ただ、その程度の回復魔法ですぐに治せる傷は、ミサーナにはあってないようなものだ。回復魔法も使えるし、吸血鬼の能力なのかどうかは知らないが、使わなくとも自動ですぐに治る。
「短剣使うのはちょっとズルいしね。で、あの『火球』何なの?イーガスも使ってたけど」
「…………我が家に伝わる魔法陣だ」
「成程……魔法陣」
確か、幾何学的な模様を書くことで、魔力を流すだけで魔法が発動するように出来るとか云う奴だった。規則性がある模様らしいが、ミサーナにはどうにも理解出来なかったので、すぐに諦めた記憶がある。
そんな記憶もあり、道理で練習しても出来ないわけだと一人で納得するミサーナ。
「その、ただの『水刃』とやらで父上を斬ったのか?」
「……そうだよ。それで、まだ続ける?」
「そうか…………いや、降参だ。『火球連弾』でどうにもならないなら、勝てない……」
脱力し、項垂れたような姿勢で負けを認めるルガス。
「……今まで、すまなかった。ごめん」
思いの外、あっさりと謝罪されてしまった。
元々ミサーナは、そんなに気にしていた訳でもなければ、怒っていた訳でもない。
だから。
「別に、気にしなくて良いよ。イーガスには絶対謝らないけど」
「そこは譲れないのか……」
そう言いながら、ルガスが苦笑する。
ミサーナ的には死ぬほど大事なことなので、仕方がない。
ただ、ルガスともそれなりに仲良くなれそうだ。
「まぁ、これからよろしく」
「あぁ……よろしく」
そして、二人の手が重なった。




