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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第三十章 離反

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842/3504

822.未確認の情報

 「本日、ラクエウス先生にご相談に上がったのは、こちらが本題なんです。……このニュース、ご覧になりましたか?」


 若手のクラピーフニク議員が、老議員にタブレット端末を向ける。ラクエウス議員は老眼鏡を掛け直して、ポータルサイトに目を走らせた。


 今朝、配信されたばかりの記事だ。

 ラクリマリス王国軍による発表モノで、ネモラリス政府軍がツマーンの森から魔哮砲を回収した、との内容だ。報道官が、記者団を前にツマーンの森から回収した遺留品を【(ただ)しき燭台】に掛ける動画もあった。


 「使い魔にした四眼狼をけしかけて、魔哮砲を殺処分するのかと思ったんですけど、単に手頃な大きさに削っただけでした」

 クラピーフニク議員が、動画の要約記事に肩を落とした。

 「ネモラリス軍の魔装兵が、小さくした魔哮砲と【使い魔の契約】を結びました。【従魔の檻】を使って回収して、どこかへ【跳躍】……今はどこに居るかわからなくなっています」

 「この動画では軍服を着ておらんが、この魔法の道具は、映った者の所属もわかるのかね?」

 「あれっ? ラクエウス先生は、シクールス陸軍将補とご面識は……」

 クラピーフニク議員が目を丸くする。


 「ないな。生憎、軍の上層部とは接点がないものでな」


 半世紀の内乱中は、敵として戦った。

 軍幹部には長命人種が多く、ラクエウス議員とは互いに距離を置いている。


 ファーキル少年の端末が、机上でガタガタ音を立てて震えた。

 「あ、ラゾールニクさんです」

 端末を手早く操作し、机上に置く。


 画面には、崩壊した建物の写真が表示されていた。コンクリート造りの建物は、一階と二階は無傷だが、その上は完全に吹き飛び、元が何階建てであったのかさえわからない。

 ファーキル少年の指が画面を撫で、下から別の写真が現れる。

 全焼した建屋の残骸だ。基礎付近で折れた鉄骨と地面の焦げ跡で、辛うじて焼け跡だとわかった。


 「アーテル本土のイグニカーンス空軍基地だそうです」

 「えッ?」

 「何ッ?」

 議員二人が端末から顔を上げる。諜報員ラゾールニクから連絡を受けた少年は、大人二人を相手に物怖じすることなく説明した。

 「ラゾールニクさんも記者会見の場に居て、【(ただ)しき燭台】の映像を録画しました。それで、端末持ってるアサコール先生とクラピーフニク先生にデータを見てもらって、ラクエウス先生の歌の練習が終わるのを待ってたんです」

 「アサコール先生は、王都のメンバーと連絡を取っています」

 クラピーフニク議員は、ラクエウス議員と対策を協議する為にマリャーナ宅を訪れたと言う。


 ファーキル少年が、ラゾールニクの活動を語る。

 「アーテル人向けのSNSで気になる書き込みをみつけて、さっき見に行ってもらったんです」

 「気になる書き込み?」

 「書き込みの日付は先週でした。夜中にイグニカーンス基地の方で爆発音と火柱が上がったって言うもので、住人が撮った火柱の写真もありました。でも、ニュースにはそれらしい記事がありません」


 ラクエウス議員は、ファーキル少年の手許に目を遣った。

 「それが、この惨状なのかね?」

 「はい。ラゾールニクさんの調べでは、衝撃波で窓ガラスが割れた家もあったそうです。住民の話では、弾薬庫の爆発事故だけど、万が一、敵国に知られるとよくないから、ニュースにしないって、軍がガラス代を弁償したそうです。俺がみつけた書き込みは、削除漏れでしょう」

 「焼け跡はそうかもしれんが、もうひとつの……上が壊れた建物は、一体どうしたんだね?」

 ラクエウス議員の質問にクラピーフニク議員も首を傾げる。


 「それは、今、調べてるそうです。それと、戦闘機や爆撃機が一機も残ってないけど、カルダフストヴォー市に居る見張りからは、そんな大編隊が飛んだって言う報告がないから、事故のせいで危なくなって、陸路で他所の基地に移したんじゃないかって話です」

 老議員は少年の説明を頭の中で反芻した。


 「ふむ……しかし、事故にせよ、ネモラリス憂撃隊の仕業にせよ、基地ひとつ使い物にならんようになったのだ。これでまた、少しは空襲が減るだろう」

 「爆撃機がどこ行ったか調べてる最中ですけど、無事だったら、他の基地から出撃するから一緒じゃないかなって……」

 ファーキル少年の言うことは(もっと)もだ。

 ラクエウス議員が頷くと、クラピーフニク議員が聞いた。

 「ネモラリス憂撃隊ってそんな強い魔法戦士が居るの?」

 「さぁ……? 俺が知ってるのは、製薬会社の警備員さんくらいで……【飛翔する鷹】学派の武器職人さんとか居たから、何かスゴイ武器を作ったのかも知れませんけど、今のメンバーがわからないんで……」

 少年は、若手議員の質問に首を捻りながら答えた。本人も自分の答えに納得がゆかないらしい。


 「魔法では、こう言うことができんのかね?」

 「できなくはないと思いますけど、一般人とは桁違いの魔力が必要ですよ」

 ラクエウス議員は、若手の答えに驚いた。

 「できるのかね」

 「うーん……えっと、魔装兵の【光の槍】は一発で、術の防禦がない普通の民家を一軒か二軒、吹き飛ばせますよ。【魔力の水晶】や【魔道士の涙】で強化すれば、もうちょっと……」


 ファーキル少年が再び、二階までが残る建物を表示させた。窓の数からざっくり測り、民家数十軒分はあろうと概算する。

 クラピーフニク議員が机上で手を動かして推測を語る。

 「どここかで横一列に並んで、一斉に【光の槍】を撃ち込めば、こうなるかもしれません……けど、それでも一人一人に相当な魔力と射撃精度がないと無理ですよ」

 「そんな人が、ゲリラになるかな?」

 「政府軍か、ネミュス解放軍の仕業かも知れんのかね?」


 三人は何とも言えない気持ちで、破壊された建物の写真を見詰めた。


挿絵(By みてみん)

☆ネモラリス軍の魔装兵が、小さくした魔哮砲と【使い魔の契約】……「776.使い魔の契約」参照

☆夜中にイグニカーンス基地の方で爆発音と火柱が上がった……「816.魔哮砲の威力」参照

☆製薬会社の警備員さん……オリョールのこと。「004.登場人物紹介」参照

☆【光の槍】は一発で、術の防禦がない普通の民家を一軒か二軒、吹き飛ばせます……「614.市街戦の開始」「638.再発行を待つ」「652.動画に接する」「662.首都の被害は」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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