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転生王女は元男の子  作者: いでりん
11/36

10 剣の練習

 あれから、半年程経った。


 あの日から、ミサーナは騎士団の訓練場に通っている。

 そう、通うだけだ。剣に触るだけならともかく、それ以上は許されなかった。

 なので、のんびりと眺めるだけとなっている。



 しかし、それも今日までだ。毎日通い続けたおかげで、ミサーナはヨハンからかなりの信用を勝ち取ることに成功している。

 そして今日、少しだけなら練習してもいいと言われた。更に、ヨハンが直々に剣を教えてくれるらしい。多分、他の人に任せてミサーナに怪我をさせても困るからだろう。


 アイリはブツブツと文句を言っているが、特に問題はない。早速、教えてもらうことにした。


「まず、握り方ですが………」




 最初の説明だけで、小一時間かかった。別にこれは、ミサーナの物覚えが悪かった訳ではない。最低限、剣を振る時の注意点などを教えてもらっただけで、これだけの時間がかかった。


 そして、ようやく次に進めるかと思ったが、次の練習は素振りだった。ひたすら地味な作業だ。非常に面倒だが、ミサーナは文句も言わずに黙々と素振りを続ける。

 それにヨハンが驚いているが、ミサーナにとっては普通のことだ。

 何事においても、基礎というものは大事だと身を持って知っている。勉強はもちろん、家事やスポーツ。そして魔法も。

 基礎が出来ていなければ、スタート位置にすら立てない。


 継続は力。意味は少し違うが、前世の父親がよく言っていた言葉だ。


 それと、ミサーナはゲームのレベル上げが苦にならない人なので、地味な作業も得意だったりする。



 ただ、そんなことを知らないヨハンは驚きを隠せない。

 五歳の幼児、しかも女の子が、普通の大人でも嫌がるであろう剣の素振りを、言われた通りに延々と続ける。

 異常とまでは言わないが、おかしいと驚くのが一番自然ではないだろうか。


 だが、言われた通りに出来るというのは、立派な才能だ。少なくとも、プライドだけは高い貴族より、ずっと良い教え子になる。


 ヨハンはこの時、ミサーナに真面目に剣を教えようと決意した。

 これならば、きっと良い剣士になれるはずだと。








 そして、そこからまた半年程経った。


 ミサーナはとうとう六歳になった。

 日本ならば、もう小学校に入学する年齢だ。

 生活に関しては、剣の練習が増えたこと以外は変わらない。


 それと、一度だけレオンが遊びに来た。その時もフォウルで勝負したが、あのフォウル盤はまだミサーナの部屋にある。



 それはさておき、剣の練習が増えたと言ったが、まだ素振り以外はさせてもらえない。

 流石のミサーナでも、少し飽きて来た。


 文句を言ってもアイリが喜ぶだけなので何も言わないが、半年変化無しは辛い。



 しかし、今日はいつもと少し様子が違う。ヨハンがいつもより真面目な顔をしていた。


「ミサーナ様、今日は打ち込みをします。私に打ち込んで来て下さい」

 そう言いながらゆっくりと剣を構えるヨハン。


「えーと、いきなりですね?」

「はい、確かに唐突ではありますが、そろそろ素振り以外をしても大丈夫でしょう。それに、流石に素振りは飽きたでしょう?」

「まぁ、そうですね」

 返事をしながらミサーナも剣を構える。

 半年前に比べれば、かなりマシな構え方になっただろう。


 そして、無言でヨハンに打ち込みに行く。

 素振りでしていたのと同じ様に、上から振り下ろす。が、アッサリ止められてしまった。周りに心地良い打撃音が響くのが聴こえる。さらにその後も打ち込み続ける。

 振り下ろした後は、下から切り上げ、そのまま横に振り、また振り下ろす。他の騎士が打ち合いの練習時に、必ず使っていたものだ。

 ミサーナは、伊達に一年間訓練場に通っていた訳ではない。休んでいる間や、何もしていない時にもずっと見ていた。まあ、全て止められたので、意味があったかはわからないが。




「ミサーナ様、もう大丈夫です。次はこちらからも少し打つので受けてみて下さい」

「はい、わかりました」


 ミサーナが剣を構え直すと、すぐにヨハンが打ってきた。

 それにミサーナが身構え、剣の腹で受け止める。しかし、ミサーナが受けた衝撃は、とても軽いものだった。

 それにミサーナが動揺するが、少し考えて手加減されたのだろうと一人で納得した。


 その後、しばらくの間打って打たれてを繰り返し、練習が終わったのは、それから三時間後のことだった。





「体中が痛い……」


 ミサーナは今、ベッドに倒れ込んでいる。素振りだけなら大丈夫だったのだが、打ち合いというのはレベルが違った。

 全身筋肉痛など、この身体になって初めてかもしれない。


「無理するからですよ……」


 小言を言いながらもマッサージをしてくれるアイリ。なんだかんだ言いつつも優しい。











 ミサーナが目を覚ますと、辺りは暗かった。ただ、居る場所はベッドの上のようだ。

 どうやらアイリにマッサージされて、そのまま寝てしまったらしい。


 なんとなく窓の方を見てみると、満月だった。

 この世界の月はとても大きく、紅い。地球と比べると、倍くらいはある気がする。


 ふと、窓に映った顔が見える。


 その顔の眼は()()()()、とても綺麗な色をしていた。


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