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第4話『スタートライン』

・2021年9月17日付

細部調整、なろう版では分割表記をカット

 西暦2020年4月1日、午前11時頃――遂に彼女は決意してファンタジートランスへと挑む事になった。


 彼女の場合は別のARゲームに集中していて、こちらの情報を仕入れていなかったのも致命的だが――そう言った人物は彼女の身とは限らない。


(遂に――この時は来た)


 彼女は既にARインナースーツを着用しているが、カラーリングはグレーをベースにした物である。


「私を――この状況に追い込ませた事、後悔させてあげる!」


 彼女の名はアルストロメリア――ARゲーム専用の待機ルームでは、既にSFモチーフなパワードスーツを着用していた。


 彼女のパワードスーツは、かなり使いこまれている感じであり――それこそ歴戦の強者を思わせるだろう。ただし、そう思わせるデザインにしている可能性もある為、それが彼女の実力と直結するかは不明だ。


「メイン武装は、別ゲームでのデータにはなるが――右腕に固定されたビーム刃のロングソード、両肩のシールドを展開するビット、シールドに収納されたレールキャノンと言う具合か」


 アルストロメリアを遠目から見ていらライバルプレイヤーは、彼女のデータを別ゲーム経由で確認していた。


 ファンタジートランスでは別ゲーム経由のガジェットの持ち込みは禁止されている。一方で、チートや不正ツールの類がインストールされていない場合に限って使用は認められているようでもあった。


「本当に――未プレイなのか? あのゲームを――」


 データを見ていたプレイヤーは、アルストロメリアの参戦ARゲームタイトルを見て――何か疑問に思う部分があった。その疑問は――数分後に現実となる。しかも、良くない形として。


 5分後、アルストロメリアは既にファンタジートランスのログインを始めようとしていた。スタートラインはスタッフの指示に従って、移動した場所――エントランスにある3番ゲートを通った先でもある。


 そして、本来であればARバイザーにもログイン確認メッセージが表示されるはずなのに――。


「えっ?」


 一瞬、目の前が真っ暗になった。その後にはゲームフィールドではなく、拡張現実空間が展開される前の空間が見えている。


 本来であれば舞台裏の類はARバイザーを装備していれば、災害時の避難に代表される非常事態以外では見えないはずだからだ。


 それが見えているという事は――ARガジェットにチートや不正ツールの類があったという可能性も否定できない。


『すみませんが――こちらの指示に従って、所定エリアへ来ていただけませんか?』


 スタッフの女性と思わしき声がARバイザーに響き渡り――次に表示された矢印に従う形で特殊なシャッターがある場所へと移動する。


 その距離は、わずか50メートル弱――本来であれば、こういう舞台裏と言うのは見えない方がプレイヤーの為なのだが。

 


 別所へ誘導されたアルストロメリアはパワードスーツを解除し、ARメットも脱いだ状態で待機用のいすに座っていた。


 イラつくような仕草は一切見せていないが、このようなトラブルが急に発生したのには自分も含めてスタッフも驚いているに違いない。


「原因が特定できました。簡単な事を言えば、アップデートミスに該当します」


 賢者のローブ姿と言う周囲のスタッフとは大きく違う外見をした女性――カトレアの姿を見たアルストロメリアは言葉を失った。


 カトレアの外見もそうだが、それ以上にアップデートと言う単語が出てきたことである。自分には心当たりがない。


 チートガジェットやツールの類を使用していれば、アップデートの段階でチェックが入ってガジェットが凍結されるのは他のARゲームでも見てきた光景だ。


 しかし、それと同じ事が自分のガジェットで起こるのは――正直考えたくもなかった。


「アップデートって? ファンタジートランスの?」


「その通りです。このゲームは、元々がサバイバルトランスの続編――と言うよりもARリズムゲームトランスシリーズの一つと言うべきでしょうか?」


「もしかして――前作のデータが残っていたから?」


「そうなりますね。アーケードのリズムゲームと違って、筺体で直接アップデートできるようなジャンルではないので。他のARゲームでは可能な機種もありますが」


「それじゃあ、データ引き継ぎで前作のデータが消える可能性も?」


「それはないです。あくまでも――ファンタジートランスとして使うデータだけの引き継ぎなので」


 カトレアの方は順を追って身振り手振りで丁寧に説明し、アルストロメリアもそれに対して相槌を打つ。彼女の今の精神状態だと――ちゃんと理解しているかどうかは疑わしいが。


