表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王女は元男の子  作者: いでりん
14/36

13 旅立ち

 警報が鳴り響く。つまりは騎士達がもう他の人に接触したということだ。

 ミサーナの正体は王宮の殆どの人間が知っていると言ってもいい。

 そうなると、安全な場所は殆ど残っていないだろう。




 ならどうするか、ミサーナの部屋は駄目だ。間違いなくマークされている。行くだけ無駄。

 他の場所はどうだろうか。食堂は駄目だ。というか、人の多い所は軒並みアウトだろう。

 人の少ない場所に逃げなければならない。

 だが、この王宮には大抵の場所にメイドか使用人がいる。


 とりあえず、物陰に隠れて逃げる場所を考える。


(何処か人の居ない場所……図書室も無理だろうしなぁ…

 ……あ、そういえば書斎もあったか。)


 五分程考えた結果、それが思い浮かんだ。

 王様の書斎なら、王様以外は殆ど居ない。偶に掃除する為に人も向かうが、今の緊急事態ならば態々掃除しには行かない筈だ。


 人が居なければ、ほとぼりが冷めるまで隠れていればいいし、人が居ればまた考え直せばいい。

 決まってしまえば、後は早い。

『瞬間転移』で、書斎の扉の前に飛ぶ。


「なに!?」



 声が聞こえた。

 どうやら、人が居るらしい。この声は王様だろう。それに、もう一人居るようだ。

 これでは隠れることが出来ない。


(駄目そうだし、別の場所を考えないと……おや?)


「ミサーナの姿をした吸血鬼、だと……?間違いないのか?」

「は、はい。騎士団の者と、それにアイリ殿も見ています」


 聞いたことのないような、ドスの効いた声で尋ねた王様に、返事をしたのは恐らくヨハンだ。声に聞き覚えがある。

 なんとなく気になって、つい盗み聞きしてしまう。


「そうか……いや、丁度良い」

「丁度良い、ですか?」

「ああ、そうだ。丁度良い。そいつを捕らえて奴隷にする」

「しょ、正気ですか!?魔族を奴隷にするなど…」

「何の問題がある?獣人を奴隷にしているのだ。魔族を奴隷にしたところで別に問題あるまい。

 それに、ミサーナは私の娘だからな。戦争には使おうにも周りが煩かった。だが、魔族なら問題あるまい。帝国との戦いで使い潰せば尚更だし、幸い吸血鬼には寿命が無いと聞く。もし生き残れば、王族で一生飼い殺しだ」

