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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第三章 印歴二一九一年二月三日
63/3486

0063.質問と諍いと

 炎に(あぶ)られ、全身が火照(ほて)る。

 こんな所で今夜を生き延びられるとは思えない。


 ……どうせ死ぬんなら、すっきり納得してからにしてぇなぁ。


 知ったところで意味はない。モーフの得になることでもない。

 それでも、好奇心が抑えられなかった。

 腰を浮かせかけたが、念の為、ソルニャーク隊長の許可を得た方がいいのではないか、と思い直す。


 隣で負傷兵を()る隊長に声を掛けた。

 「あの、隊長、ちょっと質問、いいっスか?」

 「何だ?」

 「あ、隊長じゃなくって、あっちの連中に聞きたいんスけど」


 ソルニャーク隊長は、少年兵が指差す方へ顔を向けた。首を傾げてモーフに向き直る。

 「あの子たちに? 何を聞く気だ?」

 「あいつら、あの女の子をハブってるみたいなんスけど、何でかなって思って」

 隊長は、何の屈託もなく疑問を口にした少年兵に苦笑した。


 すぐに頬が(ゆる)み、苦笑が溶ける。隊長は柔らかな微笑で問い返した。

 「気になるか?」

 「俺、何かマズいコト言いました?」

 怪訝(けげん)な顔で首を傾げるモーフに、隊長だけでなく、元トラック運転手と老兵も苦笑を洩らした。

 「何だ、坊主。そんなに気になんのか?」

 元運転手のメドヴェージがニヤニヤ笑って聞く。

 モーフは、妙なことを口にしてしまったのかと恥ずかしくなった。


 だが、今、言わなければ、疑問や後悔を抱えたまま死ぬことになる。

 顔を上げ、おっさんの目を見て答えた。

 「うん。何で俺たち……親の(かたき)がすぐ(そば)に居ンのに、パッと見、仲間っぽいあのコを睨んでんのかなって思ったんスよ」


 大人たちの顔から笑みが消えた。

 少年少女が一斉にこちらを向く。

 他の避難民や警察官も注目した。


 「最初は、仲間を裏切って罠にハメたのかって思ったんスけど、俺、そんな作戦知らねぇし、違うなって……」

 「そうだな。我々の部隊は、市民病院を破壊した後はそこを拠点にして、治療を求める避難民を迎え撃つ手筈だった。この作戦で、住民の協力者は居ない」

 ソルニャーク隊長が肯定する。

 警察官は顔を見合わせたが、何も言わなかった。


 「そうなんッスよね。それで、何でかなって思ったんスよ」

 少年少女は互いに目配せし、何か(ささや)き合う。

 ピナと呼ばれた少女は、少年兵と少年少女の群に視線を巡らせ、反応を待った。

 ピナの兄らしき若者もモーフを見詰める。その目には何故か憎悪の色はなく、穏やかだ。


 「おい、お前ら何とか言えよ。何でお前らの街を焼いた俺らを憎まねぇんだよ」

 「……憎まれたいのか?」

 ややあって、少年の一人が立ち上がる。威嚇しようと思ったのか、声だけは大きいが、震えていた。


 モーフは少年の虚勢(きょせい)に気付かぬフリで答えた。

 「そうだ。その為にやったんだ。俺たちだって、お前らを憎んでる」

 少年兵モーフの視線に射抜かれ、その少年は身を固くして唇を噛んだ。

 他の少年少女は目を泳がせ、あるいは(うつむ)いて少年兵から視線を()らす。


 モーフは少年から目を逸らさず、更に言った。

 「俺たちには魔力がない。お前らにも魔力がないから、こんなとこで固まってんだろ?」

 少年が機械的な動作で(うなず)く。

 魔法使いの工員が天を(あお)ぎ、警官は地を見詰めた。

 湖の民の癒し手は、まだ目を覚まさない。


 「お前らはキレイな街に住んで、毎日学校へ行って、毎日メシ食って、キレイな水を飲んでるから、病気にもならない」

 モーフはそこで言葉を区切ったが、彼らには話が見えないのか、反応がない。

 少年兵は一気に続きを(まく)し立てた。


 「でも、俺たちの街は、半世紀の内乱からの復興もまだで、家はボロボロの小屋の奴が多くて、学校へ行く代わりに生活費を稼ぎに工場で働いて、それでも、カビの生えたパンとか、野菜屑みてぇなもんしか食えなくて、水はしょっぱい上に鉱毒(こうどく)で汚れてるから、次々病気になって、毎日のように人が死んでる。しかも、病院もない」


 誰も口を挟まず、モーフの淡々とした声だけが響いた。

 「何で、同じ力なき陸の民なのに、こんなに扱いが違うんだ? 俺たちが何か悪いコトでもしたってのか?」


 群の中から、別の少年が立ち上がった。

 服に血が(にじ)み、左腕は折れたのか、応急処置が施されている。

 「だから、何だってんだ? 俺たちだって何もしちゃいねぇよ。大体、お前ら何者だ?」

 こちらは虚勢ではなく、苛立(イラだ)ちと(さげす)みを吐き捨てるような声だ。


 モーフが全く(おく)することなく、即答する。

 「俺たちはリストヴァー自治区の星の道義勇軍だ。さぁ、お前も質問に答えろ」

 「自治区民の分際で、命令すんな」

 少年も、打てば響く勢いで言い返した。

 その一言で、義勇兵に緊張が走る。老兵が明らかに殺気を(みなぎ)らせた。

☆俺たちの街は、半世紀の内乱からの復興もまだ……「0013.星の道義勇軍」「0026.三十年の不満」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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