21 目が覚めると…
一日が三十時間くらい欲しいけど、全員がそうなったらその分やらなきゃいけない事が増える気がするので、自分にだけ三十時間欲しい。ので、ドラ○ンボールを探しに行きたいと思います。
探さないでください。
いでりん
「ここ、どこ?」
ルナが目を覚ますと、そこは知らない場所だった。
強いて言えば、病院の部屋に似ているかもしれない。
病的なまでに白く、シミ一つない天井に壁、着ている服、オマケに床まで真っ白だ。今まで寝ていたベッドも含めて、白以外が存在しない。ずっと居ると、頭がおかしくなりそうな部屋だ。
「とりあえず、誰か人を…ッ!?」
ベッドから降りようとすると、ルナの全身に激痛が走った。そして、その痛みとともに全てを思い出す。
(ここはどこだ?あれからどうなった?あの女は?イーガスは、フロウスはどうした?一体どうなってる!?)
そんな意味のない思考が、頭の中をぐるぐると駆け巡る。
そしてそのまま十分ほど経ち、自分の状況確認ができる程度には落ち着いた。
とりあえず、怪我は大丈夫そうだ。全身が死ぬほど痛いだけで、動かない箇所も、動かしにくい箇所も無かった。知識がないので細かいことは判らないが、多分大丈夫だと思う。
いや、大丈夫だということにしておこう。何せ吸血鬼だし、大丈夫だ。
だが、それ以外にも問題はある。魔法が使えないのだ。正確に言うのであれば、魔法を使おうとすると、集めた魔力がバラけて消えてしまう。つまり、あの魔族の女がやっていたように、魔法が消されているのだ。
次に、時間が判らない。この部屋には時計どころか窓すら無い。ついでに言うとドアも無い。寧ろ、ベッド以外何も無い。無い無い尽くしだ。
そして、することも無くなった。
何かしようと思っても、出来る事がない。
「……寝るか…」
身体も痛いし。
結局、その後はシーツに包まり二度寝した。
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突然だが、ルナは寝起きが悪い。
前世でもそうだったが、多分低血圧なのだ。故に、と言うわけでもないが昼寝は好きだし、あの微睡んでいる時間も含めて大好きだ。勿論、その後の二度寝も。
そして現在、二度の眠りから覚めかけ、ただ今微睡んでいる真っ最中である。
意識はハッキリせず、身体と一緒に溶けかけているような感覚。とても気分が良い。
しかし、その時間は永遠には続かない。どう足掻いても終わりが来てしまう。
終わらせまいと抵抗しても意味はなく、寧ろ意識の覚醒を早めることになるだけだ。それを頭では分かっていても、実際には殆ど上手くいかない。ルナもその中の一人だ。
そして、結局覚醒に手を貸してしまった少女は、ゆっくりと目覚めた。
「んぅ〜……」
「お目覚めですか?」
「んぁ?」
ルナが目を覚ますと、横から声をかけられた。
確認してみると、そこにはメイドがいた。青色の髪をした綺麗な女性だ。若干キツそうな顔立ちをしているが、それを含めても十分に綺麗な整った顔をしている。寧ろ、美人とと言ってもいい。
「お目覚めのようですね。では、お飲み物をお持ち致しますので、少々お待ち下さい」
そう言って、部屋を出て行こうとしている。そして、女性が壁に手を翳すと、何の変哲もなかった壁に幾何学的な模様が浮かび上がり、その模様の通りに壁が開いた。
何と言うか、凄く近未来的な感じだ。SFとも言う。
前世から、そう言うのが大好物なルナ的には、ここが何処なのかとか、これからどうなるのかとか、全部どうでもよくなってしまう。
女性が出て行くと、壁は先程の模様を辿って再び元の壁に戻った。
慌ててベッドを飛び降り、壁に手を翳してみても、何の変化も起きない。その事を残念に思いつつ、気づいた。
身体の痛みが消えている。
寝る前は、少し動かすだけでも激痛に襲われていたのだが、今はそんなことは全くなく、頗る快調だ。軽くジャンプやストレッチ、ラジオ体操などをしてみても一切痛みはない。傷跡も残っていないので、完治したと言っても良いだろう。
「便利な身体になったもんだなぁ…」
そんな感想を抱いていると、先程の壁が開き、そこから女性が戻ってきた。
「ただいま戻りまし……何をしているんですか?」
物凄く変なものを見る目で見られた。王宮にいた時にはよく向けられた目だ。
それもそのはず、今ルナの体勢は逆立ちである。しかも、格好はゆったりとしたバスローブのような服。ルナからは見えないが、おそらく足もとの裾はぺらりと捲れていることだろう。
「逆立ちですけど?」
「それは見れば分かりますが……何故逆立ちを?」
「ストレッチです」
「ストレッチ、ですか?いや、でも…」
「ストレッチです」
「いや、だから…」
「ストレッチです」
「…………」
「ストレッチです」
「…………分かりました。では、アルフェル様がお待ちですので、付いて来て下さい。あと、これお水です」
そう言ってメイドがコップを差し出して来た。それをありがたく受け取りつつ、気になった事を質問する。
「アルフェル様?って誰ですか?」
そう聞くと、メイドは驚いたような顔をした。
「本当に覚えていないのですか?」
「全く」
そう言うと、今度は変なものを見る目で見られた。さっきのストレッチ中のルナを見ていた目とは少し違う。これは、不気味なものを見るときの目だ。
しかし、そんな目を向けられても覚えているわけがない。一応、ルナには産まれてすぐ以外の記憶が残っている。全てを完璧に覚えているわけではないが、人の顔と名前はなんとなく覚えている。だが、その記憶の中に『アルフェル』と言う名前の人間はいないのだ。
つまり、覚えていないのではなく、知らない。
いくらルナでも、知らないものは思い出せないし、そもそも魔族に知り合いはいない。
(いや、あの女がアルフェルならワンチャンスあるかもしれない)
だが、その予想は次のメイドの発言で一瞬のうちに覆った。
「アルフェル様は、貴女の、父親ですよ」




