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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十九章 進攻

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0464.仲間を守る為

 少年兵モーフは、初めて向けられた問いに頭が真っ白になった。


 ……何の為って?


 武闘派ゲリラの活動に参加しなければ、タダでは済まさないとピナたちを人質にして脅したのは、オリョールの仲間たちだ。あの時、オリョールは部屋に居なかったが、あんな連中を束ねるのだから、きっと同類なのだろう。


 戦うように仕向けたのはお前らのクセに、とモーフの目が尖る。

 警備員オリョールは、少年兵の視線をまっすぐ受け止め、静かに言った。


 「あいつらの恫喝を止められなかったのは悪かったよ。俺が聞きたいのは、そう言うのじゃないんだ」

 「じゃあ、何だよ?」


 窓の外では断続的に閃光が走り、腹の底に砲撃の音が轟く。


 アーテル空軍のアクイロー基地では、まだ、ネモラリス人のゲリラと魔獣、アーテル軍の三つ巴の戦いが続く。

 ソルニャーク隊長たちの部隊は半分が魔法使いだが、パーリトルの隊は十人中九人が力なき民で、その半分は訓練が不十分な新入りだ。


 戦力の偏りが酷い。

 陽動部隊が加勢しなければ、パーリトルの部隊が全滅するのは目に見えていた。


 「君とあの隊長さんは、キルクルス教徒なんだろ?」

 少年兵モーフは返事に詰まった。



 移動販売店の誰かが、口を滑らせたとは思えない。キルクルス教徒の仲間だと知られたら、復讐心に燃える武闘派ゲリラに何をされるか、知れたものではなった。



 モーフの沈黙に、魔法使いの警備員は小さく溜め息を()いた。

 「君みたいな子供が銃の扱いに詳しいのって、自治区の自警団か何かやってたからだろ? あの隊長さんは、君の部隊の隊長さんで」

 「うん、まぁ、そんなようなモンだ」

 少年兵モーフは諦めて肯定した。下手な言い訳をして、ピナたちまで疑われても困る。


 力ある陸の民のオリョールは座り直し、背筋を伸ばして聞いた。

 「キルクルス教徒の君たちが、フラクシヌス教徒や湖の民、魔法使いと行動を共にして、戦う理由は何だ?」

 「……」


 「あいつらに脅されたって、フラクシヌス教徒の女の子がどうなろうと、知ったこっちゃないハズだろ?」

 「そんなコトねぇよ」

 思わず反論し、モーフは自分の声にしまったと息を飲んだ。


 魔法使いの警備員オリョールは、少年兵モーフの(かたわ)らの窓から外へ視線を向け、相変わらず穏やかな声で言う。

 「(とが)めてるワケじゃないんだよ……俺たちは、呪医(せんせい)に何度も止められてたけど、復讐の為にゲリラ活動をやめなかった……その内、キルクルス教徒を殺すのを楽しむような(ヤカラ)も現れた」

 「ピナたちを人質に取った奴らか」


 「うん。これまでは、武器の扱いに失敗したフリで、そう言う……祖国に帰らせちゃダメな感じの人たちを、ついでに始末してたんだけど」


 少年兵モーフは耳を疑った。

 顔に出てしまったのだろう。警備員オリョールは苦い笑いに口許を歪めた。

 「人殺しを楽しむようになっちゃ、人として終わりだよ。魔獣と変わらない」


 「兄ちゃん、あんたは違うってのか?」

 「どうだろうな? 俺にもその内、(バチ)が当たると思うけど、今のところは……生きてる限り、この活動はやめないよ」


 ……この活動?


 アーテル軍への襲撃だけを指すのではなさそうだ。

 少年兵モーフが質問するより先に、魔法使いの警備員オリョールが答えを口にした。


 「個人でアーテルへ復讐しに行く人……人殺しを楽しんでる連中を集めて、アーテル軍にぶつけて潰し合わせてるんだ」


 老婦人シルヴァが、力ある民は勿論(もちろん)、力なき民でも、ネモラリス共和国の焼け跡で治安を乱す者に声を掛け、ゲリラとして拠点へ連れて来る。

 アーテル軍に一矢報いてくれるなら重畳(ちょうじょう)。返り討ちで死んでも、その分、祖国の治安はよくなる。


 「ジャーニトルは、復讐はもうヤだって言ってるけど、正規軍が動かない分、自分の手でアーテルの戦力を削ってネモラリスを守りたいから戦ってるんだ」


 ……でも、やってるコトは……一緒だよな?