「とにかく、公式サイトでも説明不足があったのは事実です。不備があったお詫びの意味を込めて、最初のプレイに関しては無料にしておきますので――」


 本来であれば1プレイ200円かかるのだが、お詫びと言う意味でも無料と言う事になった。チュートリアルは無料なので――その後のステージプレイを含めて一度だけ無料と言う事の様である。


「後は――ARガジェットの方はチートの類ではないので問題はありません。しかし、先ほどのシステムエラーで損傷しているデータもあるようなので――こちらで修復を行います」


 データの修復と聞いて、我に返ったアルストロメリアはかなり動揺をしていた。せっかくのスコアデータなども消えていないのか――と。


 結論を言うと、スコアデータは問題がなかったようである。ただし、一部の削除曲は反映されないようだ。


「データ修復まで少し時間がかかりますので、それまでの間は他のプレイヤーのプレイを見るなり、ご自由に行動してもかまいません。作業が終われば、バイザー経由でお知らせしますので」


 それだけを伝えて、カトレアの方は作業を始める為に別の場所へと向かった。それまでの間は他のARゲームをプレイしようにもガジェットは預けているので――プレイは出来ない。


 アルストロメリアはガジェットの修復が終わるまでの間、ARフィールドの外で待機をする事にした。センターモニターも近場にあったので、そこで様子を見る事も出来る。


 彼女としても早くプレイはしたいが、慌てるようなタイミングでもないので――まずは落ち着く事にした。



 既に時間は午前11時30分、アルストロメリアは待つのにも飽きてしまった――訳ではなく、何か別の事を考えていた。


『次のニュースです。芸能事務所による――』


 センターモニターではニュース番組が流れていたが、その内容は周囲もスルーしているようで――関心度の低さが物語る。


 次の瞬間には、ARゲームのプレイ動画に変更された事から――芸能事務所の話題は、ここではタブーと言う事かもしれない。


「予想外の人物がプレイしているな――」


「噂の人物、霧島か」


「彼女は相当な実力者と聞く。何故、メジャータイトルではなく新作を選ぶ?」


「メジャータイトルの場合は空いた椅子の争奪戦――それの問題じゃないのか」


「つまり、空席が多いほどプロゲーマーに狙われる?」


「その可能性は高いだろな」


 男性プロゲーマー同士の会話を盗みぎぎする訳ではないが、アルストロメリアには若干聞こえていた。


 霧島きりしまと言えば、ARゲームではネームドプレイヤーと言ってもいいだろう。アルストロメリアでも知っている有名人でもある。


「彼女はファントランスには興味すら湧かない――そう言っていたような気がする」


「確かにそうだろう。彼女の実力であれば、他のFPSやウォーゲーム系のアクションで注目されるだろうな」


「何故、彼女はファントランスに?」


「ゲームそのものをプレイせずに批判するのは――エアプレイと同じだからな。それをプロゲーマーがやるのは、禁止行為に該当するだろう」


「確かにライバルゲームを炎上させる目的で批判するのは禁止されているが、エアプレイも批判されるのか?」


「エアプレイはむしろ――って、こちらもARゲームフィールドではタブーか」


 プロゲーマ以外でも何かに言及しようと言う人物がいたようだが――彼は何も言及する事無く姿を消す。


 おそらくは、ARゲームのコミュニティで話す事はタブーと言う事で避けられている――その可能性は高いだろうか?


