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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第二十三章 分岐

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587.ハンパな情報

 個別記事を開く。



 魔哮砲は魔法生物 ラクリマリス軍、調査結果を発表



 情報源は湖南経済新聞で、今朝、配信されたばかりだ。

 記事によると、現在、ネモラリス軍が「魔哮砲」と呼んでいるモノは、旧ラキュス・ラクリマリス王国時代に研究、開発された魔法生物だと言う。

 ラクリマリス側に伝わる資料の一部と、その研究の末端に携わった研究員の生き残りの証言が掲載されている。


 ……雑妖を食べて魔力に変換する「清めの闇」だって? 結局、それって兵器ってコト? それとも掃除機?


 今のラクリマリス政府は、その辺りについて言及していない。

 国連の査察の件にも触れていなかった。


 ……前に査察の結果は「シロ」ってニュースで見たし、言わないってコトは……セーフってコト?


 それも何だか腑に落ちない。


 止め方を知る研究員がラクリマリス領に住んでいるから、いざとなったら、なんとかしてくれるのだろうが、不安は残る。


 読んだ限りでは、危険な存在だ。

 七百年くらい前にも多くの死傷者を出している。

 兵器として開発されたモノでなくても、今、現にネモラリス軍は「清めの闇」を「魔哮砲」と呼んで兵器利用し、アーテル空軍を迎撃していた。


 ……これって、アーテルにとって有利な情報だよな?


 案の定、アーテルの大手ポータルサイトやニュースサイトでも、大々的に報じられていた。

 自国の主張は正しかった、邪悪な国を倒そう……論調は穏健なものから過激なものまで様々だが、方向性はどれも同じだ。

 その後、国を滅ぼすかどうかはさておき、魔哮砲を破棄させて、ひとまず国連の監視団を置くことになるだろう。


 ……ネモラリス政府はそれに従うのか? って言うか、今のあれって制御を離れてるんだよな?


 しかも、ラクリマリス領に居る。

 場所はツマーンの森。

 アーテル軍が放った腥風樹(せいふうじゅ)がうろついていて、回収もままならない。


 記事下のコメント欄には過激な文言が目立つ。



 ――やっぱり魔法使い共は()しき存在だったんだ。

 ――バルバツムに頼んで核を撃ちこんでもらおう!

 ――燃やせ! 燃やせ! 悪しき者を焼き尽くせ!


 ――こんなコトになるんなら、腥風樹は出さない方がよかったんじゃね?

 ――ラクリマリス軍は何やってんだ? 止め方知ってんなら、さっさとやれよ。


 ――回収してラクリマリスの物にする気か?


 ――元々作らせたのラクリマリス王家だろ?

 ――作った時点で、条約違反じゃねぇのか?



 これらはアーテル人の総意ではない。

 同じ人が何度も書き込んでいるだろうし、そもそも検閲があるからネモラリスを(かば)う発言をすれば大変なことになってしまう。


 ……でも、「みんなが言ってるから」って周りに流されやすい人は、これで流されちゃうんだよなぁ。


 聖者キルクルス・ラクテウスが説く「智恵と知識の光」とは程遠い。

 熟慮せず、単にその場のノリと、気分に流されているだけの空気だ。



 ラゾールニクから返信が来た。



 ――俺は、君のことを自己紹介されたこと以上には知らない。フィアールカさんから、グロム市に泊まるとこを用意してあげて欲しいって頼まれただけだ。



 ソルニャーク隊長とメドヴェージには、最初からバレていた。

 ラゾールニクも、この依頼で「少なくともラクリマリス人でない」と察しただろう。


 もしかすると、アルトン・ガザ大陸のキルクルス教社会のことを指摘した時にバレたかもしれないが、呪医セプテントリオーの前では言わないでいてくれた。


 ……ネーニア島へ行かせてくれないのって、その辺もあるのかな?


 ファーキルが何者かわからないが、ネット上での影響力は大きい。一拍遅れで、現実の社会にも多少は影響が及んでいるだろう。

 ラゾールニクたちの活動の邪魔になるかもしれないから、フィアールカの頼みでも、のらりくらりと実行を先延ばししているのか。


 ……正直に言ったら、手伝ってくれるのかな?


 千年茸(せんねんたけ)の売上と動画の広告収入があるから、グロム市へ渡る船賃はある。街の中なら最悪、野宿しても森の中よりは安全だ。

 自分で宿を取ろうかとも思う。

 子供一人で泊めてくれる店があるとは思えないので、自分を人質にして「じゃあ、野宿します」と言えば、同情して入れてくれるかもしれない。



 ――今、ネーニア島は危ないんだけど、それでも行くのか?



 ――わかってます。危険な場所の範囲も。



 ファーキルはすぐに返信したが、ラゾールニクからはなかなか来ない。痺れを切らして更に送る。



 ――危険な所へは行きませんし、行けないでしょう。人の暮らしがある場所で情報収集したいんです。



 ――わかった。じゃあ、絶対にグロム市から出ないでくれ。船には一人で乗れるな? 行きは一人、帰りは一週間後に俺が迎えに行く。



 一週間後にどこへ連れて行かれるのか聞いたが、それには返事がない。

 一方的に期限を切られてしまったが、ファーキルが了承の旨を返信すると、宿の名称とチェックイン、チェックアウトの日時、誰の名で予約したかが追加で送られてきた。地図も添付されている。


 以前、移動販売のみんなに嘘がばれないように、グロム市の地理を頭に叩き込んだ。まさか、本当に役立つとは思わなかったが、丁度良かった。

 お礼を返信し、現地のニュースを調べる。



 グロム市はプラーム市などからの避難者を受け容れていた。宿に泊まれる者は少数で、多くは神殿や公民館などに開設された避難所に身を寄せる。グロム市以北の街や、フナリス群島へ避難した者も多いらしい。


 ……そう言えば、ロークさんのお友達も王都に来てたもんな。


 プラーム市には、腥風樹討伐隊の臨時本部が置かれていた。

 市の南部と中部の住人は避難した。防壁と石畳に守られた市内は安全だが、風向きなどを考慮して、念の為と言うことらしい。新道を挟んだ北部は、今のところ避難の対象外だ。



 明日はグロム市に移動して市内で情報収集。明後日以降は、宿に荷物を置いたまま船でプラーム市に渡り、数時間だけ情報収集して日帰り。ラゾールニクが迎えに来る前日は念の為、グロム市内で過ごす、と大まかな予定を立てた。

 観光客が居なくなった今、ネットからは一般人視点の生情報がなくなった。

 マスコミ報道は、マクロな俯瞰情報と安全な場所に避難した人のインタビューが中心だ。アーテル程ではないにせよ、報道規制が敷かれた情報もあるだろう。ラクリマリスの地方新聞やFMラジオなら、現地の生活情報を出しているかもしれないが、ネット配信していない。


 実際に行ってみなければ、現地の状況はわからなかった。

☆「魔哮砲は魔法生物 ラクリマリス軍、調査結果を発表」の記事……「580.王国側の報道」「581.清めの闇の姿」参照

☆国連の査察……「248.継続か廃止か」「269.失われた拠点」「278.支援者の家へ」参照

☆ソルニャーク隊長とメドヴェージには、最初からバレていた……「545.確認と信用と」参照

☆アルトン・ガザ大陸のキルクルス教社会のことを指摘した……「433.知れ渡る矛盾」「434.矛盾と閉塞感」「435.排除すべき敵」参照

☆グロム市の地理を頭に叩き込んだ……「219.動画を載せる」参照

☆ロークさんのお友達も王都に来てた……「544.懐かしい友人」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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