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すべて ひとしい ひとつの花  作者: 髙津 央
第十八章 漸進

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0417.空軍の最前線

 まずは、さっきの失言を誤魔化す。

 「えーっと、逆に俺らは、魔法を使う戦い方ってのがわかんねぇから、隊長も、まだ何とも言えねぇかもしんねぇし」

 「あぁ、そう言うコトか。まぁ、そうは言っても、俺たちが元々相手してたの、人間の軍隊や犯罪者じゃなくて魔物や魔獣だったからな。全然、勝手が違う」

 「それに、魔法使いったって色々だ。俺たち【急降下する(ワシ)】は魔法戦士だが、他の……(しるし)を持ってないのは、みんな【霊性の鳩】で戦いに使える術は知らないからなぁ」

 オリョールが言うと、ウルトールもぼやいた。


 少年兵モーフが周囲を見回す。

 オリョールの命令で、見張りの二人以外は思い思いに休憩する。力ある民の何人かは、呪符職人が作った【耐暑】の【護りのリボン】を腕に巻く。暑さにやられない分、訓練が捗り、それだけでも力なき民より有利だ。


 少年兵モーフは、ゼルノー市襲撃作戦で市民病院の呪医に追い詰められた時を思い出した。【操水】を使って死体から抜き取った大量の水で壁を作り、ソルニャーク隊長の部隊を一部屋に押し込めた。

 薬師(くすし)のねーちゃんや魔法使いの工員の口ぶりでは、あの湖の民の呪医は、二人よりずっと魔力が強いらしい。一度に操れる水の量が、魔力の大きさで違うのは、この半年余りでモーフにもわかった。


 「呪医(せんせい)、昔、騎士団で軍医やってたとか言ってたぞ? 【(ワシ)】じゃねぇ術で戦うやり方も知ってんじゃねぇか?」

 「あの呪医(せんせい)は、俺たちに戦いをやめさせたがってんだ。君たちが来る前にやっと【不可視(みえず)の盾】を【霊性の鳩】のみんなに教えてくれただけだ」

 オリョールが首を横に振り、ウルトールはそれに頷いてみせた。


 ……そっか。あの時も、俺らにトドメ刺す為じゃなくて、降伏させる為に閉じ込めてたしなぁ。


 「その【盾】って、どんくらい使えるようになったんだ?」

 「まだ訓練中。一応、呪文は覚えたけど、実際に使うのはまだまだ下手だな」

 「ちゃんと使えるようになったところで、一発しか防げないから、気休めだ」

 オリョールとウルトールが小声でダメ出しする。少年兵モーフでも、自動小銃で連射されればどうしようもないのは想像がついた。


 他の連中は、どんな思いでそんな気休め程度の術を練習するのか。

 少年兵モーフはこっそり溜め息を()いたが、アーテル軍には、その気休めすらないコトに気付いた。


 ……やっぱ、魔法使いってだけで有利なんだよな。


 少年兵モーフたちも合わせて、このままの編成で基地を襲撃するなら、実動部隊は十八人。その内、力なき民は十一人だ。少し(しゃく)(さわ)るが、魔法使いの防禦をもっと上げて攻撃に専念できるようにした方が、力なき民の生存率も上がりそうだ。


 「職人さんたちが作ってる防具って、いつ頃できるんだ?」

 「さぁ? でも、俺ら魔法戦士は元から持ってるから、そんなに要らないし」

 オリョールの答えに少年兵モーフは曖昧に頷いて、最初の質問を繰り返した。


 「潰しに行く基地って、どんなトコなんだ?」

 「アーテルの首都ルフスの西、ラングースト半島の北西の端っこ。ストラージャ湾に面したアクイロー基地だ。空軍の最前線」

 オリョールの説明をうんうん頷いて聞いたものの、少年兵モーフはアーテル共和国に土地勘がなく、たくさん出て来た地名をひとつも覚えられなかった。


 挿絵(By みてみん)


 「ん? 空軍基地ってコトは、兵士を倒して武器とか分捕(ぶんど)るんじゃなくって、戦闘機壊しに行くのか?」


 ……戦車でもなけりゃムリだぞ。それともコイツら、戦車並のスゲー魔法ぶっ放せんのか?


 「流石にそこまで欲張っちゃいないよ。戦闘機や爆撃機があったって、パイロットが居なきゃ動かせないだろ?」

 「それと、管制塔を破壊できれば、当分の間、出撃できなくなる。一番の目標は管制塔。その次がパイロットだ」

 ジャーニトルが苦笑し、リーダー格のオリョールが明確な目標を告げた。


 ……なら、カンセイトーってトコに手榴弾ブチ込めば、何とかなんのか?


 それなら、力なき民のゲリラが危険を冒さなくても、魔法戦士だけ管制塔に【跳躍】して、手榴弾を投げ込んですぐ離脱すれば、無傷で済みそうなものだ。

 敵の航空戦力を無力化したいだけなら、その方がずっと効率がよく、安全だ。


 ……後であの兄ちゃんに地図見せてもらって、地形も確かめなきゃなぁ。


 イグニカーンス市の地図は、上空から見た写真のように精密で、徒歩の眼線まで降りて実際の街並も見られた。あれなら基地全体の建物の配置と、実際にどんな様子か確認できる。

 ぼやけた顔だが、街並の写真には通行人も写り込む。基地に居る兵士の写真があれば、大体の装備もわかる。


 ……あれっ? あの板がありゃ、斥候(せっこう)って別に要らねぇんじゃね?


 少年兵モーフは、流石に彼らの前でそれを口に出すのは自制した。そんな便利な物があると知られたら、取り上げられてしまうかも知れない。何もかも、ファーキルに確認してからだ。



 見張りの交代時間がきた。

 続きは拠点に戻ってからソルニャーク隊長たちも交え、改めて話し合うことにして、少年兵モーフたちは腰を上げた。

☆市民病院の呪医に追い詰められた時……「0013.星の道義勇軍」「0014.悲壮な突撃令」「0017.かつての患者」~「0019.壁越しの対話」参照

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野茨の環シリーズ 設定資料
シリーズ共通設定の用語解説から「すべて ひとしい ひとつの花」関連の部分を抜粋。
用語解説01.基本☆人種など、この世界の基本
用語解説02.魔物魔物の種類など
用語解説05.魔法☆この世界での魔法の仕組みなど
用語解説06.組合魔法使いの互助組織の説明
用語解説07.学派【思考する梟】など、術の系統の説明
用語解説15.呪歌魔法の歌の仕組みなど
用語解説11.呪符呪符の説明など
用語解説10.薬品魔法薬の説明など
用語解説08.道具道具の説明など
用語解説09.武具武具の説明など
用語解説12.地方 ラキュス湖☆ラキュス湖周辺の地理など
用語解説13.地方 ラキュス湖南 印暦2191年☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の地図と説明
用語解説19.地方 ラキュス湖南 都市☆「すべて ひとしい ひとつの花」時代の都市と説明
地名の確認はここが便利
用語解説14.地方 ラキュス湖南 地理☆湖南地方の宗教や科学技術など
用語解説18.国々 アルトン・ガザ大陸☆アルトン・ガザ大陸の歴史など
用語解説20.宗教 フラクシヌス教ラキュス湖地方の土着宗教の説明。
用語解説21.宗教 キルクルス教世界中で信仰されるキルクルス教の説明。
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