 戦う目的が違うからと言って、それがなんだと言うのだ。


 空襲に遭った街から連れて来た暴漢と行動を共にして、アーテル領内を荒らし回る。アーテル人からしてみれば、湖の民ジャーニトルと他の武闘派ゲリラには、何の違いもないだろう。

 少年兵モーフの頭の中は疑問符でいっぱいになった。


 「君は、何の為に戦ってるんだ?」

 「ピ……な、仲間を守る為だ」


 「仲間? 魔法使いやフラクシヌス教徒も?」


 フラクシヌス教徒の魔法使いオリョールが、面白そうに身を乗り出した。口許は微笑のままだが、目には今にもこぼれ落ちそうな涙が揺れる。


 力なき民のキルクルス教徒モーフは、若い魔法戦士の涙を(いぶか)りながらも、きっぱり答えた。



 「仲間だ」



 「仲間なんだ?」

 「みんなが俺をどう思ってるか知らねぇけど、俺の方は、そう思ってる」

 オリョールが次々と質問を浴びせる。

 「どうして?」

 「空襲からこっち、ずっとみんなで助け合って生きてきたんだ。あん中の一人でも欠けてたら、今まで生き延びらんなかったろうな」


 「小学生の女の子たちも?」

 オリョールの吐息が揺れる。モーフは力強く頷いた。


 「チビ二人が中心になって作った歌がなきゃ、客が来なかった。クッキーとか売りモン並のが作れるし、食える草も色々知ってた」

 モーフは、移動販売店見落とされた者(プラエテルミッサ)の一人一人が、どんな役割で、どんな風に助け合ってきたか語った。


 「ピナが居なきゃ、客が寄りつかなくて商売あがったりだ。

  店長が居なきゃ、まともな食いモンにありつけなかった。

  メドヴェージのおっさんが居なきゃトラック動かせねぇ。

  隊長が居なきゃ、運河で悪い奴らに殺されてた。

  針子のねーちゃんが居なきゃ、着るモンに困ったし、薬草とか運ぶ袋もなかったし、あの橋を通れなかったかも知んねぇ」


 魔法使いの警備員オリョールは、口を挟まず、一人一人の役割に頷きながら耳を傾ける。


 「薬師(くすし)のねーちゃんが居なきゃ、焼魚食えねぇし、怪我した奴らは死んでた。

  ローク兄ちゃんが居なきゃ、缶詰食えなかったし迷子ンなって野垂れ死にだ。

  工員の兄ちゃんが居なきゃ、ピナたちはもしかしたら死んでたかも知ンねぇ。

  ラクリマリス人のあいつの情報がなきゃ、この作戦もっと不利だっただろ?」


 モーフが、自分を除く移動販売店見落とされた者(プラエテルミッサ)の十一人について語り終えた。力ある陸の民の警備員オリョールが、少年兵モーフが語った仲間の説明に首を傾げる。


 「呪医(せんせい)と葬儀屋さんは、君の仲間じゃないんだ?」


 「う~ん……色々助けてくれるけど、一緒に旅してねぇからかな? 仲間って感じじゃねぇな」

 「二人が湖の民だから……じゃなくて?」

 「ん? その理屈でいったら、薬師(くすし)のねーちゃんが除けモンになるじゃねぇか」


 薬師アウェッラーナは湖の民だ。見た目はピナより少し年上で、近所のねーちゃんアミエーラより年下に見えるが、半世紀の内乱中に生まれた長命人種でもある。


 「あのねーちゃんは仲間だよ……俺が、ねーちゃんにどう思われてるか知ンねぇけどよ」

 「本人に確かめてないんだ?」

 「別にいちいち聞くこっちゃねぇだろ?」

 「そうかな?」

 「あのねーちゃんは、俺がキルクルス教徒だからって、除けモンにしねぇで焼魚分けてくれたんだ」

 「薬師(くすし)さんは、君がキルクルス教徒ってコト、知ってるんだ?」

 少年兵モーフはこくりと頷いた。


 ……知ってるどころか……空襲じゃなくて、俺たち星の道義勇軍がねーちゃん()焼いて身内を殺したのも、全部知ってて……それでも、助けてくれたんだ。


 改めて言われ、あの冬の日のことが少年兵モーフの身を刺す。苦い問いが薄い胸に込み上げた。


 ……何でだよ?


 「わかった。じゃあ、行こう」

 警備員オリョールは、腕時計に目を遣り、立ち上がった。

☆ピナたちを人質にして脅した……「0360.ゲリラと難民」「0361.ゲリラと職人」参照

☆あの橋を通れなかった……「0307.聖なる星の旗」「0308.祈りの言葉を」「0312.アーテルの門」「0313.南の門番たち」「0314.ランテルナ島」参照

☆チビ二人が中心になって作った歌……モーフは言わなかったが、その歌の動画で莫大な広告収入が入り、運び屋にラクリマリスへの【跳躍】代を払えた。「0324.助けを求める」「0325.情報を集める」「0412.運び屋と契約」参照

☆全部知ってて……それでも、助けてくれたんだ……「0011.街の被害状況」「0012.真名での遺言」「0013.星の道義勇軍」「0038.ついでに治療」「0045.美味しい焼魚」「0046.人心が荒れる」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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