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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第二十四章 道程

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614/3505

600.放送局の占拠

 「すごーい。アミエーラさん、ラジオで歌ってる」

 「キレイな声ー」

 アマナとエランティスが、目を輝かせて囁く。

 昼間、港公園の展望台で赤毛の大男が歌ったのと同じ歌だ。


 職員が(とも)してくれた【灯】の下で、みんなはロークのラジオを聴いていた。


 役所関係の手続きが終わったのは、夕飯の直前だった。

 連休明けには通帳の再発行の手続きが待っているが、身分証などは明日か明後日にでも手渡されるとのことで、ロークたちは肩の荷がひとつ降りた。


 夕飯は、帰還難民センターの食堂で済ませた。

 意外に具の多いスープと、やわらかいパンだ。


 食べ物が充分なら、心が荒まずに済むだろう。

 ロークは心の底から感謝した。


 プレハブの一棟が、丸ごと難民向けの食堂になっている。

 体育館くらいの建屋だが、夕飯時には席が半分くらい埋まっていた。

 職員の話では、近くの仮設住宅に移った人々も、職が決まるまではここで食べさせてもらえるらしい。


 センターの宿舎もプレハブだ。

 二段ベッドが二台置いてあるだけの部屋が割り当てられた。

 一緒に旅した仲間と離れたくない、と言ったら、パン屋兄妹と薬師(くすし)アウェッラーナ、ロークはクルィーロとアマナ兄妹と同室にしてもらえた。


 元移動販売店の七人は部屋へ入らず、荷物を持ったまま食堂に留まっている。

 疲れ切っているのに、離れたくなくて、夕飯後もここでラジオを聴いていた。


 一緒に聴いていた難民たちは、番組が終わるごとに減ってゆき、今は遅番のパートから帰ったと言う年配の夫婦が、遅い晩御飯を食べている。


 「知り合いが出てんのかい?」

 妻の嬉しそうな声に、アマナとエランティスが同時に頷いた。

 「うん。一緒に避難してたお姉ちゃん」

 「王都で親戚の人と会えたの」

 「そう。よかっ……」


 ブツリ。


 突然、歌声が断ち切られ、ロークはラジオを見た。

 電池は地下街チェルノクニージニクで、運び屋フィアールカが調達してくれた新品だ。


 ……不良品だったのかな?


 みんなの曇った顔をなるべく見ないようにして、足下の荷物を(あさ)る。電池が見つかる前にアナウンサーの緊迫した声が流れた。


 「番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします」

 聴き慣れた声は、国営放送のアナウンサーだ。


 ……民放の番組なのに、何で?


 「たった今、入りました未確認の目撃情報によりますと、先程、国会議事堂と議員宿舎が武装勢力に占拠されたとのことです」

 アナウンサーの乾いた声は、心なしか震えている。


 少し離れた席の難民たちが、食事を中断して集まってきた。

 紙のこすれる音と、数人の息遣いを背に、アナウンサーが告げる。


 「国営放送の本局も占拠され、私は窓から飛び降りて【跳躍】で逃れて来ました。武装勢力は“ネミュス解放軍”を名乗り、銃と魔法で職員を……」

 DJが大声で【鍵】の呪文を唱え、アナウンサーが口を(つぐ)んだ。


 「……国民のみなさんは、不要不急の外出を控え、家の守りを固めて下さい」

 「守りを固めるったって、どうすりゃいいんですか?」

 民放のDJが、リスナーの疑問を代弁する。


 「壁に埋め込まれた【魔力の水晶】や【魔道士の涙】への魔力の補充、全ての窓と壁に物体の鍵と術の【鍵】を掛けて下さい」

 「力なき民はどうすれば?」

 DJがリスナーの疑問と焦りを口にした。

 数秒の沈黙の後、アナウンサーが答える。

 「しっかり施錠して、窓を家具やガムテープで塞いで、割れたガラスが飛び散らないようにして下さい。地下室があれば、そちらへ避難して下さい」


 「未確認の目撃情報って、ドコ情報ですか?」


 DJが、タイミング良く次々と質問を繰り出す。

 ロークが唾を飲み、人々は息を詰めて聞き入る。

 レノ店長とクルィーロが、妹たちを抱き寄せた。


 「職員です。国営放送の非番の者と遅番の者が、局へ報せに来ました」

 「国営放送を乗っ取ったってコトは、今頃、そっちで武装勢力が声明を出してるかもってコトですよね?」

 「……恐らく、その為に占拠したのでしょう」

 アナウンサーの声に無念が滲む。


 この民放局も、いつまで無事でいられるか。


 みんなの目がロークに集まる。

 頷いてラジオに手を伸ばした。

 選局ツマミを回す指が震える。


 「……します。ネモラリス共和国の皆さん、そして、ラクリマリス王国、アーテル共和国のみなさん。我々は“ネミュス解放軍”です。ウヌク・エルハイア将軍の許、現政権の横暴に立ち向かう為、決起しました」


 やっと周波数を合わせられたられた国営放送は、アナウンサーの言葉通り、“ネミュス解放軍”を名乗る者たちの手に落ちていた。

 ラジオから流れる女性の声からは、何の感情も聞き取れない。


 「この国は半世紀の内乱後、政体に民主主義を採用しましたが、現在の議会は数の暴力が(まか)り通り、少数派の意見はなかったことにされてきました。こんなものは到底、民主主義と呼べるものではありません」


 ……この人、何言ってんだ?


 今でも、国営放送の周波数に合わせれば、元は同じ国だったラクリマリス王国とアーテル共和国には電波が届く。受信については問題ないだろう。

 ロークには、アーテル人がわざわざ聴くとは思えなかった。ラクリマリスに逃れたネモラリス難民なら聴くかもしれないが、数は知れている。


 「先の議員宿舎襲撃事件は、現政権の手に依るものです。実行犯は、与党の命令を受けたネモラリス正規軍の治安部隊です」


 居合わせた人々が息を呑む。


 「与党……秦皮(トネリコ)の枝党が中心となって、魔哮砲の使用を推し進めました。反対した議員は議員宿舎に軟禁され、外部との接触を極端に制限されました」


 女性の声が、感情のない声で事件の真相を告げる。

 ここには、それが事実だと確認できる者は居ない。


 だが、ファーキルがタブレット端末で見せてくれた告発動画と同じ内容だった。

☆ウヌク・エルハイア将軍……「093.今日の行く先」参照←伏線が大遠投過ぎて誰も気付かない。過去最長記録(笑)

☆告発動画と同じ内容/“清めの闇”と呼ばれる魔法生物……「497.協力の呼掛け」参照

☆先の議員宿舎襲撃事件……「277.深夜の脱出行」「425.政治ニュース」「497.協力の呼掛け」参照

☆反対した議員は議員宿舎に軟禁され、外部との接触を極端に制限……「241.未明の議場で」「247.紛糾する議論」「248.継続か廃止か」「253.中庭の独奏会」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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