表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第二十六章 集散

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

689/3505

673.機材の積替え

 「お礼って言うのもアレなんですけど、もし、荷台に空きがあったら、放送機材を受け取ってもらえませんか? もう、放送して欲しいとかじゃなくて……」


 メドヴェージがトラックの荷台とワゴン車を見比べ、DJレーフに呆れた声で言う。

 「もう放送しねえっったって、そいつぁ、放送局のモンじゃねぇのか?」

 「政府軍と解放軍、どっちの手に渡っても悪用されます。電源車がないんでこのまま持ってても使えません。だから、バラしてスクラップ屋に売ってもらった方がマシなんですよ」

 「発電機が動きゃ、このトラックでも放送できるんだろうにな」

 メドヴェージが苦笑すると、DJレーフは何とも言えない顔で荷台を見た。ソルニャーク隊長は二人の遣り取りを険しい顔で見守っている。


 ……やっぱ、隊長は放送して面倒に巻き込まれんのがヤなんだな。


 少年兵モーフは、大人の話に口を挟まないでおいた。


 「それができれば、一番いいんですけどね」

 「みなさんを危険に晒してしまいますから」

 国営放送アナウンサーのジョールチが目を伏せた。


 ……売り飛ばして足がつくのもヤベーと思うんだけどなぁ。勝手に放送するよりゃマシなのか?


 最初にその話が出た時、ソルニャーク隊長も懸念を示した。それで結局、紙に書いて配ることになったのだ。

 「隊長、どうしやす?」

 「そちらの車は機材を下ろせば足を伸ばして寝られるな。……こちらで引き取ろう」

 「隊長ッ?」

 少年兵モーフは驚いて見上げたが、隊長はモーフに構わず、メドヴェージに指示を出した。


 「機材は奥の部屋に入れよう。入りきらなければ、他のものを端に寄せてそこへ」

 「了解!」

 メドヴェージが荷台の扉を全開にして固定した。

 モーフも隊長について行き、荷台の物を端に寄せて通路を作る。



 終わる頃には、放送局の二人も機材の固定具を外し、ワゴン車の外へ運び出していた。

 全部黒くてボタンやツマミ、コードの差し込み口がごちゃごちゃ付いた複雑な機械だ。モーフにはどれが何やらわからない機材を五人がかりで運び込む。


 ジョールチがコードの束を抱えて荷台に上がり、壁の一点を見詰めて固まった。


 ……何だ? 虫でも居んのか?


 少年兵モーフはアナウンサーの視線を辿り、冷や汗がどっと出た。


 ……ヤベェ!


 係員室から出て来た隊長に目で訴える。

 二人のただならぬ様子に気付き、ソルニャーク隊長も視線の先を見た。一瞬、身を強張らせたが、落ち着いた動作でジョールチの手からコードの束を取る。国営放送のアナウンサーが空いた手でぎこちなく指差す先には、荷台の壁に描かれたマークがあった。


 「これ……ウチの……国営放送のイベント中継車……ですよね?」

 「バレたか」

 運転手のメドヴェージが豪快に笑う。

 ジョールチは困った顔でソルニャーク隊長を見た。モーフも、隊長がどうするのか固唾を呑んで見守る。DJレーフが、マイクなどの小物を詰めたプラ籠を抱え、何事かと荷台を覗いた。


 「俺が運送屋だってのはホントだが、このトラックは会社のじゃなくて、放送局の廃墟から拝借してきたモンだ」

 「何故……?」

 笑いがおさまったメドヴェージが隊長より先に言うと、国営放送のジョールチは泣きそうな顔で聞いた。


 「そりゃ、焼けちまったからだよ。放送局の連中は逃げちまって、人っ子一人居なかったし、あん時ゃ女子供も居て、大人数を一遍(いっぺん)に運べるモンが欲しかったんだ」

 メドヴェージがあっけらかんと説明すると、隊長も当たり(さわ)りなさそうな本当のことを言った。

 「その中にパン屋が居てな。道中、手持ちの物や魔力をパンの材料に交換してもらって、パンや蔓草(つるくさ)細工などを売って交通費を稼いでいた」

 「パンのシールは仕事の報酬としてもらったモンだ」


 ジョールチが疑わしげな目を向ける。

 「他の方たちはどうなさったのですか?」

 「身内に会えたり、なんやかんやで途中で降りて、残ったのは葬儀屋と俺らだけだ。最後はクーデターの前に首都で七人降ろした」


 少年兵モーフが横を見ると、DJレーフと目が合った。頷いてみせ、籠を取って荷台に上げる。

 「隊長、まだ入りそうっスか?」

 「あぁ、大丈夫だ」

 二人が何事もなかったかのように作業を再開すると、呆然としていたジョールチが隊長の脇をすり抜け、係員室に入った。


 「元々あった機材と取扱い説明書はどうされました?」

 「外せるモンは外して、放送局に置いてきたぞ。そうでもしなきゃ、みんな乗れなかったからよ」

 メドヴェージが答えたが、ジョールチは返事もせずに中でごそごそしている。

 隊長が籠を置きに行き、様子を見る。


 メドヴェージは荷台から降り、DJレーフの肩を叩いた。

 「そんな顔すんなよ。俺らも落ち着き先がみつかりゃ、別の支局でもいいから正直にワケを話して返そうと思ってたんだ」

 「い、いえ、そうじゃなくて、これ、移動放送車だったんなら、ホントに使えるな、と思って……」

 レーフが複雑な顔で、メドヴェージと荷台の奥へ忙しなく視線を往復させる。


 ……何だよ、まだ放送すんの諦めてねぇのかよ。


 少年兵モーフは、葬儀屋アゴーニが戻ってくれば、彼らとは縁が切れると思っていた。

 交渉が上手く行って、インターネットで外国に伝えるだけでなく、ジョールチがまとめたニュースが新聞に載って、それを持って帰ってくれば、ネモラリスの国内でも伝えられる。

 聞き逃せばそれでおしまいのラジオで言うより、どうにかして外国の新聞を配る方が確実に伝わるだろう。



 「あった! ありました!」


 アナウンサーの声が弾け、三人の目が荷台に戻った。

 隊長とジョールチが荷台を飛び降り、薄い本を広げる。機械の絵の横に小さい字がびっしり書いてあり、少年兵モーフはそれだけで読む気をなくした。


 大人たちは額を寄せ合い、難しい本を夢中で読み耽る。

 少年兵モーフは退屈になり、広場の草地に分け入って香草と傷薬になる薬草を摘んで回った。街で薬屋に売れば、幾らかになるだろう。

☆最初にその話が出た時……「663.ない智恵絞る」参照

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