0475.情報と食べ物
運び屋フィアールカからの返信を待つ間、ファーキルも作業に加わる。
港の跡地に生えるのは、塩害に強い草だけだ。小さな黄色い花が咲き、赤い茎に肉厚の丸い葉。ちょっと触れただけで葉がぽろぽろ落ちた。
「これ、どうするんですか?」
近くに居たクルィーロに聞いてみた。
魔法使いの工員は、魔法のマントで妹を暑さから守りながら草を摘む。彼は湖面に目を向けて答えた。視線を辿ると、薬師アウェッラーナが【操水】の術でラキュス湖の水面を歩き、布の買物袋で魚を獲るのが見えた。
「アウェッラーナさんが、何か色んな薬の素材になるって言ってた。一応、食べられるらしいけど、一度にたくさん食べたらおなか壊すってさ」
「そうなんですか、手伝います」
「それより、連絡どう? 上手く行った?」
「送信して、返事待ちです」
ファーキルは、葉が落ちないよう慎重に摘んだ草をビニール袋に入れながら答えた。茎からたっぷり出た汁で手がぬるぬるする。
「そうなんだ。……あ、その人って、この場所わかるのかな?」
「一応、バス停の写真付けて送ったんで、最悪、バスで来てくれるんじゃないかなって」
「それって、そんなコトもできるんだ?」
クルィーロは驚いた顔でファーキルとタブレット端末を見た。妹のアマナは、二人の会話に全く無関心で、兄が作ったマントの影でせっせと薬草を摘む。
女の子たちと少年兵モーフは、蔓草細工の帽子を被るが、他のみんなは暑そうだ。
「連絡は終わったのか? なら、少し情報収集して欲しいのだが」
「じゃあ、ちょっと手を洗ってきます」
ソルニャーク隊長に声を掛けられ、ファーキルは立ち上がった。
岸に戻り、術で干物を作っていたアウェッラーナが、魚から抜いた水分でファーキルの手をキレイに洗ってくれた。
「朝ごはん、久し振りに生の魚を焼きましょう」
アウェッラーナが声を掛けると、クルィーロとアマナがトラックに戻り、【炉】の用意を始めた。
パン屋の三兄姉妹も、食器を用意する。さっきあんなことがあったばかりだが、レノ店長とピナティフィダは香草茶のお陰か随分、落ち着いた。いや、怖いくらい無表情だ。
心の傷が本当に癒えるまでは、香草茶なしではいられないだろう。
ファーキルが、助けてくれた少年兵モーフの姿を捜すと、メドヴェージとロークと一緒に道路脇の森の縁で、薬草などを採っていた。
……後であっちを手伝おう。
アーテル軍がネーニア島南部に進軍した影響で、街ではどのくらい物価が上がったか、想像もつかない。
漁師の娘でもある薬師アウェッラーナは、既に何十匹も魚を獲ってくれた。移動販売店プラエテルミッサの一行は、全部で十二人。これだけあっても、ほんの数日分にしかならない。
……アウェッラーナさんには、いつも苦労ばっか掛けちゃってるな。
ファーキルは短くなってきたトラックの影に入り、ランテルナ島のラジオ局のサイトを開いた。
陸軍、決死の進軍
仰々しい見出しの下に短い記事が続く。それによると、昨日、「ネーニア島南部ツマーンの森にネモラリス軍が魔法生物を兵器化した【魔哮砲】が居る」と確かな筋からの情報を得て、ラクリマリス領に部隊を派遣した。進軍したのは、アーテル陸軍の対魔獣特殊作戦群で、銀の砲弾や銀の弾丸、キルクルス教会で聖別された剣などを携行して云々とある。
……「確かな筋」ってなんだよ? って言うか、橋のとこの部隊、流石にもう再配備されてるだろうし、なんて言って通してもらう気なんだ?
ラジオ局のサイトには、北ヴィエートフィ大橋のラクリマリス王国側の検問には言及がない。
ポータルサイトを開き、ニュースコーナーを見る。
関連ニュースのリンクを辿り、やっとみつけた情報は、ラクリマリス軍が魔哮砲の処分を邪魔した場合は、ラクリマリス王国も魔法生物の兵器利用を肯定するものと看做す、とのアーテル政府の見解だけだ。
進軍から一夜明けたが、アーテル側のニュースサイトには、全く続報がない。検索ワードを色々変えてみたが、それ以上の情報は得られなかった。
ファーキルは、アルトン・ガザ大陸のバルバツム連邦に本社を置く通信社のサイトにアクセスしてみた。
こちらも、アーテルと同じ情報だ。
少し考えて、SNSのサイト内検索で「ツマーンの森 戦車」を湖南語と共通語でそれぞれ探す。
グロム市に滞在中のアミトスチグマ人留学生のアカウントが引っ掛かった。
アーテルの戦車が、ツマーンの森を横断する新しい道路を占領し、近郊の農家の人たちが大勢、街に避難した云々とある。
この情報ひとつでは真偽の程は定かでないが、何となく、正しい情報に思えた。
……好意的な書き方じゃないから、これ、強行突破したんだろうなぁ。
アミトスチグマ王国に本社を置く湖南経済新聞のラクリマリス王国版を開く。
こちらには、再び破壊された北ヴィエートフィ大橋の袂付近と、モースト市の写真があった。
撮影日時は今朝八時十二分とあり、アーテル軍の戦車と輸送トラック、兵士も写る。
焼魚の香ばしい匂いが漂ってきた。ファーキルが端末から顔を上げると、レノ店長たちが長机に焼魚を盛った木皿を並べる所だ。
ソルニャーク隊長に情報の概要を伝える。隊長は、「そうか……有難う」と言ったきり、黙りこんだ。
☆アーテル軍がネーニア島南部に進軍……「0449.アーテル陸軍」「0455.正規軍の動き」参照
☆漁師の娘でもある薬師アウェッラーナ……「0045.美味しい焼魚」「0097.回収品の分配」参照