「そんな……」

「問題は無い。必ず捕らえろ。決して逃がすな」

「………はい」





 ヨハンが扉から出て来た。

 だが、ミサーナは既にそこにはいない。

 とっくに逃げ出した。




 別に傷付いてはいない。元々、十二歳になったら出て行こうと思っていた国の王様の言った言葉だ。気にする方がおかしい。

 だが、何故か心に強く刺さった。




 逃げる途中にメイドに会った。今日、朝食を並べていたメイドだ。手には、今朝まで使っていた銀食器が握られている。

 今までは何ともなかったのに、今は謎の嫌悪感を覚えた。


 後ろには騎士がいたので、適当にあしらって逃げた。いつもより力が強くなった気がする。


 今度は騎士に挟まれた。昨日まで一緒に剣を練習していた人だ。軽く魔法を撃ったら全員倒れた。殺してはいない。一人から剣を奪ってまた逃げた。


 また騎士がいた。先週剣を打ち合った人だ。今度は剣で倒した。殺してはいない。また逃げた。


 次は魔法使いがいた。いつだったか魔法を教わった人だ。魔法で倒した。殺してはいない。また逃げた。




 心が、黒くなるのを感じる。また逃げた。




 また、逃げた。









 逃げる。

 何処に逃げる。

 わからない。

 どうすればいい。

 わからない。

 なにがしたい。

 わからない。

 わからない。

 わからない。わからない。わからないわからないわからないわからないわからない








 そんなことを考えている内に、部屋に着いた。生まれてから、毎日寝て起きた場所だ。


 絶対に人が居ると思っていたのだが、扉の前には誰もいない。


 丁度良いので部屋に入る。もう疲れた。休みたい。

 部屋に入るとアイリが居た。いつも通りの光景だ。


「やっと来ましたか。遅いですよ、ミサーナ様」


 …………。


「……え?」

「え?じゃないですよ。遅いですよ。私がどれだけ待ったと思っているんですか?」

「え、いや、だって」

「だってもなにも無いですよ。眼が赤くなったと思ったら、いきなり逃げ出して」


 いまだアイリのお小言が続いているが、ミサーナは状況が理解できない。


「聞いていますか?ミサーナ様」

「え、ごめん何?」

「………」


 無言でアイリに頬をつねられる。


「いはい!ひょっと待っれ!」

「嫌です、待ちません。人が態々注意しているというのにどうして聞いていないんですか?」


 話している間もずっと頬をつねられている。

 ひたすらミサーナがアイリの手を叩いて抗議し、ようやく解放された。


「うぅ…どうしてアイリが此処にいるの?」

「どうしてと言われても…ミサーナ様のお世話係が此処にいるのはおかしいですか?」

「おかしいっていうか…」

「吸血鬼だったのにどうして、ですか?」

「っ!?」

「別に驚くことではないですよ。今王宮にいる者なら、誰でも知っていることですから」


 知っているなら、尚更理由が分からない。

 そんな考えが顔に出ていたのか、アイリがクスクスと笑う。




「ミサーナ様。十年、一緒に過ごして来たを信じることは、そんなに変ですか?」


 急に、真面目な顔でそう尋ねてきた。


「私は変じゃないと思います。種族や性別、年齢よりも、積み上げた時間の方が大切だと思うので」

「わ、私は…」

「無理に答えなくても構いませんよ。考え方は人それぞれですし、すぐに答えが出る問題でもないですから」


 言いながら、そっとミサーナを抱き締めるアイリ。


 心が、暖まっていくのを感じる。


「それに、今話していて確信しましたが、あなたは私が十年面倒を見てきたミサーナ様で間違いありませんよ」

「私は……」

「このままゆっくり話したいところではありますが、あまり時間も無いことですし、ここまでにしましょう」


 そう言ってアッサリと離れてしまった。

 そして、ミサーナの机の横からなにかを取り出し、ミサーナに渡した。


「これ、お金です。一週間くらいなら問題なく宿で暮らせるぐらいはある筈です。

 それから、着替えです。今の格好では目立ちますから、これに着替えてフードでも被れば目立たないでしょう」

「あ、ありがとう」

「どういたしまして。着替えたらあそこの窓から逃げて下さい。見つかっても、ミサーナ様なら魔法があるので大丈夫です」


 至れり尽くせりだ。なんでも揃っている。

 今はミサーナが剣も持っているので、いつでも冒険に向かえそうだ。

 とりあえず、言われた通りに着替える。

 着替えた格好は、町娘が着ていそうな少し質素だが、可愛らしい服だった。残念ながら、冒険には向かえそうにない。


 脱いだ服とお金は、最近覚えた『収納』という魔法に全て突っ込んでおいた。


「終わりましたか?忘れ物はないですか?本当に一人で大丈夫ですか?」

「大丈夫。近くに騎士も来てるみたいだから、そろそろ行くね」

「そうですか……仕方ありませんね。では、いってらっしゃいませ。ミサーナ様」

「うん、ありがとう、アイリ。いってきます」


 そう言って、窓から『飛行』で飛び立った。






 王宮が小さく見える。

 誰も追いかけて来なかったので、多分逃げる所は見つからなかったのだろう。


 一時は黒くなった心が、また白くなるのを感じる。


 アイリのお陰で、まだ他人を信じられる。


 身に付けた力を人助けに使うか、それとも自分の為だけに使うか。


 全てはミサーナ次第。

凄く最終回っぽいですが、まだ続きます(汗)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