22 父親
いやまあ、うん、何というか、ね?うん、ゴメン
もう一度あの神様に会ってみたい。と、最近になってよく思うようになった。
別に、女神が美人だったからまた会いたいとか言うことではなく、ただただ単純に問い詰めたい。
魔法を使いたいとは言ったが、吸血鬼になりたいとは言っていないし、自立できる年齢までの生活を保障してほしいとは言ったが、その年齢になったら出て行かないといけなくしてほしいとは言っていない。もっと言えば、奴隷の子供以外が良いとは言ったが、王族に産まれたいなんて一言も言っていない。そもそも、何故性別が変わっているのか。
のんびりと暮らしたかったのに、こんなに波瀾万丈な人生を送っているのは何故なのか。
文句があるわけではない。寧ろ、基本的には頼んだ通りの条件で転生させてくれたことには、とても感謝している。
元々は、あの雪の日に全て終わるはずだったのだから。
それに、何度あの日をやり直しても結局は同じ道を辿ると思うし、そのことを後悔したことはない。
だが、平穏とは言えない状況に陥るたびに、あの女神の顔が頭を過る。
問いたい。
"何故"
ただ、聞きたい。
そう願った。
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メイドの爆弾発言から約十分後。
ルナはアルフェルと会っていた。いや、会っていると言うのは語弊があるかもしれない。正確には謁見している、だ。
アルフェルは玉座に座り、ルナは床に跪いている。どう見ても親子の感動の再会ではなく、王とその下僕そのものだ。
周りには、イーガスやフロウス、あの女だけでなく、それ以外に三人もの人物一ーおそらくは魔族だろうーーが控えている。イーガス達と並んでいるところを見ると、同程度の実力があると考えてよさそうだ。この部屋なら魔法が使えるようだが、それは相手も同じ。戦闘になった瞬間、六人に集中砲火を受けて、圧殺されるのがオチだろう。
とにもかくにも、戦闘だけは避けなければならない。
「久しぶり、と言いたいところだが、覚えていないらしいな。ミサーナ、改めて聞くが、本当に我のことを覚えていないのか?」
そう語りかけてきた男は、当然アルフェルだ。紅眼に銀髪、特に目元の辺りはルナによく似ており、親子ですと言われれば、素直に信じてしまいそうな見た目だ。
だが、一つ違うのは纏う雰囲気だろう。アルフェルのソレは、恐ろしい程に威圧的だ。ルナのぽわぽわとした雰囲気とは大違いである。
「いいえ、全く」
「そうか……では、簡単に説明しよう。
まず、お前と我は親子だ。それはもう聞いたな?今は魔人族の王をしている。
次に、お前がザンツェルト王国に居た理由だが……まあ、暗殺だ。赤子のお前と王国の王女を入れ替え、王家の連中を皆殺しにさせる計画だった」
「…………は?」
訳がわからない。コイツは、アルフェルは一体何を言っているのだろうか。
しかし、ルナのそんな思考とは関係なしに、アルフェルの話は続く。
「ふむ、何を言っているのか分からない、という反応だな。当然と言えば当然ではある。
だが、少し考えれば分かるだろう?人間から吸血鬼が産まれるわけがない。それに、お前の見た目の特徴は、王族の連中と一つでも一致したか?
してないだろうな。している筈がない。何故なら、血が繋がって居ないのだから」
簡単な話だろう?と、アルフェルが続けているが、ルナはそれどころではない。アルフェルの話に、否定できる要素がないのだ。つまり、アルフェルの言っていることは全て真実ということだ。
そのことに、ルナは思いのほかショックを感じなかった。頭の片隅で、そういうことも考えていたからだろう。
しかし、ショックを受けずとも動揺しないわけではない。寧ろ、予想していたからこそ、動揺は深くなったと言える。だが、そんなルナの反応を無視してアルフェルが続ける。
「少し話が逸れたが、目的は王家の断絶だ。王が死ねば王国は少なからず混乱する。その隙に、魔人族の総戦力で攻め立てる。そういう計画だった。
お前が失敗したおかげで無駄になったがな」
そう言って、真っ直ぐにルナを見つめるアルフェル。その瞳に映っているのは落胆と、失望だ。
「……命令とか、された覚えがないんですけど」
「うむ、知っている。我のことを覚えていなかった時点で、それは把握している。
それと、したのは命令ではない。入れ替える前に暗示を掛けたのだ。とびきり強力なヤツをな。掛けた暗示は"強くなり、王族を殺せ"だ」
「………」
「そして、その暗示は上手くいっていたのだ。途中まではな。確かにお前はそれなり、と言える程度には強くなった。人間共を殺すにはそれで充分だ。
しかし、そこまで強くなったにもかかわらず、お前は王族を殺さなかった。
赤子の頃に掛けた暗示だ。大人になっても解けることはない。そして、掛けた暗示も赤子の精神力で抵抗できるものではなかった。それなのに、何故失敗したんだ?」
話しながらも、考え込むような姿勢を取り始めたアルフェル。何故失敗したのかを悩んでいるらしいが、ルナには理由が分かっていた。
『赤子の精神力で抵抗できるものではなかった』
逆に言えば、赤子以上の精神力があれば抵抗できたということではないだろうか。
ルナの精神年齢は見た目通りではない。産まれた時から十八歳で、現在は二十八だ。当然ながら、赤子以上の精神力がある。
そして、最初は上手くいっていたとアルフェルは言ったが、それも少し怪しい。確かに魔法や剣の練習はしていたが、動機はカッコ良かったからだし、ルナ自身が暗示に掛かっていたとは思えない。ただまあ、そういう風に考えさせられる暗示の可能性もあるので、結局は意味のない推測ではある。
アルフェルも意味がないことに気づいたのか、再び話し始めた。
「いや、それはまぁ、良い。大事なのは今後のことだ。ハッキリ言って、お前はまだ弱い。人間に教わったものや、独学なので仕方のないところではあるが、少なくとも……そうだな、横のコイツらに余裕を持って勝てるくらいにはなってもらう」
その発言で、横に控えていたイーガス達がピリついた。同時に、ルナにプレッシャーがのしかかる。結構キツイ。胃に穴が開きそうなレベルだ。
「細かい指示はハンナ……迎えに来たメイドに訊け。話は終わりだ。全員仕事に戻れ」
『はっ!』
アルフェルの命令と共に、イーガス達が消えた。多分、『瞬間転移』だろう。息をするように『瞬間転移』を使うヤツ等に余裕を持って勝て、とか、結構アルフェルはスパルタのようだ。
ルナが呆然としていると、先程のメイド……ハンナが声をかけて来た。
「では、ミサーナ様、今後のこともありますので、ついて来て下さい」
どうやら、『ルナ』の名前が使えたのは一ヶ月だけのようだ。雑なネーミングではあっても、それなりに愛着も湧いていたのだが、結局は元に戻ることになってしまった。
「ま、いいか」
別に、『ミサーナ』という名前が気に食わなかったわけではないし、気にしても仕方がない。また、のんびりやっていこう。
そんなことを考えながら、呑気にハンナについて行くミサーナだった。
今回の話の描写は、なんか納得いかない感じに仕上がったので、もしかしたらタイトル共々書き直すかもしれないです。




