17 初仕事
次の日の朝、ルナはまた冒険者ギルドへと足を運んでいた。理由は勿論仕事のためだ。
アイリから貰ったお金はまだ沢山残っているが、いつまでもお世話になりっぱなしというのは心苦しいし、出来る限り使わずに残しておきたい。それに、気にせず使ったとしても、当然いつかは無くなるのだから、稼げるうちに稼いでおかねばならない。ルナは、人間らしい生活を捨てるつもりはないのだ。ちゃんと屋根のある場所で寝泊まりして、一日三食ご飯を食べたい。森の中で飢えて、食べ物を探し回る経験など二度としたくはない。
ギルドでの仕事は、大まかに分けると三種類ある。一つは薬草などを集めてくる初心者向けの採取。二つ目は討伐。一番メジャーな仕事で、冒険者の花形と言ってもいいだろう。
そして、三つ目は護衛だ。これはパーティ向けの仕事で、報酬も高く割りの良い仕事だが、戦うのがモンスターだけではなく盗賊などの人間を相手にすることもあるため、Cランク以上しか受けることが出来ない。
ちなみに、ルナの狙う仕事は討伐一択だ。余計なことを考えずに出来るし、報酬も高いことが多い。
ギルドで仕事を受けるには、依頼書が貼ってあるクエストボードで依頼を選び、それを受付に持って行かなければならない。そのため、受付が無理だと判断した場合、基本的にその依頼を受けることは出来ない。それでも最終決定権は冒険者側にあるので、無理矢理ゴリ押すことも可能だが、ギルド側からの印象は悪くなる。そして、無理矢理依頼を受けた冒険者の死亡率は高いらしいので、あまりオススメは出来ない。
そんなことを考えながらルナがギルドに入ると、人は驚くほど少なかった。早朝だからだろうか。
まあ、人の数を気にしても仕方がないので、クエストボードに向かう。貼ってある依頼は……
『薬草の採集』
『ゴブリンの群れ討伐』
『ウルフの群れ討伐』
『馬車の護衛』
この中だと、ゴブリン狩りが楽だろうか。群れがどのくらいの数かは分からないが、森にいた程度なら楽勝だ。報酬も金貨一枚と中々高額だ。ウルフも少し気になるが、今回はゴブリンで良いだろう。
何事もなく依頼を受けることが出来た。ただ、昨日のことでミリラに小言を言われてしまった。冒険者同士の決闘は認められているが、ギルドの中や街の中などの人に迷惑がかかる場所で行ってはいけないらしい。普通に考えて当たり前だが、特に説明していなかったから、という理由でお咎めなしにしてくれた。
そして、現在ルナは街の外の森に来ている。つい先日まで彷徨っていた森だ。正直嫌な思い出しかないが、ここが仕事場なのだから仕方がない。ここでゴブリンの群れが発見されているそうだが、この世界には『探知魔法』などという便利な魔法は存在していないので、自力で探すしかない。もしかしたら、ルナが知らないだけかもしれないが、どちらにせよ使えないのだから考えても意味が無い。のんびりと探すことにする。
小一時間ほど森を歩き回り、ゴブリンの群れを見つけた。数は七匹、ルナにはまだ気づいていない。ゴブリンの討伐を証明するためには、右耳を切り取ってギルドに提出しなければならない。頭部を傷つけるとそれがしづらくなるので、あまり傷つけたくない。
「『氷槍』」
「グギャ!?」
氷の槍で心臓を一突きだ。火の魔法は木に燃え移りそうで怖い。そして、他の魔法は派手に傷つけたり血が飛び散る物がほとんどなので、氷の槍を放つだけの『氷槍』が丁度良い。
今の魔法でゴブリンは全滅だ。弱い。これは仕事になるのか少し心配になってくるが、それはルナが決めることではない。特に問題はないのだろう。とりあえず右耳を切り取るが、そこでナイフを持っていないことに気づいた。仕方ないので剣で切り取るが、非常に使いづらい。
「もう少し装備とかを整えてから来るべきだったな……」
軽く後悔したので、街に戻ったら剥ぎ取り用のナイフを買うことを決意するルナ。
