9 騎士団
レオンが帰ってから二週間程の時間が経った。ミサーナの生活に変化はなく、いつも通りに魔法漬けの日々を送っている。
一つだけ変わったとすれば、いつもの日課にアイリとのフォウルが追加された事ぐらいだ。ちなみに、まだ無敗である。
それはさておき、最近聞いた話だが、この国には王国騎士団というものがあるらしい。
(騎士団……とても心惹かれる良い言葉だ。是非見学に行きたい)
しかし、絶対にアイリが許してくれないだろうという確信もある。 まだ自由行動が許可されていないミサーナには、何をするにもアイリが付いて回るのだ。
だが、一度見学にさえ行ってしまえば、後は『瞬間転移』でどうとでもなる。問題は、その手段がアイリに知られているので、一回たりとも連れて行ってもらえない事だけだ。
(作戦を考えよう。普通にアイリに頼むのは論外。その後は警戒されて、まともに動けなくなる。
じゃあ作戦1、他の人に聞く。悪くはないと思うけど、聞いたところでたどり着ける気がしない。
作戦2、自力で探す。『飛行』でアイリを撒けば、最悪どうにかなる。でも結局、アイリに捕まる未来しか見えない。
なんか、どうしようもなさそうだなぁ。もういいや。素直にアイリに聞こう)
考えをまとめたミサーナは、相変わらずの行動力で、早速アイリに尋ねてみる。
「アイリ、騎士団がどこにいるかって知ってる?」
「……知ってはいますが、それを聞いてどうするつもりですか?」
微妙に嫌そうな顔をしたアイリに、逆に聞き返される。アイリがそういう顔をする理由も分かるが、別にミサーナは訓練に混ざろうと考えているわけではない。ただ純粋に騎士というものに憧れているだけだ。
確かに、あわよくば剣にも触ってみたいとは思っている。しかし、それ以上に憧れ、そして好奇心が大きいのだ。
そんなことをミサーナが懇々と説明すると、先程の倍は嫌そうな顔をしつつも、アイリが案内してくれることとなった。
案内されて到着した場所は、なんといつもの魔法の訓練場のすぐ隣だった。その事実に、しばらくミサーナが硬直していると、アイリに肩を揺さぶられた。その顔が勝ち誇った様に見えるのは、きっとミサーナの気のせいではないのだろう。
何となく腹立たしかったので、アイリの首元に小さな氷を作っておく。恨みがましい視線を向けられていたが、黙殺するミサーナであった。
そんな微笑ましい(?)やりとりをしてから、騎士団の訓練場と思われる場所に入ると、そこは活気に溢れていた。
体格の良い男達が、叫びながら剣を打ち合っている。
入り口で立ち止まったまま、その光景を眺める。
十分程そうしていると、特に大柄な男の号令で男達が剣を振るのをやめ、各々休憩を始めた。これ以上突っ立っていても仕方ないので、中に入る。すると、そこで漸くミサーナに気づいた様で、少し慌てている。
その中から、先程号令を掛けていた大男がこちらに声を掛けてきた。
「アイリ殿、どうしてミサーナ様がこちらへ?」
「ミサーナ様が、騎士団を見たいとお望みだったからです」
「ミサーナ様が?」
そう言いながら、ミサーナに目を向けた。
「はじめまして、ミサーナ様。私は王国騎士団の団長を務めている、ヨハンと申します」
「騎士団長!?」
食い気味で答えるミサーナに若干引き気味の大男は、ヨハンと言うらしい。茶髪の渋いおじさんで、カッコいい。
前世でミサーナが憧れていたような見た目をしている。
その後もヨハンと話していたが、中々楽しい時間だった。それから、剣にも少しだけ触らせてもらえた。七十cm弱で、思っていたよりもかなり軽く、片手で持つことも出来た。
剣なのに軽いとか、ファンタジーなだけはある。
さあ、明日から練習だ!