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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十九章 進攻

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0449.アーテル陸軍

 湖の民の運び屋フィアールカが、タブレット端末にほっそりした指を走らせる。呪符屋と呪医セプテントリオー、ファーキルを緑の瞳で順に見て、静かな声で告げた。

 「たった今、入った情報よ。アーテルの陸軍が、戦車部隊を派遣したわ」

 「えっと……どこに?」

 ファーキルの質問が震える。呪符屋の店主と、元軍医の呪医セプテントリオーに緊張が走った。


 「ラクリマリス王国よ」

 「は? 何でだよ?」

 呪符屋が半笑いで聞く。


 「行方不明になってた魔哮砲……アーテル軍が魔法生物だって言ってた例のアレが、モースト市の近くの森でみつかったんですって」

 「だからって、戦車なんか出してどうすんだ? ホントに魔法生物ってんなら、そんなモンじゃ倒せねぇコトくらいわかンだろ」

 「ラクリマリス王国にも、宣戦布告したのですか?」

 「さぁ? まだみたいだけど、何か勝算があるから戦車出したんじゃない?」


 ファーキルは、湖の民の長命人種三人が交わす言葉に呆然と耳を傾けた。


 「勝ち目があるって? 冗談だろ? この辺でラクリマリスに喧嘩売っちゃ、他のフラクシヌス教国が黙っちゃあいねぇ」

 「ラクリマリスに直接の戦力として加勢しなくても、アーテルとの輸出入を全部止めて兵糧攻めにされたら、本土の人たちはひとたまりもないわよねぇ」

 「今すぐ、南の大橋を封鎖すれば、まだ、間に合うのではありませんか?」

 呪医セプテントリオーが言うと、ランテルナ島民の二人は目を丸くして顔を見合わせた。


 フィアールカが、からかうような調子で言う。

 「呪医(せんせい)、もう忘れたの? 【飛翔する蜂角鷹(ハチクマ)】が建てた壁で、戦車の砲撃なんて防げるワケないでしょ?」

 「一般の暴徒が相手で、バスや乗用車くらいだったら、先頭の何台か止めりゃ、後は楽勝だが、戦車砲を何発も喰らわされたんじゃ、それだけで効力が切れちまうぞ」

 島民二人の言葉で、呪医セプテントリオーは項垂(うなだ)れるように頷いた。


 ……ミサイルでもダメだったのに、戦車でどうする気なんだ?


 ファーキルにはアーテル軍がヤケクソになったとしか思えなかった。

 当たり前のことだが、ラクリマリス王国は、戦闘機の領空通過を許可しない。戦車部隊をネーニア島に上陸させれば、理由が何であれ、ラクリマリスも参戦するだろう。

 北ヴィエートフィ大橋の守備隊は、魔獣の群にやられたが、後任の部隊は配置された筈だ。

 それに、力なき民だけで編成されたアーテル軍では、実体のない魔物には対抗できない。ツマーンの森で魔哮砲を捜すなど自殺行為に等しい。



 湖の民の長命人種三人は、キルクルス教徒の陣営が半世紀の内乱中、力ある民相手にどんな戦い方をしたか、イヤな思い出を語り合う。

 「また、毒ガスなどの化学兵器を使う気なのでしょうか?」

 「さぁな? 標的がネーニア島に居るから、この島は通過するだけってんなら、何もしないで通した方が、死人は少なくて済みそうだぞ?」

 「それに、自分たちが攻撃されれるワケでもないのに、ラクリマリスを守る為にわざわざ危険を冒す人が、どれだけ居るかしらね?」

 「ですが、ラクリマリス軍が反撃した場合、最も近いアーテル領はこの島です。早晩、戦闘に巻き込まれるのに変わりないと思いますが」

 呪医の言う通りだと思い、ファーキルは小さく同意を示した。


 フィアールカが、とんでもないと言いたげに首を振る。

 「アーテル軍を止めようとして、押し切られたら、どうなるかわかってる?」

 「島民全部が力を合わせたって、持久戦に持ち込まれりゃ、勝ち目はねぇ」



 ランテルナ島民全員が、アーテル軍を食い止めることに同意するとも思えない。いや、何の利益にもならないのに、道義の為だけに命懸けで戦う者は(まれ)だろう。


 ファーキルも、もし、自分がランテルナ島民だったら、と考えると、アーテル軍相手に余計な波風を立てたいとは思えなかった。

 最悪、ランテルナ島が、アーテル軍の空襲の対象になり兼ねない。ラクリマリス軍には敵地として攻め入られ、アーテル軍からは裏切り者……いや、元々“()しき(わざ)”を使う邪悪な者を押し込めた島だ。ここぞとばかりに攻撃されるだろう。


 ……ランテルナ島民がラクリマリスを庇ったって、いいコトなさそうだよな。


 後で、ランテルナ島がラクリマリス王国領になるとの保証でもあれば、命を懸けて戦う者も居るかもしれないが、何もなしで動く者が居るとは思えない。


 「えーっと、アーテル軍って、力なき民しか居ないんですよね?」

 「ん? あぁ。坊主、気になるか?」

 「それだったら、ツマーンの森で、魔物とかに食べられて、ラクリマリス軍と戦う前に全滅とか」

 中学生のファーキルが口を挟むと、呪符屋の店主は苦笑した。


 「あいつらでも、魔獣なら、ある程度は何とかなる。実体があって、弾が当たるからな。魔物の群と出くわしゃ別だが、街の近くなら定期的に駆除されてんだろ」

 「それでは当分、外へ薬草などを採りに行くのは控えた方がいいでしょうね」

 呪医セプテントリオーが、ファーキルに諦めた目を向ける。


 クルィーロたちはさっき、魔獣に襲われて命からがら、車道に飛び出したと言った。また、みんなの帰郷が遠のくが、島を通過するアーテル軍にみつかるのは得策ではない。


 ソルニャーク隊長たちが頼りだが、作戦が決まってからは訓練がより本格的になり、採取の時間が減ったらしい。

 アクイロー基地襲撃作戦の決行まで、あと数日だ。武闘派ゲリラたちが、採取を拒んだかもしれなかった。

☆アーテル軍が魔法生物だって言ってた……「0239.間接的な報道」「0269.失われた拠点」参照

☆ミサイルでもダメだった……「0274.失われた兵器」「0340.魔哮砲の確認」参照

☆毒ガスなどの化学兵器を使う……「0359.歴史の教科書」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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