そして、六匹目の耳を剥ぎ取った所で、周囲から物音が聞こえた。慌てて確認すると、ルナの周りを狼が囲んでいた。ウルフというやつなのだろうか。地球のソレよりもかなり大きい。おそらくゴブリンの血に誘われたのだろう。
「どうする?」
逃げるのは簡単だが、後一匹ゴブリンの剥ぎ取りが残っている。ゴブリンの数によって報酬も変わるので、できれば残したくない。
むしろ、ついでにウルフも狩ってしまった方が良さそうだ。
「『氷槍』」
さっきのゴブリンと同じだ。氷の槍で心臓を貫く。だが、ウルフは後ろに跳んで槍を躱した。敵が魔法を躱したのは初めてのことだ。それに驚いたルナの隙をついて、ウルフが飛びかかって来た。流石に、それに当たるほど油断はしていなかったので『飛行』で空中に避難する。
そして、再び『氷槍』を放つが避けられてしまう。おそらく、見えている攻撃は当たらないのだろう。
「じゃあ、見えない魔法で。『風刃』」
唱えた直後、ウルフの身体が二つに裂かれた。真っ赤な血と臓物が飛び散り、それが仲間のウルフにかかる。この時点で逃げ出せば、まだ生き残れたかもしれない。
「あれ?ムズイな……『風刃』」
再び唱えると、別のウルフから血が吹き出した。今度のウルフは身体が繋がったままだ。それに満足したのか、少女が頷きながら再び唱えた。
「『風刃』」
残っていたウルフ達は何が起きたか気づけないだろう。透明な風の刃を放つ。『風刃』の魔法の効果はそれだけだ。だが、魔法使い以外には殆ど見えない刃を避けられる者は、一体どれほど存在しているのだろうか。少なくとも、この哀れな獣達は避けることが出来ず、その身を裂かれた。周囲に残る夥しい血痕が、その魔法の凶悪さを示している。
そして全てのウルフが息絶え、そこに少女が舞い降りた。そこだけ見ると、酷く不釣り合いな景色だ。
こうして、ゴブリンとウルフの群れは一人の少女の手で、全滅した。
討伐が終わり、剥ぎ取りも済ませて街へと帰り、早速ギルドへと報告に向かう。受付に居たのはミリラだ。
「あ、ルナさん。お帰りなさい。依頼の報告ですか?」
「はい。これ、ゴブリンの耳です」
「はい、受け取りました。確認するので少々お待ちください」
「あ、それと途中でウルフも倒したんですけど、ついでに大丈夫ですか?」
「ウルフですか?大丈夫ですが、できればギルドの裏で出してもらってもいいですか?」
断る理由もないので頷く。
「それではついて来てください。それと、ゴブリンの耳は確認できました。お疲れ様です」
「ありがとうございます」
お礼を言ってからミリラについて行き、ギルドの裏へと向かう。
「ではルナさん、そのウルフを出して頂けますか?」
「はい」
『収納』に仕舞っておいたウルフを出す。前もってミリラにウルフは全身が素材になると聞いていたので、全て持って帰っておいたのだ。
「これですか……すごいですね……」
ミリラの目の前には、無惨にも斬り裂かれ血みどろになったウルフが置かれている。どの個体も傷は大きく、一つは真っ二つになっている。
「この真っ二つのはあまり高くはならないですね。他のは傷は大きいですが、一つしか傷が無いのでそこそこの値段がつきそうです」
「そうなんですか?」
「はい、傷は小さい方が良いですが、それよりも数が少ない方が重要なんですよ」
「へー」
「これだけあれば、金貨二枚くらいにはなりますね」
「へー!」
他の色々な説明が終わりギルドへ戻った後、今日の報酬が支払われた。
額は金貨四枚。ゴブリンの依頼とウルフの素材、それにウルフの討伐依頼も含まれるらしい。一日の稼ぎとしては、かなり美味しい気がする。
ホクホク顔で宿に戻り、そのままベッドで眠りについたルナだった。
更新遅れてすみません。リアルが忙しくなりはじめたので、多分これからもゆっくりになります。ごめんなさい