なろう投稿作家を探せ
夕食後、ベッドにゴロゴロと寝転がりながら、スマホで「小説家になろう」を見ておもしろい恋愛小説がないかなって探してたんだ。
どうも、このサイトは異世界モノが人気の中心なんだよね。別にファンタジージャンルの作品も悪くはないんだけど、なかなかわたしの大好きな恋愛クォリティがたっぷり含まれた作品は多くないんです。
やっぱり素直に恋愛ジャンルから探すのが一番だよねって感じ。それも異世界とかじゃなく、できれば現実世界が好みの作品が多い感じ、学園モノが一番好きだからってこともあるかな。
というわけで、恋愛モノの小説を物色中だったの。
でもなかなか、わたしの好みに合ったおもしろそうなお話しが見つからないじゃない? 人気の出る作品はイマイチ好みの作品が少ないのが大きな問題。
有名作ですごくおもしろい! って思ったのは「謙虚堅実」と「本好き」くらいかな?
この二作品は本当に最高でしたね。
異世界モノでも「本好き」みたいのならいいんです。えっ、「本好き」は恋愛モノじゃない? わたしは恋愛モノだと思ってますよ。ローゼマインとフェルディナンド様のやりとりに胸をときめかせてました。
無名でまったく人気のない作品の中にも、時々すっごくおもしろいのが混ざってるんだよね。
そういう隠れた良作を読み逃してはいけない! と、現実世界[恋愛]ジャンルの日間総合ランキングを下の方までじっくりと眺めていたところ、一つの作品に目が止まっちゃいました。
「おもしろそう!」って思ったんじゃなく、そのあらすじに書かれているいくつかのキーワードが気になっちゃって。
タイトルは「テニス部のあの子」、なんのひねりもないですね。作家名は「S」ってなってます。
そのあらすじは、こんなのでした。
「俺は藤堂シンイチ、中学二年生だ。最近同級生の愛田メグのことがとっても気になる。
メグは軟式テニス部、帰宅部の俺とは接点が少ないが、コンビニ寄った帰りにテニスコートでボールを追いかけるメグを見かけてなんかときめいてしまったんだ。
それからっていうもの、教室でメグを見かけるたびに俺はついついメグのことを目でおいかけてしまうようになった。
どうやってメグにこの気持ちを伝えたらいいんだろう」
うん、おもしろくなさそうです。普段なら中を読んだかどうかもわかりません。
まぁ大好きな学園モノの恋愛小説だし、一応日間ランキングに載ってたんだから少しくらいは見たかもしれませんね。
タイトルやあらすじはさっぱりなのに読んでみると面白い小説って、それなりにありますから。
でも、こんなタイトルやあらすじでよく下位の方とは言え、日間ランキングに載ってるものだと思いましたよ。
まぁ、現実世界[恋愛]ジャンルは人気があまりないので、少しのポイントで日間ランキングにも載れちゃうんですけどね。
気になったポイントは、まずヒロインの名前。
小説では「愛田メグ」ってなってますが、わたしは「相川恵」です。
似てると思いません?
皆から「メグ」って呼ばれてるのも一緒のこと。
まぁそれだけなら特にどうでもいい話だったんですよ。
それだけじゃなかったってことです。わたしは現在、中学二年生で軟式テニス部に所属してるんです。
ここまで共通点があると、偶然の一致とは思えませんよね。自意識過剰かな?
でも女の勘って結構あたるんですよ。推理小説読んでたってそれなりに犯人当たるんだからね、推理は見当外れってことが多いんだけどさ。
これはわたしのことをモデルにしてると考えたほうがいいと思いません? いや、きっとそうです。そう決めました。
いったい、これを書いた作家は誰なんでしょうか?
この謎を解決してみせる。じっちゃんの名にかけて!!
とりあえず、小説の中身を読んでみることにしました。
小説は毎日夜八時頃に投稿されているようで、今日の分は投稿済みでした。
一週間前から連載が始まっていて、すでに七回分投稿されてますね。
休みなく投稿してくれる小説は好きです。ちょっと高評価。
さーて、中身を見てみることにしましょうか。
内容とは特に関係ないんですけど、「1」「2」とかいうサブタイトルは辞めてほしいと思うんだ。タップしにくいじゃん!
