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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五章 印歴二一九一年二月五日
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0097.回収品の分配

 公園では、残った仲間たちが今夜休む場所を作った。

 滑り台にトタン板を立て掛け、瓦礫で押さえる。その近くに、瓦礫を並べただけの簡単な(かまど)ができた。



 回収した物を確認する。

 段ボール箱の中身は缶詰と電池、紙皿、紙コップ、使い捨てのプラスプーンだ。

 水は、五百ミリリットル入りがケースで一ダース丸々ある。

 電池は二本組が三セット。携帯ラジオ用のサイズだ。

 断熱シートだけでなく、麻袋と段ボールも寒さを防ぐ役に立つ。


 地下室から持ち出した物も使って寝床を整える。

 銀色の断熱シートは、広げると大人一人が横になれる大きさだった。それが四枚ある。祖父と両親、ロークの為に用意したものだ。

 段ボール箱の中身を出し、麻袋に詰め替える。


 「缶詰、三十個か……」

 メドヴェージが呟いた。


 レノがみんなを見回して提案する。

 「まず、缶詰と紙食器類を一人一個ずつ取る。で、鞄とか持ってる人はそこに入れる」

 「二十個残るな」

 手ぶらのクルィーロが言うと、同じく手ぶらのレノは頷いて続けた。

 「麻袋は丁度五枚あるから、缶詰四個ずつと紙食器と、電池を分けて入れるのはどうかな?」


 「成程(なるほど)。明日の朝、移動する時は段ボールも畳んで入れれば、運びやすいよな」

 クルィーロが頷くと、隊長も同意した。

 「リスクと重量は、なるべく分散した方がいい」

 ソルニャーク隊長の言葉に子供らが首を傾げた。


 「一人に全部持たせるのは、重くて運ぶのが大変だ。それはわかるな?」

 子供らが頷くと、隊長は表情を和らげたが、すぐに引き締めて続けた。

 「もしも、はぐれてしまったら、みんなが困るだろう? はぐれた人も大変だ」


 ロークは、そう言われて初めて気付いた。

 誰がどうなってしまうかわからない状況なのだ。


 「一人三つずつに分けられればいいが、この缶詰は大きくて重いから、小さい子には無理だろう?」

 缶詰の種類は全て同じ。二人前入りの野菜スープだ。栄養価を考えて具が多い。一缶の重量は六百グラムある。


 「リスクと重量か……でも、電池だけあっても仕方ないから、それはローク君に全部持ってもらった方がいいんじゃないか?」

 クルィーロが、ロークと隊長を見て言った。

 「はい。このくらいなら大丈夫です」


 ロークは記憶を手繰った。

 大掃除で毎年入れ替えるのは、水と缶詰、電池だけだった。

 消費期限のない物や長い物は、何年も箱に仕舞ったままだ。

 カセットコンロ、ボンベ、懐中電灯、ラジオ、蝋燭、マッチ、ライター。他の物は、雑妖が居座っていたと言う段ボールの中にある。

 あれば便利だが、命を懸けてまで取りに行く物ではない。


 ……戸を開けたまま来たし、他に生き残った人がみつけたら、その人に使ってもらおう。


 ロークは誰かの役に立つことを信じ、その件を黙っておくことにした。


 分配を終える頃には、風が冷えてきた。

 「じゃあ、お魚、獲りに行きますね」

 「大丈夫か? 疲れてんなら、無理せん方が……」

 「大丈夫です。休憩できましたから」

 気遣(きづか)うメドヴェージに、薬師(くすし)アウェッラーナは微笑みを返す。

 公園から運河までは五分くらいだ。

 護衛兼荷物持ちとして、土地勘のあるローク、ソルニャーク隊長とレノが付いて行く。クルィーロが小石に(とも)した【灯】はロークが持った。



 空襲から時間が経ったせいか、遺体はひとつも見えない。

 この状況では、人間が弔いの為に回収したのではなく、魔物の餌になった可能性が高い。


 そして、推測通りなら、遺体を喰らった分だけ魔物が強くなった。実体を得て魔獣化したモノも居るかもしれない。

 ここ数日、全く遭遇しなかったのは僥倖(ぎょうこう)だ。


 昨夜、モーフたちが見たモノは気になるが、襲って来なかったなら、あまり心配する必要はないだろう。他にもっと心配しなければならないことが山積みだ。


 三人が魔物や暴漢を警戒する中、アウェッラーナが【(すなど)伽藍鳥(ペリカン)】学派の術で魚を獲る。

 魔物が出るにはまだ明るいのか、無事に夕飯用の漁が終わった。



 ロークたち四人が戻ると、留守番組は何かの作業中だった。

 「よぉ。お疲れさん。ま、ちょっと休んでてくれや」

 メドヴェージが手を振って迎える。


 ソルニャーク隊長が作業の様子を見て言う。

 「炭で焚火をするのか」

 「えぇ。燃やすもんがありゃ、魔法使いさんも楽だろうってことで」


 残った男たちが、尖った瓦礫で焼け残った立木を欠き割る。女の子たちは、炭を拾って(かまど)へ運んだ。既に赤々と火が燃える。追加分を集める最中らしい。


 「ちっと手は汚れるが、寒かねぇからな」

 焚火のぬくもりが嬉しいのか、メドヴェージは上機嫌だ。


 「んー……金網やホイルがないと、魚に炭や煤が付いちゃうんですよね」

 アウェッラーナの呟きに、少年兵モーフが反応した。

 「サカナ、マズくなんのか?」

 「えっ? えぇ、まぁ、ちょっと苦くなりますね。それが好きな人も居ますけど……」


 「じゃあ、別の(かまど)作るから、そっちで焼いてくれよ」

 モーフは言うが早いか、返事も待たずに走って行った。

 「よっぽど焼魚が気に入ったみてぇだな」

 メドヴェージが苦笑し、自分の作業に戻った。


 ロークも滑り台の横に荷物を置いて、竈作りを手伝いに少年兵の後を追った。

☆昨夜、モーフたちが見たモノ……「0089.夜に動く暗闇」参照

☆【漁る伽藍鳥】学派の術で魚を獲る……「0045.美味しい焼魚」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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