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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十九章 進攻

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0471.信用できぬ者

 クルィーロは何とも言えない気持ちで、メドヴェージと共に三人目の負傷者を病室へ運んだ。六台のベッドは既に半分埋まる。


 ……こいつらも、目を覚ましたら何しでかすか。


 やはり、ゲリラなんか信用できない。複雑な思いで陸の民のゲリラをベッドに横たえた。

 先客が誰か気になって、最初から寝ていた一人の枕元へそっと回る。クリューヴの気弱そうな寝顔があった。


 少しホッとして、メドヴェージと頷き合う。

 「この気ぃ小っさそうな魔法使いと、あの湖の民の警備員は、まだ話が通じる奴でよかったな」

 「そうですね」

 「隊長とあの坊主も無事らしい。まずまずじゃねぇか」

 「……これで、空襲が減ってくれればいいんですけどね」


 正規軍の代わりにアーテルの空軍基地を潰しに行った件については、彼らを責める気にはなれない。

 クルィーロは、自分のあまりにもムシのいい考えに胃が痛み、クリューヴの寝顔から目を逸らした。



 かなり遅れて、葬儀屋アゴーニが入ってきた。片腕を失った男を支えて隣のベッドに座らせる。


 緑髪の呪医セプテントリオーが、改めて他の患者の容態を診て回った。最後に、片腕を失くした男の前に立って宣言する。

 「欠損部位が大きい為、私の【青き片翼】では復元できません」

 「えっ? じゃあ、どうすりゃ」

 陸の民のゲリラが、大量の出血で蒼白な顔色を更に悪くして聞く。


 「呪医(せんせい)! 店長が大変なんだッ! すぐ来てくれッ!」

 少年兵モーフが部屋に飛び込むなり、呪医の手を掴んで引っ張る。呪医セプテントリオーは、ゲリラから目を逸らしてモーフに聞いた。

 「店長さんが……? どうされました?」

 「朝飯どころじゃねぇ、急いでくれッ!」

 モーフはロクに返事もせず、呪医を連れて行く。片腕のゲリラが、呼び止めようと勢いよく立ち上がった。途端に目眩(めまい)を起こしてベッドに倒れる。湖の民の葬儀屋がゲリラの靴を脱がせ、足を引っ張ってベッドに乗せた。


 「あ、そうだ。葬儀屋のおっさん、庭でオリョールさんが呼んでる」

 少年兵モーフは、戸口で振り返ってそれだけ言うと、呪医の手を引いて廊下を駆けて行く。クルィーロは思わず、メドヴェージと顔を見合わせた。



 さっき、クルィーロとメドヴェージ、葬儀屋アゴーニと警備員オリョールで、治療を終えても意識が戻らない負傷者をここへ運び、一旦、庭へ出のだ。

 三人目は気を失ったままだが、片腕を失った男は意識を取り戻した。

 「じゃ、俺、もういいよな」

 オリョールが軽い調子で言って廊下の奥へ行く。葬儀屋アゴーニが、一人で片腕のゲリラに肩を貸して病室へ連れてきた。

 警備員オリョールがその後、いつの間に庭へ出たのか、三人は全く気付かなかった。



 「なんだありゃ?」

 「庭にゃまだ嬢ちゃんたちが居たろ」

 「えっ? あ、あぁ、そうでしたね」

 メドヴェージに聞かれ、クルィーロは思わず頷いた。レノの身に何があったか気になるが、呪医セプテントリオーと少年兵モーフが行ったなら、多分、何とかなるだろう。


 それより、庭には薬師(くすし)アウェッラーナと針子のアミエーラだけでなく、アミエーラを襲ったおっさんゲリラが居る。少量とは言え、ゲリラの肺に水を流し込んでまともに動けないようにした。だが、流石に三人だけにしたのはマズい。

 クルィーロは自分の迂闊さに歯噛みした。


 「イヤな予感がする。行くぞ」

 メドヴェージに肩を叩かれ、クルィーロは葬儀屋アゴーニと三人で庭へ走った。



 薬師アウェッラーナと針子のアミエーラは無事だ。さっきと同じ花壇の縁で、膝を抱えて(うつむ)く。


 「葬儀屋さーん、こっち、こっちー」

 庭園のまんなかで、警備員オリョールがにこやかに手を振る。葬儀屋は数歩進んで足を止めた。


 オリョールの足下に肉色の小山があった。衣服の残骸で辛うじて、アミエーラを襲ったゲリラの成れの果てだと覗えた。

 女性二人は無言で俯いて動かない。


 「敵は始末したから、もう大丈夫だよ」

 「敵って、スパイでも入り込んでやがったのか?」

 メドヴェージの問いに警備員オリョールは首を振った。

 「そんな上等なモノじゃないよ。タダのケダモノだ」


 肉塊は一人分にしては大きい。

 オリョールは一体、何人を敵として始末したのか。


 クルィーロはぞっとして、それ以上動けなかった。

 葬儀屋アゴーニが、気を取り直して歩みを進める。


 「あー……嬢ちゃんたち、そろそろ暑いだろ、中へ入ろう」

 メドヴェージに声を掛けられ、薬師(くすし)アウェッラーナが顔を上げた。震える声で呪文を唱え、壺の中身を再沸騰させる。

 森からの風が香気を散らし、血腥(ちなまぐさ)い庭に行き渡らせた。香気では血の臭いを上書きできず、混じり合って漂う。


 薬師アウェッラーナが、警備員オリョールが立つ場所から目を逸らしながら、針子のアミエーラに肩を貸して立ち上がらせた。


 「えーっと……取敢えず、寝室へ行こう」

 他に安全な場所を思いつかず、クルィーロは二人を促した。



 食堂の前を通りかかると、呪医に香草の束を渡された。クルィーロは無言で受け取って中を覗く。

 呪医セプテントリオーの他は誰も居ない。

 「あの……みんなは……?」

 「寝室です」

 香草茶の濃密な香気が立ち込めるが、パンの焼ける匂いはなかった。

☆正規軍の代わりにアーテルの空軍基地を潰しに行った件……「0459.基地襲撃開始」~「0466.ゲリラの帰還」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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