第一話を開いて最初に思ったこと。
「短いよ!」
スマホの一画面に収まるような話ってどうかと思うんだ。
こういうの見ると、新しい実験作か? って気がしちゃうよね。
とりあえず第一話は自己紹介だけの内容っぽい。つかみが悪いよね。これじゃあんまり次を読みたくなくなると思いますね。
男性主人公の恋愛小説なら第一話でせめてヒロインが登場するあたりまでは書いてほしいかな。
あっといけない。小説として楽しんでばかりいないで、せっかく主人公の情報が書かれてるんだから、ちょっとまとめておきましょう。
名前は「藤堂シンイチ」、ヒロインの名前がわたしの本名からちょっと変えただけって感じなら、自分の名前もそうかもしれません。
クラス名簿を引っ張り出して来たけど、当然まったく同じ名前の男子はいない。
なんとなく、少しでも名前が一致する男子は、名字としては、
「堂本恭太」
「藤田学」
名前の方では、
「榊原真司」
「本多雄一」
くらいかな?
あっと、男子と限定したらまずいよね。そう思って、女子の方を見たけど気になる名字も名前はなかった。
あらすじに書いてあることは疑って、同じクラスって限定しないとなると、範囲が広くなりすぎてちょっと今の段階ではムリだね。
他の情報はと見ると、
・帰宅部
・クラスの委員ではない
・勉強も運動も平均的
・ずっと彼女はいない
このくらいかな。
現時点ではまったく誰とも特定できないか。
第二話に進みましょうか。
ここにきてやっと、ヒロインの「愛田メグ」登場です。
すっごく可愛いらしいよ! そしてなんか優しくてスポーツが得意らしい。
スポーツは得意だけど、可愛くて優しいのか……もしかしてわたしとは関係ないのかもしれないね。わたしが可愛い? 優しい? ありえない……
あ、でも数学が苦手ってなってる。わたしはあきらかに数学が苦手です。追試受けさせられてたのはクラスの誰もが知ってることでしょうね。
やっぱりわたしっぽいのかな?
参考になりそうな情報はもうなさそうかな。
第三話でやっと、あらすじに書いてあった場面が来るのね。
テニスコートは西門から出て道路を隔てたところにある。
きっと、犯人……じゃなかったシンイチくんはこの道路を通ってコンビニに行ったのよね。
あの道の少し先にファミマがあるから、きっとそこに行ったんでしょう。
それで戻ってきてわたしを目撃ってことは、シンイチくんの家は学校より南にあるってことかな?
断定はできないけど、その可能性はあるよね。
でも、仲のいい子しか家とか知らないしなぁ。
この情報はあまり役に立たないかも。
いい考えだと思ったけど残念。
第四話……うーん、本当にこのシンイチくんはメグのことが好きみたいね。
特に参考になることはなさそう。
でも、思ったより、この小説おもしろいかもしれない。
第五話。
音楽の時間のことが書かれた話は明らかに聞いたことがある。
アルトリコーダーのテストの時にくしゃみしたとかいうこのエピソード、わたしに間違いない。
そして、この作者はクラスの誰かってことで間違いなさそうね。
あのエピソードが他のクラスにまで広がってるとか思えないから。
「『くしゅん』ってくしゃみが可愛かった」って書いてくれてるけど、皆の前でくしゃみとかとっても恥ずかしかったんだからね!
第六話……ふふふ、ついに手がかりを見つけちゃったわよ。
「お弁当にタコさんウィンナーをいれてくるような可愛いところが」って書いたのは大きなミスでしたね、ルパンくん。
わたしの中学は給食があります。
ですから、わたしが学校にお弁当を持っていくことは極めて稀。
そして、確かタコさんウィンナーを持っていったのは、秋の遠足の時だけだったはず。
秋の遠足はグループに分かれてお弁当を食べたような記憶。
男女混成だったよね。
そのときのメンバは……覚えてないなぁ。
そうだ!
