0416.ゲリラの錬度
訓練を始めて二週間余り。武闘派ゲリラの錬度は目に見えて上がった。
ここ数日は、射撃訓練を兼ねて小型の魔獣や鹿や猪などを狩る。何人か怪我をしたものの、薬師のねーちゃんが作った魔法薬のお陰で、大事に至らなかった。
魔法薬の有難みを身を以て知ったからか、薬草の採取も積極的だ。
オリョールの一声で、獲物と薬草は講師代としてソルニャーク隊長と少年兵モーフが受取り、パン焼きの工賃として、レノ店長にも森で採れた木の実などが支払われた。
レノ店長は、放送局の廃墟でしたのと同じ方法で、北ザカート市の拠点でもパンを焼く。パン職人だと知ったゲリラたちが、堅パン以外のものも食べたいと要求して、老婦人シルヴァにパンの材料を運ばせたのだ。
……こいつら、割と人生楽しんでんじゃねぇか?
少年兵モーフの眼には、彼らが何もかもを失って絶望し、自暴自棄になったようには見えなかった。
ソルニャーク隊長は武闘派ゲリラの尊敬を集め、彼らは隊長の命令に従順だ。少年兵モーフもコドモ扱いされず、一人前の戦士……教官として、それなりに扱われる。
悪い気はしないが、薄気味悪くもあった。
……油断させといて、後ろからズドン! ……なんてコトねぇだろうな?
高校生のロークも、最近やっと銃声に慣れたらしい。毒々しい色のトカゲ型の魔獣に遭遇した時のように、動けなくなるコトはなくなった。それでもまだ、引鉄を引くのに躊躇があるのか、渡した弾丸は一発も減らない。
昨日からは、練習用の模擬弾で手榴弾の投擲訓練を始めた。これは銃より気が楽なのか、すんなりできた。
……まぁ、人には得手不得手ってモンがあらぁな。
少年兵モーフは、部隊の先頭を歩きながら、作戦本番に思いを馳せた。
決行時期は、まだ知らされない。
ソルニャーク隊長と魔法戦士オリョールたちの間で、何か話があったかも知らない。多少、錬度が上がったとは言え、まだ実戦投入には早過ぎる。魔獣狩りも、命中するより外す方が圧倒的に多い。跳弾で負傷者も出た。
「なぁ、潰しに行く基地って、どんなとこにあるんだ?」
休憩中、少年兵モーフは魔法戦士オリョールに聞いてみた。彼は元々各種防禦の術が掛かった警備員の制服で、蒸し暑い森の中でも涼しい顔だ。
ソルニャーク隊長たちの部隊も、少し離れた場所で休むが、虫の声がうるさくて声は届かない。
オリョールは少し考えて答えた。
「前に比べればマシだけど、まだまだ錬度不足だからな。作戦の決行はまだ先だけど、気になるか?」
「それがわかんなきゃ、ちゃんとした作戦立てらんねぇし、地形に合わせて訓練した方が効率いいぞ」
少年兵モーフが即答すると、警備員オリョールは一瞬、目を丸くしたが、すぐ真顔になって頷いた。
金髪の警備員ウルトールも興味を示し、オリョールの隣に腰を降ろす。ウルトールの制服は、オリョールとは型が違う。所属した警備会社が違うのだろう。
少年兵モーフは、二人の魔法戦士を前に銃火器しか使えない力なき民の軍隊の戦い方を語った。
「基地は相手の縄張りだから、間取りとかはあっちの方がよく知ってる。建物を落とすなら、丸ごと爆破するんでもなけりゃ、間取りくらいはわかってた方がいいに決まってる」
「あぁ、人間相手だと待ち伏せ対策が必要なんだな。だったら、兵の配置も、把握した方がいいだろう」
土色の髪のオリョールが、少年兵モーフに頷いて先を促す。
「見張りの交代時間や巡回経路、基地の近所の地形とかもわかってた方がいい。中の間取りまではわかんなくても、最低、建物の配置だけでもわかってなきゃ全然ダメだ」
「成程なぁ。薄々そうだろうとは思ってたが、どうせ【跳躍】で入って、中ひっかき回してとっとと跳んで逃げるから、あんまり気にしてなかったんだ」
ウルトールが感心する。
……よくそれで、今まで生きてたな。
少年兵モーフは、魔法の服の防禦力の高さと彼らの運の良さに半ば呆れながら、先を続けた。
「できれば、相手の人数とか、持ってる武器とかも、わかった方がいいけど……訓練やってる間に斥候立てたりしねぇのか?」
「んー……そうだなぁ。ソルニャーク隊長とも相談してみるよ」
「隊長は、何も言ってねぇのか?」
少年兵モーフは、警備員オリョールの答えに驚いた。
……隊長、ホンキで基地攻める気ねぇのかな?
ピナたちを助ける為にあぁ言っただけで、アーテル軍と武闘派ゲリラを行き当たりばったりにぶつけて、潰し合わせる気だろうか。
少年兵モーフは、オリョールたちに余計なコトを教えた気がした。だが、言ってしまったものは仕方がない。それに、トラックを入れられる【無尽袋】が手に入れば、そこでお別れだ。移動販売店プラエテルミッサが、作戦決行までランテルナ島に居るかどうかもわからない。
……いや? ひょっとして、隊長は俺らが出てった後、コイツらだけでやるように調整してんのか?
少年兵モーフは、ますます余計なコトを口走った気がしたが、ここまで言ったからには途中で止められない。諦めて説明を続けた。
☆放送局の廃墟でしたのと同じ方法……「0125.パンを仕込む」「0127.朝のニュース」参照
☆パン職人だと知ったゲリラたち……「0388.銃火器の講習」参照
☆毒々しい色のトカゲ型の魔獣に遭遇した時……「0407.森の歩行訓練」参照




