25 課外授業
はい、遅くなりました。
ちゃんと更新するとか言ってこのザマですよ。
ごめんなさいね。
入学してから、一ヶ月が経った。
友達?知らんな。
さて、ミサーナは今日も今日とて学校なのだが、本日の授業はいつもと毛色が違った。
「はい、二人組を作ってくださーい」
死刑宣告であった。
ミサーナが固まっているのを後目に、クラスメイト達が着々と二人組を作って行く。
ちなみに、このクラスの人数は九人。奇数だ。
必ず一人余り者が出る訳だが、誰がそうなるかは言わなくとも分かるだろう。
「じゃあ、皆さん二人組を作れたようなので、今日は森に行きますよ。ミサーナさんは……一人でも大丈夫でしょう!」
お前人を馬鹿にするのも大概にしろよ、という言葉をどうにか喉の奥に留めたのは、一重にミサーナの性根の良さ故であろう。
胸の奥に少し暗い色の感情を仕舞いこみ、ミサーナとクラスメイト一同は森へと向かった。
「では、本日の授業内容を発表します」
舞台を森へ移し、先生が生徒達に向かって口を開いた。
「今日は皆さんにモンスターを狩ってもらいます。これが出来ないと魔人族として生きていけませんからね」
「「「はーい!」」」
どういう訳か全員テンションが高い。
対してミサーナのテンションはと言えば……。
「はぁ……」
絶望的に低かった。
別にモンスター狩りが嫌いな訳では無い。
だが、別に好きな訳でも無いし、先生公認のぼっちでやらされるのは苦痛でしかない。
しかし、先生はそんな事欠片も思慮には入れてくれない。
ミサーナが現実逃避をしている間に、先生からの説明が終わったようだ。ちゃんとは聞いていなかったが、多分、熊系のモンスターには手を出すなとか、そんな感じだった。
「それでは解散!怪我に気を付けて狩ってください!」
その言葉を切っ掛けに、クラスメイト達が森へと散開した。
(『ファイアバレット』とかの練習と思って真面目にやるかな……)
むしろ、そう思わないとやってられない。
皆に習い、ミサーナもゆっくりと森へ入っていった。
「ふむふむ」
ミサーナが森へ入ってから三十分程、彼女の目の前に居るモンスターは、風穴を空け、絶命していた。
「いやー、結構イイ感じだねぇ」
理由は言わずもがな、『ファイアバレット』である。
森に入り割とすぐにモンスター、ボアと出会ったミサーナは、早速『ファイアバレット』の試し打ちを行った。
生物に撃ったことは一度も無かったので、良い練習になると思ったのだ。
結果、普通に有効だった。
膝を撃てば関節を砕けたし、正面から頭を撃つと、後ろに貫通していった。護身用にと持たされていた短剣で突いてみても、毛皮は切れなかったので、硬さはそれなりなのだろう。
魔力を調整すれば貫通もしなさそうだったので、かなり使い勝手の良い魔法と言えた。
「ふんふ〜ん〜♪」
ルンルン気分でボアことイノシシを『収納』する。渋っていた割に、存外楽しんでいるようだ。
そして、次の獲物を探そうとしたその時、何処からか悲鳴が聞こえた。
「ん?」
それも、結構近くで。
今森に居るのはクラスメイトだろう。
「……行ってみるか」
ミサーナは悲鳴へと走りだした。
悲鳴の元へ辿り着くと、そこにはクラスメイトの男女ペアがいた。
名前は確か、リオンとアリアだったか。
彼と彼女の前には熊のモンスター、ブラックベアが立っている。
確か、熊系には手を出すなと言われていたはずだが、どうしたのだろうか。
「グォオオ!」
「くっ!こっちに来るな!」
ミサーナがぼんやりと見ている間に、状況は切迫してきている。
自力でどうにか出来そうなら、いちゃもんを付けられる前に離れようと思っていたのだが、これはどうするべきだろう。
放っておけば先生が助けに来るかと思ったが、その気配を感じない。
正直な話、ミサーナに二人を助ける理由は無い。
助けても自分達でもどうにか出来たとか言いそうであるし。そもそも自分をイジメ、とまでは行かないにせよ、それに近い事をしてきた相手だ。今なら合法的に抹殺できる。
であれば、このまま見守っておくのが正解だ。
だが、ミサーナがとった行動は、それと真逆の行動だった。
「えっ!?」
「まぁ、見殺しも目覚め悪いし……」
「グォッ!」
「それが出来たら死んでないね」
『火球』を放ち、ブラックベアを無理やり退がらせ、ブラックベアと彼らの間に立ち塞がった。
「あっ、アンタ!」
「獲物は貰うから、異論は認めない」
そう言って、『火球』のダメージから復帰したブラックベアに短剣を振り抜く。
「無茶よ!」
アリアの言う通り、ミサーナの短剣では毛を切ることは出来ても、毛皮を切り裂くことは出来なかった。
「良いね、試させてもらうよ」
「グォオオ!!」
ブラックベアが腕を振り、ミサーナを砕かんとする。
しかし、ミサーナはそれをあっさりと躱し、短剣にとある魔法を纏わせた。
それは『風刃』。
イーガスとの戦い以来、食事用ナイフにしか使われなかった魔法剣が今、敵を切り裂く為の短剣に使用された。
そんな事には気付かないブラックベアは、己の攻撃を簡単に躱すミサーナに腹を立てたのか、更に大きく腕を振り抜く。
だが、そんな怒りに任せた大振りな攻撃が当たるはずもなく、『風刃』を纏った短剣が、その腕を冗談のように切断した。
「オォッ!?!?」
「なっ!?」
鮮血が飛び散り、ブラックベアの左腕が落下する。
そして、感じたことも無いであろう痛みに混乱するブラックベアの首を、その勢いに任せ断ち切った。
倒れ込んだ巨体の首と腕から、鮮血が溢れ出る。
鼻腔をくすぐるその香りに、彼と彼女が顔を顰め、ミサーナが頬を緩めた。
これ以上この匂いを嗅いでいると我慢できなくなりそうなので、さっくりとブラックベアを『収納』する。
次いで、短剣を確認する。
幸い、欠けたり等の不具合は見つからなかったが、少しだけ刃の部分が削れていた。
ノーリスクとは行かないらしい。
けれど、検証結果としては十分だ。
「じゃあ、次から気を付けなよ」
そう言って、そのまま立ち去ろうとするミサーナ。
「ま、待って!」
「……何?」
ミサーナがこれ以上ないくらい億劫そうに振り返る。
「えっと、その、えー、あー、その……あり、がとう……それだけ……」
「……どういたしまして」
内心死ぬほど驚いていたミサーナだったが、どうにか普通に返事をすることが出来た。
そして、今度こそ振り返らず立ち去る。
その日の悲鳴は、それっきり起こらなかった。