写真が残ってるはずじゃん。
物的証拠がありますよ。
あの時の写真を見ればグループに誰がいたか、わかるはず。
秋の遠足の時の写真をスマホから探して眺めて見る。
その時のグループはどうやらわたしを入れて七人。男子四人女子三人のグループだったようです。
その時のメンバは男子が、
「秋山俊平」
「榊原真司」
「豊島淳」
「藤田学」
そして女子が、
「茂木優花」
「渡会紅」
とわたしでの三人だ。
女子の三人組はたいていいつもいっしょに活動してる。
ちなみにこの二人も重要参考人にしておいたほうがいいね。
こういうネタはわりと好きそうだし、わたしが「小説家になろう」をよく読んでることを知ってるから。
とりあえず、
「犯人はこの中にいる!」
と言っておきましょうか。
さて、男子の四人について考えてみましょう。
とは言ってもよく知らないんだけどね。
遠足のグループだって、気づいたら優花がそうしてたんだし。
そういえば優花と秋山くんは同じブラスバンド部だったよね。
二人の仲はちょっと怪しいと思っている。
となると、帰宅部でもないし、秋山くんは容疑圏外においてもよさそうかな?
榊原くん、豊島くん、藤田くんについては部活とか、何をしてるかわからないなぁ。
クラス委員をしてないことは間違いないけどね。
そういえば、榊原くんと藤田くんについては名前からの推理でも候補者にあがってたね。
うんうん、怪しいぞ。
いや、そんな気がするんですよ。と言っておきましょうか。
第七話については特に追加となる情報なさそうかな。
教室でもよくメグのことを目で追ってしまってるって書いてあるなぁ。
でも実際のところ、そういう視線に気づいたことはないよねぇ。
まぁ、そういうことに関してはとっても鈍いって自覚はあるんですよ、これでも。
とりあえず今わかる情報ではこれくらいかな?
なんか見落としてる気がするなぁ。もっとがんばって、わたしの灰色の脳細胞。
明日ちょっと学校行ったら聞き込みでもしてみましょうか。
翌日の昼休み、給食を終えてから優花と紅を呼び出して、ちょっと聞いてみた。
「榊原くん、豊島くん、藤田くんって何部に入ってるかわかる?」
「おっ、なんだなんだ。メグが男子のことを聞くとか珍しいね。ついに春の訪れか?」
「それにしても一気に三人とは、メグって気が多すぎだよ。こういうことは一人に絞らないとダメだよ」
優花、そして紅が言いたい放題である。
「そういうんじゃないんだから」
いや、もしかしたらそういうのも少しだけはいってるかもしれないけどさ。
やっぱり気になるじゃない。
「そういうんじゃなかったら、どういうのさ?
まぁいいや、部活だっけ」
優花は知ってそうだな、教えて教えて。
「うんうん、教えて」
と、可愛らしく聞いてみる。
「そういう可愛いのは男子の前でしないと意味ないよ。うちらの前でカワイ子ぶっても正体を知りすぎてるし」
うるさいですわよ。紅の正体も十分知ってますからね。
「えっと、たしか豊島くんは陸上部だったはずだよ。榊原くんと藤田くんは部活はいってないんじゃないかな」
優花、さすがです。
何故か男子情報がしっかりしてますね。
秋山くんからの筋でしょうか。
「ありがとう、助かったわ」
「で、なんなのさ」
「えーっと、まだちょっと内緒かな」
「内緒? もうちょっとしたらちゃんと教えるのよ」
「う、うん。で、榊原くんと藤田くんって、つきあってる女の子とかいると思う?」
あ、なんか二人がすっごく温かい目で見てくれてる。
この発言は失敗したなぁと自分でも思ってるよ。
「わたしの知ってる限りではいないと思うけど……」
「わたしも知らないなぁ」
二人の知る限りでは交際相手はいないようです。
でもちょっと、紅の方の態度が変な気がしないでもない。
ということで、やはり榊原くんと藤田くんのどちらかが怪しいようです。
教室に戻ると、ついつい榊原くんと藤田くんのほうをチラチラ見ちゃう。
あ、今、藤田くんと目が合った。
もしかして藤田くんなの?
慌ててわたしは目をそらしたけど、藤田くんも慌てて目をそらしてたよね。
いつも目で追ってしまうって書いてたよね。
すっごくドキドキしてきた。
偶然よね、うん、偶然。
夜になってスマホの「小説家になろう」のページを何度もリロードするわたし。
はやく続きが更新されないかな?
こんなに最新話が待ち遠しい小説とか初めてですよ。
それにしても、いつもより更新が遅い!
何があったんだ。
そして、八時を四十分ほどまわったときに、ついに新着が来ましたよ!