 アルストロメリアは、遠くから霧島のプレイ動画を見ていた。彼女のプレイには無駄と言う物がありそうな――と思ったが、何かが違うようにも見える。


 演奏に合わせて手際よく動く姿は――他のプレイヤーの参考にもなるかもしれないだろう。しかし、アルストロメリアには何かが引っ掛かる。


「彼女のプレイは魅せプレイの類と言うには――何かが違うかもしれないけど」


 冷静に分析し、霧島のプレイには何か欠けているのではないか――とも考える。自分はファンタジートランスをプレイし始めようとしていきなりのエラーだったので――参考になるかと言われると微妙かもしれない。



 動画を見ているうちに、時間は午前11時40分である。タブレットの時計アプリを見て、時間がかかり過ぎているのでは――とも思い始めていた。その状況で、ようやくタブレット端末にショートメッセージが入る。


【メンテナンスが完了しましたので、受け取りに――】


 メッセージの内容は所定の場所まで来てほしいという主旨の内容である。ガジェットのメンテが終わったという事らしいが――。


 駆け足で向かおうとも考えるが、エリア内では走る事はNGとされていたので――止む得ずに歩く事が義務となる。特定エリアに限っては走る事も許されるが、一般客も通るようなエリア以外の話だ。


「メンテナンスが終わったって言うけど――」


 タブレット端末を手に持ちながら歩く訳にもいかない。ながらスマホの様な行動はNGと立て看板でも明記されている。


 発見されると即逮捕ではないが、ペナルティがあるのは避けられない。おそらく、ながらスマホ等で悲劇が起きないように――と言う事だろう。


 しかし、そこまで過剰に禁止事項があったのではARゲームをプレイする気にはならないのではないか――アルストロメリアは、過去にも似たような疑問を持っていた。


「ここかな?」


 タブレット端末で誘導された先にあったのは、先ほどのエリアとは全く違う様なアンテナショップだった。


 入口の上にある看板には『ARゲーム総合センター』と書かれている。おそらく、ここが一種のヘルプセンターの類なのだろう。


 ここで会っているのか――と疑問に思うアルストロメリアだったが、次の瞬間には自動ドアが開く。自分が目の前に立ったわけではなく、向こう側の人物が――と言う事だろうか?


「アルストロメリアさん――ですね」


「はい、そうですが?」


「ショートメールの件に関してですね」


「ええ、そうですけど――」


 目の前に現れたのは女性スタッフだった。衣装は露出度が高いようなコスチュームではなく、作業服と言う感じである。


 しかし、見た目は作業服でも――その中身はARゲーム用のインナースーツであり、耐久度は一般的な作業服よりも上だ。


 彼女が姿を見せた事で、アルストロメリアも唐突過ぎて驚いたが、彼女の誘導に従うように別エリアへと案内される。



 別エリアに到着したのは、午前11時55分――もうすぐお昼と言う時間でもあった。通されたエリアは、SF作品でよく見るような研究所ではなく――。


「まるで、ゲームの開発現場かな――」


 アルストロメリアも、この光景には言葉を失いかける。スタッフが色々と慌ただしく動いていたり、パソコンの前でデータの打ち込み――。


 その光景はゲームの開発現場だ。ここに来たのは場違いなのか――そう思い始めた所で、タイミング良くカトレアがアルストロメリアの前に姿を見せた。


「ゲームの開発現場と言うのは否定しない。ARゲームも、ゲームであるのは間違いないからな」


 その一言は――その通りと言えるかもしれない。これがゲームではないと言ったら、ファンタジートランスはリアルスポーツなのだろうか?


 実際、イースポーツと言われている分野でもコンピューターゲームに対する認識は、様々であり――議論が尽きない。


「そう言えば、ガジェットのメンテナンスが終わったって――」


「バージョンアップも完了している。後は、君が必要事項にデータを入力して終了する」


「必要事項って?」


「プレイヤーネームと使用ガジェットか。プレイヤーネームは前作のデータから帰る事も出来るが――」


 その後、カトレアからは様々な説明を受ける事になるのだが――アルストロメリアはガジェットとしてのARガジェットは確認している。


「所で、あのアーマーはどうなったの?」


 そして、肝心のARアーマーはどうなったのか――アルストロメリアの問題は、そこにある。


「必要データの引き継ぎは完了している。しかし、一つ問題が発生して――」


 カトレアの表情は深刻と言う訳ではないが、悪いニュースでもあるのだろうか?

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