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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第五章 印歴二一九一年二月五日
93/3486

0093.今日の行く先

 クルィーロは、思い切って聞いてみた。

 「ローク君はどうする?」

 「んー……一応、家を見に行って、地下室があるから、ひょっとして……まぁ、無理でも何か使えそうな物が残ってたら、持って行こうかなって……」

 半分以上諦めたのか、考えながら答える声には感情がない。


 「一人では危険です。ご一緒しましょう」

 薬師(くすし)アウェッラーナが引き留めるように言った。

 生存者が、身内や近所の友人知人とは限らない。

 「俺は、マスリーナで母さんの会社を探して、みつかってもみつからなくても、クレーヴェルには渡るんで……」

 クルィーロは、自分たち兄妹とみんなの予定をまとめて提案した。


 「まず、セリェブロー区でローク君の実家の様子を見て、ニェフリート河を渡ってマスリーナ市に行く。で、母さんの会社の名前は知ってるけど、場所はよく知らないから、まぁ誰か居れば尋ねて歩いて……」

 「港の近くって」

 アマナが小声で付け足した。


 「うん。港の近くの、オレア貿易株式会社ってとこだから、一緒にアウェッラーナさんとレノたちの家族も探して……」

 「マスリーナに着く頃には、日が暮れるだろう。先に休む場所を確保し、そこを拠点に数日掛けて人捜しをするといい」

 ソルニャーク隊長が、穴だらけの計画を修正する。


 クルィーロは、軽く会釈して続けた。

 「みつかってもみつからなくても、ネモラリス島に行く方がいいかなって……」

 「何で?」

 少年兵モーフが、純粋な疑問を投げかけた。


 「ネモラリスは、湖の民の偉い人が住んでるんだ。って言うか、元々湖の民が多い島で、つまり魔法使いが多いから……守りが堅くて、昔の森とかも焼けずに残ってたりするんだ」

 クルィーロは途中で、キルクルス教徒のモーフに申し訳ないような気マズさを覚えたが、結局、最後まで語った。少年兵は無邪気に感心して頷く。


 小学校で習う内容だ。

 自治区では授業の内容が違うのか。それとも、貧しさ故に小学校もロクに通えなかったのか……少年兵が当たり前のように発した問いに胸が痛んだ。


 「流石にこれだけやられたら、ネーニア家の人たちだって黙っちゃいないんじゃないかな?」

 「うーん……どうでしょう? 元々、共和制になってからは、政治には関与してなくて、政策への発言力は一般人と変わりませんから……」

 レノが言うと、湖の民のアウェッラーナが首を傾げた。



 ラキュス・ネーニア家は、ずっと昔のラキュス・ラクリマリス王国時代までは、陸の民のラクリマリス家と数千年に亘って共同統治を行った。

 共和制に移行するに当たり、ラキュス・ネーニア家は一国民として、みんなと同じ一票を持つことを宣言した。

 政府の要職に就く者も多かったが、公称は「庶民」だ。


 半世紀の内乱中、指揮を執ったウヌク・エルハイア将軍は、ネーニア家の分家筋に当たる。

 エルハイア将軍率いる防衛軍の働きで、ネモラリス島は戦火から守られた。

 一方、主戦場となったネーニア島、ランテルナ島、アーテル地方は焦土と化し、フナリス群島も無傷では済まなかった。



 「それに、あのエルハイア将軍も引退なさいましたし……」

 「えっ? なんで? 将軍って長命人種(ちょうめいじんしゅ)ですよね?」

 クルィーロは、百戦錬磨の将軍を当てにしていた。


 思わず発した問いに、アウェッラーナが自信なさそうに答える。

 「えぇ、そうですけど……内乱でご家族を亡くされて、戦いが(むな)しくなったからだ、と聞いたような……」

 「そんなの、教科書に載ってなかったし……」

 「湖の民の間では割と有名な噂ですよ」


 「だが、政府軍の主力はネモラリス島にある。今回は主戦場となるか、前回と同じく防衛できるか……」

 ソルニャーク隊長が、ネモラリス島のある北東を見て言った。

 南に目を転じて続ける。

 「ラクリマリス王国付近の国境警備隊は、爆撃機を撃墜できる装備は、与えられなかったのだろうな」


 メドヴェージも南のクブルム山脈に目を向ける。

 「地上部隊もどうだかなぁ。噂じゃ、自治区の暮らしに嫌気が差した奴らが、山越えでラクリマリスに出てったって聞いたコトあんぞ?」

 「でも、山ん中で化けモンに食われるから、無事にあっちまで行けた奴なんかいねぇって……」

 少年兵モーフが自信なさそうに否定した。

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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