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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第二十六章 集散

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662.首都の被害は

 「政府軍と解放軍がやりあった初日に局を脱出したんだ。政府軍が局内に入って来るどさくさに紛れて、地下駐車場へ行って音響さんとか、技術スタッフ三人と一緒に」

 FMクレーヴェルのDJレーフは、(うつむ)き加減で答えた。金色の髪が焚火に照らされ、夜の中で一際(ひときわ)目立つ。

 雑妖は、広場を遠巻きにするだけで動きが鈍かった。


 「他の奴はどうしたんだ?」

 FMの四人で乗って、何故、国営放送のアナウンサーと二人きりで、日没後にこんな所を走るハメになるのか。

 少年兵モーフの質問にも、DJレーフは丁寧に答えた。

 「他の三人は家族が心配だからって、それぞれの家の近くで下ろしたよ。念の為に解放軍が言ってた停戦時間だけ移動して、後は戦闘区域外で時間待ち。瓦礫や渋滞で通れない道があって、こんなに日数食ったんだよ」


 「ふーん。兄ちゃんは何で一人で出て来たんだ?」


 モーフの何気ない質問にレーフの顔が歪んだ。(こら)え切れずに落ちた滴が草を濡らす。

 メドヴェージは、やっちまったな、とでも言いたげな目で少年兵モーフを見るが、苦笑しただけで何も言わなかった。



 葬儀屋アゴーニが荷台に上り、水塊を連れて戻る。新しい香草茶が行き渡ると、DJレーフはハンカチでごしごし顔を拭いた。

 「……すみません」

 「いや。こちらこそ、すまない。話せそうにないなら、無理しなくていい」

 ソルニャーク隊長に謝られ、少年兵モーフは気マズさに身を縮こまらせた。レーフが首を振り、泣き腫らした目で微笑む。

 「いえ、これも首都の被害状況のひとつとして聞いて、口コミで広めて下さい」


 力ない笑みに口許が震え、DJレーフは香草茶で唇を湿らせて目を閉じた。

 「俺んち、北門の近くだったから、最後に行ったんです。そしたら、家があったとこは大穴が開いてて……」

 閉じた瞼から涙が流れ、頬を濡らす。

 焚火の光に輝く滴をそのままに、DJレーフはしっかりした声で語った。


 「近くの神殿や避難所を何カ所も回ったけど、俺の身内はどこにも居なくて、やっと西門の近くの神殿で近所の店の人をみつけて、その人が、みんなダメだったって……」

 再び、涙で声にならなくなり、たった一人生き残ったDJレーフは紙コップに口をつけて深呼吸した。


 葬儀屋アゴーニが、湖の女神に彼らの魂の平安を祈る。国営放送のジョールチも続き、少年兵モーフたち星の道義勇軍の三人も、黙祷を捧げた。


 「どっちの仕業か知らねぇが、とんでもねぇ術ぶっぱなしたんだな」

 メドヴェージが嘆息すると、ジョールチがDJに気遣う目を向けて言った。

 「恐らく、【飛翔】で移動しながら【光の槍】を撃ち合ったのでしょう」

 「えぇッ?」

 少年兵モーフが声を上げると、国営放送のアナウンサーは淋しげに笑って言った。

 「意外ですか? 両軍の兵は【鎧】で守られて、大した被害がなく、防禦の薄い民家を中心に流れ弾の被害が出ているのですよ」

 「あ、いや、そうじゃなくってよ、俺、その魔法、使うの見たコトあるけど、魔獣一匹にもトドメ刺せなかったのに、家ぶっ飛ばすって……?」


 「この辺に出たのか?」

 葬儀屋アゴーニが驚いて、星の道義勇軍の三人を見回す。

 ソルニャーク隊長が訂正した。

 「いや、別の森だ。運び屋が呪符で攻撃して、私が魔法の剣でトドメを刺した」

 「今、武器をお持ちなんですか?」

 「借り物で、返却済みだ」

 隊長の答えにアナウンサーのジョールチは肩を落としてモーフに説明した。

 「えーっと……呪符は、籠められる魔力に限度があるので【光の槍】も高出力にはなりません。しかし、魔装兵は、アーテル軍の戦闘機や爆撃機を一撃の(もと)に落としています」


 目の前の男の口から、いつもラジオから流れている声が聞こえるのは何とも妙な気分だ。

 少年兵モーフは、国営放送のアナウンサーから目を逸らし、ハンカチで目頭を押さえて動かないDJを見た。


 ……母ちゃんと姉ちゃんは、絶対ムリに決まってんのに、何で俺は涙も出ねぇんだろうな?


 直接、焼け跡を目にしていないからだろうか。リストヴァー自治区に戻れば、このDJのように声も出なくなるくらい嘆き悲しむのだろうか。



 「燃料と電源車があれば、機材を動かして放送できるんですけどね」

 国営放送のジョールチがいきなり話を変え、少年兵モーフは頭がついて行けなかった。他のみんなもそうなのか、無言でアナウンサーに注目する。


 「電源車でなくても、どこかの民家から延長コードで電気を引っ張れば、何とかなるかもしれないのですが、農村部には電気、ガス、水道がなかったので、口コミが限度でした」

 「あんたら、発電機の動かし方、知ってるか?」

 アナウンサーはメドヴェージから目を逸らし、隣のDJを見た。DJは俯いたまま首を横に振る。

 ソルニャーク隊長が、二人の背後に停めたワゴン車に目を凝らした。モーフも見たが、焚火が反射して窓の奥は見えない。


 「放送機材を持ち出したのか」

 「持ち出したって言うか、イベントの中継車で、ずっと積みっ放しなんです。いつもは電源車も一緒なんですけど……」

 隊長の問いにDJレーフが顔を上げた。

 「ガス欠で動かせないし、街に行っても【水晶】に魔力入れるくらいじゃガソリン売ってもらえないだろうから、どの(みち)、使えませんよ」 


 「ここじゃダメなのか?」

 葬儀屋アゴーニが聞くと、DJレーフは力なく俯いた。

 「イベント用で、出力低いんで、会場とその周辺くらいしか……」


 少年兵モーフは周囲を見回した。

 焚火の炎に照らし出された広場の外は、深い闇に包まれたウーガリ山脈の裾野の森だ。雲の隙間から漏れる星灯では、木々の輪郭も夜に溶けて見えない。

 ウーガリ古道に入ってから出会ったのは、ローク親子とこの二人だけだ。

 人家は一軒もなかった。


 ……クルィーロ兄ちゃんだったら動かせんのになぁ。


 今は、首都クレーヴェルの帰還難民センターに居た。


挿絵(By みてみん)


☆その魔法、使うの見たコトある……「479.千年茸の価値」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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