急いで読んで見た。
あれ、いつもよりずいぶん長くない?
「もしかしたら、メグに気づかれたかも」ってなってるよ。
うん、気づいちゃったよ。
やっぱり藤田くんなの?
「こうなったら思い切って告白することにした」
えっ……それってリアルで告白するってこと。
わたしにリアルで告白するの?
どうしよう、どうしよう。
とりあえず、最後までちゃんと読むことにしよう。
いつもより長いって言っても、標準的な小説と同じくらいの分量なんだし。
「明日のメグの部活が終わるのを待って告白することにした」
そういう結びで今日の分の更新は終わっていた。
うわぁ。
何、この急な展開は!
いったい何がどうしたっていうのよ。
どうしよう。
翌日の学校は朝からもう気もそぞろ。
優花や紅が、
「メグ、朝からずっと変だよ。何があったの? 恋のときめき?」
とニヤニヤした顔でちょっかい出してくる。
いくらからかわれても、頭がまわらなくて何も反論できないよぉ。
授業中も酷いもの。
こういう時に限ってよく当てられるのです。
先生方は、どんな恨みがわたしにあるっていうのさ。
こんな状態の時にあてなくってもいいじゃない?
シンイチくんはこのクラスにいるんだから、こんなひどいわたしを見てどう思うことでしょう。
たぶん、シンイチくんもわたしと同じくらいドキドキだと思うから、今日クラスの様子をちゃんと見てれば、シンイチくんが誰かはっきりするとは思うんですが、とてもそんな余裕はないようです。
無念。
部活はもうひたすらダメダメでした。
ネットに突っ込んじゃったり、ボール踏んづけてコケたり、普段はやらないようなミスばっかりですよ。
へこんじゃいます。
そしてついに部活の時間が終わりました。
なんか時間の経つのが長いです。
本当にシンイチくんはメグにリアルで告白するんでしょうか?
ただの小説ですよね、普通。
そのとおりにことがリアルで起こるなんてことはありえませんよね。
わたしが小説のヒロインとかはありえないことですよね。
着替え終わった後、部の皆とはちょっと時間をずらして校門を出ることにしました。
そこに待っていたのは、なんと、
優花と紅の二人でした。
ひどいよ、二人とも!
あの恋愛小説は二人でわたしをからかうネタだったの?
ちょっと泣きたくなりましたけど、そんなものですよね。
「小説読んだんだよね?」
優花が聞いてくる。
「読んだけど……」
わたしが不満げにそう答えると、
「やっぱり。一応確認しておきたくてね。
じゃ、頑張ってね」
紅がそう言うと、むこうに駆けていく。
二人が駆けていく先には、秋山くんと藤田くんが立っている。
え、どういうこと?
皆でわたしを笑い者にしてたの?
信じられないよ。
わたしが呆然としてると、駆け去った二人の影に隠れて、もうひとり男子が立っていたのである。
ぜんぜん気づいてなかったよ!
「相川さん」
そう言ってきたのは榊原くんでした。
なにがなんだか、ちっともわからないよ!
