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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五章 印歴二一九一年二月五日
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0094.展開しない軍

 クルィーロは考えた。


 国境警備隊は、敵兵よりもまず、クブルム山脈に巣食う魔物や魔獣から身を守らなければならない。魔装兵中心だが、飛行中の爆撃機を撃ち落とせる魔力の持ち主は、配置されなかったのだろう。


 一日で壊滅したネーニア島中央部は放棄し、ネモラリス島を死守する作戦なのだろうか。それでも、防衛の為に部隊を展開してもいいような気がする。


 ……なんで正規軍が助けに来てくれないんだよ?



 ラクリマリス王国との国境は、クブルム山脈だ。

 ネーニア島を東西に横断し、人が住める土地を南北に分断する。魔物が多く、半世紀の内乱後は滅多に人が立入らない。


 リストヴァー自治区の南、ラクリマリス側には鉱山がある。

 国境警備ではなく、鉱山労働者を魔物から守る為に軍を常駐させると習った。


 内乱後、国は分かれてしまったが、ネモラリスとラクリマリスの関係は、そう悪いものではない。

 双方に親戚や友人知人の居る国民が多く、貿易も盛んで、母の勤務先の主な取引相手はラクリマリスの商社だ。


 ラクリマリス軍が、アーテル軍に領空の通過を許した理由がわからない。

 不意打ちにしても、アーテル共和国はラクリマリスの遥か南西。大陸本土にある。南西から北東へ、湖上の飛行距離は長大だ。

 あれだけの編隊が、気付かれずに横断できるとは思えない。



 クルィーロは、ソルニャーク隊長をそっと(うかが)った。

 何か考え中らしい。


 星の道義勇軍のテロに対して、ネモラリス正規軍の動きは迅速だった。

 住民への食糧の配布があり、役所は避難用のバスと運転手も確保した。


 ……この辺一帯、ホントに丸ごと見捨てられたってのか?


 クルィーロは、背筋の凍る思いで周りを見回した。

 自分たちの他、人の気配はない。それどころか、逃げ遅れた犬などのペットの姿もない。

 運河や、遠く湖の上に水鳥の群が小さく見えるだけだ。



 「ここで考えていても仕方がない。行こう」

 ソルニャーク隊長の声で、一同は重くなった腰を上げた。


 自分の荷物のある者はそれを持ち、ない者はトタン板を持って行く。

 この三枚で、それなりに寒さを(しの)げる。

 クルィーロとレノ、ソルニャーク隊長と少年兵モーフが組んで一枚ずつ。一番小さい板をメドヴェージが一人で持った。

 重さはそうでもないが、風に(あお)られ、運び(にく)い。



 運河に出たが、ここにも人の気配はなかった。

 生き残った住民も、警察も消防も軍も居ない。


 「で、どうやって渡るって?」

 メドヴェージが聞くと、魔法使いの二人に視線が集まった。

 橋は空襲で落ち、運河の底にある。


 「水で橋を作ります」

 アウェッラーナがみんなに言い、次いで、クルィーロに説明する。

 「水を【操水】の術で起ち上げて、板状にして持ち上げて下さい。形と高さを維持して、みんなが渡るまで支えます」

 大丈夫ですか、と目で問われる。


 クルィーロは、ニェフリート運河を(のぞ)いた。乗用車などは沈むが、流れは緩やかだ。少し不安はあるが、やるしかない。

 「渡る順番、どうします?」

 クルィーロはアウェッラーナに頷いてから、みんなに聞いた。


 「対岸、誰も居なさそうだし、テキトーに。何人ずつくらい行けそう?」

 レノに聞かれたが、何とも答えられなかった。実際、やってみなければ、二人の魔力でどこまで重量に耐えられるか、わからないのだ。


 「あ、そうだ。ピナちゃん、アマナを頼む」

 「うん。……アマナちゃん、手、繋いで。一緒に渡ろう」

 クルィーロの頼みに快く応じ、ピナティフィダがアマナと手を繋ぐ。

 アマナも、よく知っているお姉さんだからか、素直に従った。


 「そうだな、最初は一人で渡って、様子を見よう」

 ソルニャーク隊長がトタン板を一人で持ち直し、運河の(ほとり)に立った。

☆母の勤務先……オレア貿易株式会社「0093.今日の行く先」参照


 挿絵(By みてみん)

 挿絵(By みてみん)

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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