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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第二十二章 祖国

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544.懐かしい友人

 少し痩せているが、泣きながら抱きついてきた腕の感触は以前と同じだ。


 「チェルトポロフ!」


 ロークは相手の呼称を叫んで肩を叩くと、それ以上、何も言えなくなった。聖職者とアウェッラーナに誘導され、通路の端に寄る。みんなは、二人が少し落ち着いて涙を拭うまで、何も言わずに待ってくれた。


 「水の縁が繋がって、お知り合いと再会できてよかったですね」

 「はい、友達なんです。てっきり空襲でダメかと……」

 聖職者の微笑みに、ロークは声を詰まらせながら答えた。チェルトポロフも涙でくしゃくしゃの顔で笑う。

 「俺も、ロークんちって力ある民、居ないから、絶対ムリって……」

 「俺だけ、たまたま……」

 「あっ……ゴメン。俺んとこも姉ちゃんが学校に助けに来てくれて、プラーム市の親戚んとこ居候させてもらってたんだけど、腥風樹(せいふうじゅ)の件でここへ避難してきたんだ」

 チェルトポロフが暗い声で(うつむ)く。


 ロークはここまでの道程(みちのり)をどう説明したものかと考えあぐね、適当に言葉を濁した。

 「そっか……チェルトポロフも大変だったんだな。俺も色々あって、ずっと一緒に避難してた人たちと、昨日、王都に着いたばっかなんだ」

 「えっ? じゃあ、ロークたちも結婚式場に泊めてもらってるんだ?」

 チェルトポロフの顔が一層明るくなる。


 「あ、いや、その……」

 「この方々はフィアールカ神官のお知り合いで、別の所にご逗留なんですよ」

 湖の民の聖職者が助け船を出してくれた。あんなにいいホテルに泊めてもらっているとは言い(にく)い。


 「明日の朝、ネモラリス島行きの船に乗るんだ」

 「そっちに親戚とか居んの?」

 「居ないけど、俺、力なき民だから、いつまでも王都には居られないし、フィアールカさんが船の手配もしてくれたから……」

 ロークが言うと、チェルトポロフは伏せていた顔を上げて笑った。


 「そっか。俺、親戚んちで漁師の修行させてもらってたんだ。お互い、ゼルノー市に帰ってまた会えたら、お祝いに魚料理でパーティーやろうな!」

 「うん。そん時ゃ俺も香草とか用意するよ。ゼルノー市で、また会おう!」

 がっしり手を握り、何度も何度も振る。チェルトポロフの掌は、マメができてすっかり硬くなっていた。


 「あ、そうだ。ヴィユノークが教えてくれた美味いパン屋さん、店長さんは残念だったけど、息子さんたちは助かったぞ」

 「マジかよ!」

 「うん。一緒に避難してて、みんなでパンの移動販売とかして旅費稼いでるんだ」

 ロークが言うと、チェルトポロフが瞳を輝かせて周囲を見回した。


 「じゃあ今、ここに?」

 「来てるけど、調理器具は【無尽袋】の中だから、パンは焼けないよ」

 「うん、それはいいんだ。ちょっと会わせてくれないか?」

 「お参りは?」

 「さっき終わったとこ」

 ロークは連れにすっかり待たせてしまった詫びを言い、チェルトポロフと連れ立って神殿を出た。



 小学生二人はすっかり退屈していたが、みんなは端の柱の傍で待っていてくれた。

 「すみません、お待たせしました」

 「いいよいいよ、どうせ宿に戻ってもやることないんだし」

 笑って迎えてくれたレノ店長は、ロークが紹介するより先に気付いた。


 「君、ひょっとして、スカラー高校の……」

 「はい、椿屋さん、憶えててくれたんスね」

 「毎朝、買いに来てくれてましたからね」

 チェルトポロフが笑みをこぼして、レノ店長と固く握手を交わす。パン屋の姉妹は元常連客に微笑んで会釈した。


 「椿屋さん、また、パン屋さんしてくれますよね?」

 「はい。立入制限が解除されたら、復興作業員の人たち相手にリヤカーでパン売ろうかと思ってるんですよ」

 ピナティフィダとエランティスの顔から営業スマイルが消え、驚きと喜びが弾ける。レノ店長はまだ、妹たちにも店の再建計画を話していなかったらしい。


 「さっき、ロークと話してたんスけど、ゼルノー市に帰ったら、お祝いに魚パーティーしようって……あ、俺、今【(すなど)伽藍鳥(ペリカン)】学派の修行中なんで」

 「そうなんですか。えっと、ローク君のお友達なんですね?」

 レノ店長の目が、チェルトポロフからロークに移る。

 「高校は別なんですけど、中学で仲良くなったチェルトポロフです」


 レノ店長の実家の椿屋を「スカラー区に美味しいパン屋がある」と教えてくれたヴィユノークの丸っこい笑顔と、一緒に行ったチスの「こんな美味いのに、こんな安くていいのかよ」と驚いた顔は、ここにない。

 それから毎朝、チェルトポロフは同じ高校に通うヴィユノークと一緒に椿屋でパンを買っていた。グリャージ区の工業高校に通うチスも、通学の時間は少し早かったが、きっとそうだっただろう。セリェブロー区の商業高校生だったロークだけが、休みの日のおやつを買いに行っていた。


 「そうだったんだ。……ありがとうございます。俺、椿屋を継いだレノです。店は必ず再建させます。その時は、またよろしくお願いします」

 「はい! 俺も修行頑張るんで、店長さんも頑張って下さい!」

 レノ店長とチェルトポロフは、握った手を激しく振りながら肩を叩きあい、約束を交わした。何度も別れの言葉を言って互いに手を振り、チェルトポロフが人混みに紛れる。

 友達の姿が見えなくなると、場の空気がしんみりした。



 「レノ、常連さんが無事でよかったな! きっといっぱい買ってくれるぞ」

 魔法使いの工員クルィーロがレノ店長の肩を叩いて笑うと、彼らの妹たちも笑顔で頷いた。交換品が魚なら、お互いに取敢えずは飢えずに済む。


 「流石に……さっきの人たちは、まだですね」

 ファーキルが庭園と水路に目を遣り、誰にともなく言う。

 魔法で舟を漕いでも大神殿まで一時間、コンサートが何時までなのか知らないが、楽屋に伝えても、歌手本人にちゃんと伝えてくれるかどうかわからない。

 ニプトラ・ネウマエがあんなに人気のある大物歌手なら、生き別れになった身内だと嘘を()いてでも会いたがるファンが居るかもしれない。


 ……伝えてもらえなきゃ、いつまで待っても返事なんて来るワケないよな。


 ロークはアミエーラが気の毒になったが、掛ける言葉がみつからなかった。

☆ヴィユノークが教えてくれた美味いパン屋さん……「034.高校生の嘆き」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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