「相川さん、ボクとつきあってもらえませんか」
そう言うと、榊原くんは大きく頭を下げた。
こういう展開なんですか……
「榊原くんが藤堂シンイチくんなんですか?」
「うん」
藤田くんじゃなかったよ。最後の二人までにはうまく絞り込んだ作家探しは最後でミスリードされてしまってたようです。
「事情を聞かせてください」
わたしの家の方角に向かって二人で並んで歩きながら、話を聞くことにした。
「ボクが相川さんのことを好きだってのは、前から秋山や藤田には知られてたんだけど、もうすぐ中二も終わりでクラスも変わっちゃうんだから、告白するなら今しかないだろって」
「うんうん」
適当にあいづちを打ちながら、榊原くんの話にじっと耳をかたむける。
「秋山が茂木さんに勝手に相談したら、相川さんは恋愛小説が好きだから、ぜひ恋愛小説書いて告白しろってことになったんだ」
「あらあら」
「十日間ちゃんと恋愛小説を更新したら、相川さんに知らせて読ませるからって言われてせっせと書いてたんだ。
そしたら昨日になって、相川さんに小説のことがバレたみたいって教えられて」
「それで、急遽こういうことになっちゃったんだ」
「うん、そういうこと。
昨日は投稿しようと予定していた話を、急に切り替えたから大変だったよ」
「それでいつもより投稿時間がずいぶん遅かったんだ。ちっとも新着来ないからずいぶん長いこと待ったよ」
「そっか、ごめん。待っててくれる人がいるとか、まったく考えてなかったよ」
「普通はそうだよね」
「でもよく毎日ジャンル別のランキングに載ってたよね、すごいね」
「それなんだけど、毎日交代で三人がブックマークや評価入れてて、そのうちクラスメートやブラバンの部員の何人かにも協力させてたみたい」
「なんと、見事なまでの組織票だったのね。そういうのはいけないんだぞ、本当は」
「そうか、皆にポイント取り消すように言っておくよ。
一応、組織票っぽくないのは数人ブックマークついてたけど」
「それだけでもたいしたものよ。
初投稿なんだし」
「ありがとう」
「文章はまだまだだけど、それなりにおもしろかったよ」
「え、本当に? 相川さんにそう言ってもらえるのが一番嬉しいよ」
榊原くんは照れたような感じで笑ってくれていた。
「それにしても、よくボクだってわかったね。
茂木さんから、すでに作者までバレてるって聞いてビックリしたよ」
「ネタバレすると、名前が似てるのと、帰宅部なのと、お弁当のタコさんウィンナーが決め手かな」
「タコさんウィンナーかぁ、それは気づかなかった。秋の遠足の時に見たお弁当が印象に残ってたから、つい小説のネタにしちゃったのが失敗だった」
「うふふ。それで榊原くんと藤田くんの二人にしぼったわけ」
「そこまでわかれば、ボクってなるのはかんたんか」
「え?」
「あれ? まだボクだって特定まではできてなかった?」
「うん」
藤田くんのほうだって思っちゃったのは内緒にしよう。
「だって作者名で『S』ってしてあったじゃないか。ボクの名字は『榊原』で、名前は『真司』だから、どっちもイニシャルはSだろ」
「あ、そうか気づかなかったし!」
残念、そんな明らかなサインを見落としていたとは。
「そっか。それにしてもすごいよ。あれだけの限られた情報の中でこれだけ特定できるんだから」
「恋愛小説に凝るまでは、推理小説たくさん読んだからね。小学校のときだけど」
「もしかしたら、学校にあった少年探偵団やアルセーヌ・ルパンや名探偵ホームズとかも読んだ?」
「見事な推理だね、明智くん」
「いや、ボクは榊原だから」
「うん、ほとんど全部読んじゃったと思う」
「いっしょだね、どういうのが好きだった?」
「わたしは怪人ニ十面相が出てくるのが好きだったかな」
「そうか、ボクはどっちかと言うとホームズが好きだったな」
「ちなみに、藤田くんと紅もつきあってたの?」
「どうやら、こういうことになって二人もおもしろがって協力してるうちに意気投合しちゃったらしい」
「まだ成立してホヤホヤなんだ」
「そうみたい」
昨日、藤田くんと目が合ったのは、紅から話を聞いてわたしのほうを見たってことね。
秋の遠足の写真見ながら、「犯人はこの中にいる」って言ったのほとんど間違いないじゃない。
主犯はもとより、皆が従犯だったりしてるし。
あ、豊島くんは関係なさそう?
でも、ポイント入れてたクラスメートの中に豊島くんが混ざってる可能性は十分高そうだよね。
「それで、どうだろう、相川さん。
あらためて聞くんだけど、ボクとつきあってもらえない?」
そっか、まだお返事してなかったっけ。
「あのね、わたしは恋愛小説はハッピーエンドが大好きなんだ」
「うん」
「だから、ちゃんとあの恋愛小説もハッピーエンドで完結させてくれるよね」
「それって!」
「そうそう、小説みたいにメグって呼んでね。
榊原くんのことは、なんて呼べばいいかな?」
「ボクのことは、シンジって呼んでほしいな」
「わかった、シンジ」
「ありがとう、メグ」
その夜の小説の更新も昨日以上に待ち遠しかったものです。
八時ちょうどに投稿された小説を、ゆっくりと味わいながら読むことができて、とても嬉しかった。
そして、わたしはハッピーエンドで完結したシンジの書いた小説に評価満点を入れた。