第11話『セカンドステージ』その3
・2021年9月22日付
細部調整
アルストロメリアの行く手をふさいだ三体のアバターだったが、その正体は自分と同じプレイヤーだった事実に衝撃を抱く。
ボスバトルはマッチング要素と言う事で、あまり考えもしなかった対人戦要素があった事実は――。
『シナリオブレイカーだと!?』
『どういう事だ? このフィールドはジャミングされていたのでは――』
しかし、アルストロメリアが困惑していた状況を覆した人物は――シナリオブレイカーだったのだ。
その出現方法は自分が使用しなかったCG演出――アルストロメリアは唐突な展開にドン引きになっている。
「ここで運営通報で消されたくなければ、おとなしく引き下がるのだな!」
シナリオブレイカーは両者にハンドガンサイズのガンブレードを突きつけている。ご丁寧に二丁拳銃アピールと言う事か?
本来使用するロングソードは右肩にマウントしていると言う事は――メイン武装は拳銃なのか?
「それに、ジャミングは別のARゲームでは問題ないかもしれないが――リズムゲームではチート扱いだ」
三人組の方を振り向いたシナリオブレイカーが警告をする。それに従うかどうかは別として――違法行為でゲームそのものを止められるのも興ざめだ。
それを踏まえての警告――だったのだが、三人組はあっさりと理解した。この状況に、シナリオブレイカーの方が逆にドン引きである。
『止めた止めた。シナリオブレイカーが相手では、確実に負けフラグだ』
赤のアバターは完全に戦意喪失し、他の二人に対して抵抗を止めるように指示する。
それに加えて――探している人物とは違う人物が現れたので、引き上げる――と言う事かもしれない。
『しかし!』
『我々の計画を知られた以上は、消すしか手段は――』
二人も赤のアバターに反論はするが、それが覆る事はなかった。仕方がないので、二人も赤のアバターの指示に従うらしい。一時はどうなるかと思ったシナリオブレイカーも一安心のようである。
『これだけは言っておく、シナリオブレイカー。お前はファンタジートランスがどのようなシナリオを想定しているか知らないが、止めることは不可能だ』
捨て台詞を残して赤のアバターは姿を消す。残る二人も赤に続く形で消えた。
シナリオブレイカーも――モブキャラの捨て台詞を気にしている場合ではない。それを気にしたら、いつの間にかネットが大炎上している事もあり得るからである。
午後1時40分、シナリオブレイカーはアルストロメリアの方を見ている。おそらく――これ以上は関わるな、と言う事なのだろうか?
「アルストロメリア――まさか、他シリーズもプレイしていたとは――」
ARバイザーの影響で素顔が見えないのは――他のプレイヤーも同じだ。つまり、彼女も――?
「私の名前を知っている? どういう事なの?」
シナリオブレイカーから自分の名前が出た事には驚くが、知名度的にも自分は知られていないと思ったので――尚更である。
「今は話せないが、前から知ってはいた。それだけの事――」
シナリオブレイカーの方は、何かを知っていそうな気配もするが――話をそらそうとしていた。
どうしても自分の正体を知られたくないと言う事なのか? それとも別の事情なのか?
「まさか、あなたも有名プレイヤーの――」
「仮に分かっていても、それ以上は――」
シナリオブレイカー側がこの話題を嫌がったように見えたので、それ以上は話すのを止めた。
しかし、あの慌てた様子は――明らかに何かを知っているようなリアクションだったのは間違いない。
同刻、ラーメンを食べ終わって運営本部へ戻ろうとしているカトレアにショートメールが届いた。
その内容は一部のまとめサイトがファンタジートランスを炎上させようと言う情報だが――メールを開封する事無く削除する。
他にも類似のスパムメールが来ていたので、同じようなスパムと思って削除したのだろう。
しかし、メールを削除した直後に別のメッセージが出現した。
【別の動画サイトの動画投稿者が、自分の宣伝する為に暴れている】
このメッセージをチェックした後、カトレアは先ほどのメールを削除した事に関して後悔をしていた。
どうやら、アレはスパムではなく本物だったらしい。
「これが新たなステージの始まりだと言うのか――」
カトレアは色々と思う所はありつつも、冷静に状況を整理して本部へと駆け足で急ぐ事にする。
仮に動画サイト側が自社サイトの宣伝を目的だとすれば、タダ乗り便乗もいい所である。
こうした暴挙は芸能事務所AとJの絡んだ超有名アイドル商法事件だけで――たくさんだと考えていた。
しかし、彼女は後に類似の事件はいくつか発生する事は避けられないとも考えている。
その証拠として――別のARゲームのロケテストで起きた謎の事件、小規模では済まないようなライバルコンテンツ潰しとも言える炎上行為が確認されていた。
コンテンツ流通に関与している以上、炎上マーケティングや様々な炎上案件には目を通しているし、そうした事件が起きないように対策はぬかりない。
それでも――確実に起きないとは言えないのが、一連の芸能事務所が絡んだ炎上マーケティング案件だ。
唯一神と言う存在に芸能事務所AとJのアイドルを位置づけ、ありとあらゆる世界をメタ的に支配しようと言う――WEB小説サイトの夢小説も逃げ出すような内容に、カトレアは本気で悩んでいる。
大抵のスタッフからは失笑が出る事もあった案件だが、ネット炎上でARゲームがあっという間にオワコン化する事は避けたいし、負債として歴史に刻まれるのも避けたいのは――同じだろう。
「何としても――」
カトレアが運営本部へ到着する1分前、似たような賢者を思わせるローブを身にまとった人物とカトレアはすれ違った。
自分とは体格も若干異なると思ったが、カトレアはそれを意識することなく本部前の自動ドアを開く。
「彼女がカトレア――成程、確かに自分とは似ている」
似たような賢者のローブを身にまとった人物、彼女は表情を変えることなく別のエリアへと向かった。
本来であれば関係者以外の立ち入りが禁止されているのだが、彼女は普通に入る事が出来たのだが――ザル警備と言う訳でもないだろう。
「カトレア、君の懸念している事は――いつか起こるであろう現実だろう。それを止めるのは、我々の役目でもある」
銀髪のロングヘアは風で揺れる事はないが、彼女は意味深なメタ発言をつぶやいて、指をパチンと鳴らすと――瞬時に姿を消した。
しかし、厳密にはARバイザー経由や監視カメラには映らないだけに過ぎない。それが、オケアノスで使用されているARシステムの限界と言えるかもしれないだろう。




